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賢者巡礼  作者: ナハァト
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戦闘中だからです

 思わず声を出してしまった。

 いきなり小僧呼ばわりされれば、反応しても仕方ない。

 ただ、周囲からの視線がおかしい。

 なんというか、こう……いきなり何言ってんの? え? こわっ! という感じだ。

 竜たちはそんな目で俺を見ている。

 ついでに、腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)もどこか戸惑っているように俺を見ている――ように見えた。


「……いや、え? 今、誰かが俺を人間の小僧って言ったよな?」


 竜たちは顔を見合わせて確認したあと――いや、誰も言っていないな、と首を傾げる。

 言っていないようだ。

 なら、他に誰が……と俺と竜たちの視線は自然と腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)へ。

 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)は驚き戸惑っているようだ。


「「「……ははははは」」」


 まさかね、と俺と竜たちは乾いた笑い声を上げる。

 そこで腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)が動き、乾いた笑い声を上げていた竜たちの一頭が、前足で叩き飛ばされた。


「「「黄竜~!」」」


 近くに居る竜は他にも居るのだが、色的に目に付いたのかもしれない。

 まあ、叩き飛ばされただけで死んではいないようだ。

 ただ、ダメージは大きいようで、直ぐに戦線復帰は無理っぽい。

 ――そうだ。今は戦闘中だった。

 黄竜はそのことを俺と竜たちに思い出させるために、あえて叩き飛ばされたのかもしれない。

 その自己犠牲。無駄にはしない。


「行くぞ!」


 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)と戦い始める。

 戦いの流れとしては、竜たちが腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)の周囲を飛び回りつつ時折一撃を入れて離脱すると、自分たちに注意を向けさせるように陽動をかけて、隙ができれば俺が魔法で攻撃――といった形となった。

 それなりに強力な魔法を放っているが、腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)は腐肉なのに強靭だ。

 元の強さに影響でもされているのか、腐肉でありながら並大抵の魔法は通じず、高威力の魔法で腐肉部分を消し飛ばしたとしても、骨部分にダメージは見られず、さらに少し時間が経つと消し飛んだはずの腐肉部分が再生していた。

 また、おそらくだが黄竜を叩き飛ばしたし、物理的な攻撃力も相当あると思う。

 腐肉といったまともな状態ではないはずなのに、強い。

 ……どうしたものか。ここはもう、超高威力の魔法で倒すしかないか?

 そもそも、腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)が出て来たであろう大穴ができているし、超高威力の魔法で地形が変わってしまう云々はもう仕方ないと割り切って諦めてもらうしか――。


(……まさか、本当に聞こえているのかい?)


「聞こえているが、それがどうした?」


 声が聞こえてきたので、そう口にした。

 竜たちを見る。

 何言ってんだ、こいつ? みたいな目で俺を見ていた。

 一頭だけ、え? まさか聞こえた? という感じに口を押えるのが居たが、お前ではない、と違う気がした。

 竜たちでないのなら、やはり――と腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)を見る。

 にやり、と口角が上がったような……いや、勘違いかな。角度的にそういう風に見えただけな気がする。

 もし本当に上げたのなら、もう少しハッキリとわかるようにお願いしたい。

 ではなく――。


「避けろ!」


 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)が近くに居る竜の一頭を再び叩き飛ばそうとする。

 俺の声に気付いてその竜が動き出し、なんとか回避。

 そのまま竜たちは戦闘を再開する。

 さすがに二回目はな。

 しかし、これだと俺が邪魔しに来ていると思われても仕方ないと思う。

 また、変に反応するのも困るし、どういうことだ、と腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)を見る。


(ふっ。どうやら本当に聞こえているようだね。そうだよ。先ほどから声を出していたのは私だよ。今あんたたちが攻撃している竜さ。こんな腐肉の姿だけどね。ああ、わざわざ声に出す必要はないよ。きちんと私を意識して思えば届くはずさ)


(……これでいいのか?)


(飲み込みが早いね)


(なんだってこんなことに?)


(そうだね。他の竜たちには聞こえていなかったし……多分だけど、私の力とその杖との相性が良くて、それでその杖を通してあんたに声が届いているんだろうよ)


(竜杖が?)


(まあ、所詮は推測だけどね。それに、なんであろうとも声が届いていることに変わりはないんだし、なんだって構わないよ)


 豪快というか、なんというか。

 話した感じだと、高齢の女性といったところである。


(まあ、なんにしても聞こえているのなら、さっさと私を倒しな。こんな生き恥を晒すような状態はさっさと終わらせて欲しいね)


(そう思うのなら攻撃するのをやめろ)


(そうしたいところだけどね……どうにも体の自由がきかないんだよ。私の意思とは別に勝手に動いているようで――あっ、尻尾を振って弾き飛ばそうとしているね)


「尻尾に気を付けろ!」


 注意を発する。

 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)は体を回転させながら尻尾を振るう。

 注意に効果があったのか、竜たちは尻尾をかわす――が、それは想定内だと言わんばかりに腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)は回転し続けて勢いを付けた前足で竜の一頭を叩き飛ばした。


「「「赤竜~!」」」


 色的に、やってやろうと心に火が点いたのかもしれない。

 赤竜は地面を何度か跳ねて、転がり、大きな土煙を上げてからとまる。

 ピクピクしているので生きてはいるようだ。

 思いのほか、頑丈で良かった。


(――いや、そうじゃなくて、本命の攻撃が別にあるのなら、そっちも言ってくれないと!)


(う~ん……なんかちょっと感覚が……こんな状態だからかね?)


(いや、こっちに尋ねられても答えようはないんだが! ともかく、下手な情報はもう言わなくていいから)


(はいはい、わかったよ。最近の若者は年寄りの話も聞いてくれないのかね)


(そういうことではないだろ!)


 戦闘中だからだ。

 しかし、本人――じゃなくて、本竜の意思とは関係なしに体が動いているのか。

 そうなると、とめるためには戦って倒すしかないということか。

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