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賢者巡礼  作者: ナハァト
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屈した訳ではない

(あっ、前足で叩こうとしているね)


 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)は飛び出すように前に出て、そのまま竜の一頭に噛み付く――いや、そのまま飲み込もうとするが、その竜はどうにか回避する。


(全然違うな、言っていることとやっていることが)


 口に出さなくて良かった。

 下手に注意を促していた場合、対応を間違えてそのままパクッといかれていたかもしれない。


(ええと……腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)の意思さん。とりあえず、攻撃方法については何も言わなくてもいい。寧ろ、混乱する)


(おかしいね。今のはそれなりに自信があったのに)


 いや、そういう問題ではないと思う。


(私の体ってのに……まあ、仕方ないね。まともな状態でないことだけは確かだし。でも、一つだけ言わせて欲しいことがあるよ)


(なんだ?)


 竜たちの陽動によって腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)に隙ができたので、火属性魔法による大火球を放って体の一部を焼き尽くす。

 ここまで臭いは届かないが、近場に居た竜たちは顔をしかめるので、キツイのだろう。

 まあ、焼けたのが腐肉だしな。

 ただ、骨までは無理だったようだ。

 放っておくと再生を始めるので、火属性魔法による大火球を続けて放――とうとしたところで、腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)が口を開けて、俺だけに向けて竜の息吹(ドラゴンブレス)を放ってきた。

 魔法中断。全力回避。

 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)は俺を落とそうと竜の息吹(ドラゴンブレス)を放ち続ける。

 それもどうにか回避。

 さすがに三回転しながら回避した時は、上下の感覚がなくなりそうになった。

 ただ、こちらには竜たちが居る。

 俺ばかり狙っていると竜たちに攻撃されるので、腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)は当たらないとわかると竜の息吹(ドラゴンブレス)をやめて竜たちの相手を始めた。


(私のことを腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)の意思さんと呼ぶのは長いだろう。もう少しこう短くしてくれてもいいよ)


(いや、今それを気にする状況ではなかったと思うが!)


(そう言われても、体の方が勝手にやっていることだしね。今の私は私が思うようにしか口にできない訳だから……あっ、こういう時に言うことがあったよね……こう……アレだよ、アレ。口は出せても――みたいな、アレ。もう少しで出てきそうなのに……出てこないというのはもどかしいね)


(……それは、手も足も出ないってことか?)


(そう! それ! あんたと話すことしかできない今の私は、正にそれだね! 私の方は意思の通りに動かせないってことだけど……あれ? こんな話をしていたかい?)


(……呼称がどうこうだったと思うが?)


(そうそう! そうだったよ! 長い呼称は面倒だろう? 私は真竜……真……シーさんでいいよ)


(あー……シーさんはもう居るな。今の竜王が銀竜だから)


(そうか。もう居るのか。さすがに同じなのは混乱を招くし、なら仕方ないか。無理強いする訳にも……そうだ! シーさんが駄目なのなら、シーちゃん、というのはどうだい?)


(………………え?)


(あ?)


(………………)


(………………)


 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)が、再び俺に向けて竜の息吹(ドラゴンブレス)を放ってくる。

 突然の行動で回避行動が遅れたが、どうにか避けることができた。

 というか――。


(これまでの攻撃には感じられなかった殺意――いや、怒気みたいなのが感じられたんだが! 今のは自分の意思で放っただろ!)


(はあ? おかしなことを言うね。私の意思で体が動かせるのなら元から動かしているし、何より先ほどのようなか細いのではなく、避けられないようなでかい竜の息吹(ドラゴンブレス)を放って当てているよ)


 いや、大きくするよりも前に、まず放たないで欲しいのだが。

 あと、戦わないようにもして欲しい。


(それで、返答は? ちなみに、それ以外にするつもりはないよ)


(……わかった。……シーちゃん)


(わかればいいんだよ。わかれば――どうやら出てくるようだよ。気を付けな)


 は? 出てくる? 何が? と思った瞬間――背後から爆発したような大きな音が響く。

 視線を向ければ、竜山の一部から大きな土煙が立ち昇っていた。

 そこから大きな何かが飛び出してくる。

 大きいからというのもあるが、何より体が輝いているので、何か――誰かは直ぐにわかった。

 飛び出してきたのは、竜王であるシーさん。

 よく見れば、その手には球体魔法陣が握られていた。

 ……いや、なんで飛び出してきた? まさか、そこまで追い詰められたのか?

 待てよ。ということは、当然あとを追って出てくる訳だし――と考え始めた時には、俺は既に動き出していた。

 大きな土煙に向かって飛んでいく。

 間違いなく、シーさんを追って出てくるはずである。

 その予想は間違っていなかった。

 三つの人影が土煙の中から飛び出してくる。

 その中での狙いはもちろん、神杖を持っているヤツ。

 直ぐに見つけ、感覚的にあの時と同じヤツだと判断して進退強化魔法を発動しながら一気に迫り――。


「とりあえず、一発殴る!」


 土煙がいい目くらましとなって、俺に気付いて神杖の障壁が張られる前に一発殴った。

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