いきなり交ざると緊張します
竜山の神殿に向かって飛んでいく。
激しい戦いが起こっているのは、近付くほどによくわかる。
何しろ、竜の息吹が何度も何か向けて放たれている――という光景が見えるのだ。
ビカビカ光って眩しい。
それこそ雨のように――とまではいかない散発的なモノだが、そもそも何発も放たれる事態というのがおかしい。
そんなに放つ必要……ある? と言いたくなる。
それだけの敵が居るということだろうか。
けれど、竜山の神殿に向かった竜の数は結構多い。大半だ。その中にはデーさんとホーさんも居るし、何よりそこには竜王であるシーさんも居る。
なのに、何度も放つような激しい戦闘が起こっているのは……普通ではないのは間違いない。
というか、なんでそんなに竜の息吹を放つんだ?
効いていない? 防がれている? ……防がれて――そうか! 読めた!
敵には神盾がある。
見たことも触れたこともないが、神と名の付く盾なのだ。
神杖の障壁の例もあるし、竜の息吹を防げてもおかしくないと思う。
つまり、神盾で防がれているから、何度も放つことになっているのでは?
きっとそうに違いない、と思ったところで様子が見えるくらいに近付いた。
えっと……竜たちが竜と戦っているな。
大迫力――いや、そうではなく、どういうこと?
輝きのない鱗の真っ黒な竜と、ああいうの……そうそう、腐肉の竜。と。
状況がよくわからないので、おそらくこの場を仕切っているであろうデーさんかホーさん――ホーさんの方が近いので、そちらに向かって聞く。
「ホーさん!」
「え? アルム? どうしてここに居るのですか? 町は?」
「町の方はもう大丈夫だから、こっちに来た! 大きな衝撃音も聞こえてきたし! それで、これは何がどうなってこうなっているんだ?」
そこが知りたい。
ホーさんは状況を軽く確認したあと、デーさんに視線を向ける。
視線に気付いたデーさんが俺を見て、頷きを返した。
「簡潔に説明します」
今ので通じ合うの? すごくない? 姉妹の絆というヤツだろうか? カーくんもこの中に入れるのだろうか? 気にな――はい。すみません。それどころではないですよね。集中して聞きます。
そうして、ホーさんから簡潔に状況の説明を受けるが……神杖を持っているヤツが居るのか。今回はきっちりと倒しておきたい。その神杖を持っているヤツが邪竜という強力な竜を召喚して、さらに腐肉の竜を出現させた、と。迷惑な。自分の力で戦えよ。それと、神盾を持つ者に、神靴を履く者か。この場に居ないのは、既に神殿に侵入されてしまったから。
「え? それってヤバいよな? 今直ぐ援護に」
「いえ、竜王なら大丈夫です。敵が神の名の付く装備を持っていようとも、球体魔法陣を守り切ってくれます。ここをどうにかする時間は稼いでくれますので――」
「ここをどうにかしてから援護に向かう?」
「はい。下手にこの場の戦力を減らすと、一気に全滅してもおかしくありません。邪竜はそれだけの相手です。それに、腐肉の竜も――」
竜の姿であっても、表情は変化する。
今のホーさんはどこか悲しそうだ。
「知っている竜なのか? というか、あんな状態なのにどの竜かわかるのか?」
「同族だから、あるいは力の性質とでも言えばいいのかもしれませんが、なんとなくわかります。ただ、直接の面識はありません。邪竜もそうですが、私が生まれるより前に存在していた竜です。話に聞いているだけですが、生前は真なる竜――『真竜』と呼ばれていた、非常に強力な竜であったと」
「物騒な名前に感じるな。まあ、状況はわかった。それで、俺はどうするのがいい?」
ホーさんをジッと見る。
俺の魔法の力の一端は見せたのだから、助力は必要ありません、というのはなしでお願いしたい。
帰れ! と言われたらどうしよう。
「……わかりました。頼らせてもらいます。アルムには、腐肉の竜の方に向かっていただけますか? 先に邪竜が現れ、そちらに集まっていたということもあって、対応する数がどうしても足りていません」
「わかった。どうにかできそうなら、どうにかしていいんだよな?」
「お願いします」
頷きを返して、地上へと向かう。
地上では腐肉の竜を相手に竜たちが戦っているのだが、確かに邪竜の方と比べて数が少なく、苦戦しているというか、どうにかこうにかこの場に留めている、といった印象である。
とりあえず、上手く交ざれるか不安だ。
いや、大丈夫。数日とはいえ、竜の町で共に過ごしたのだ。上手く交ざれるはず。
そうして、少しドキドキしながら腐肉の竜とやり合っている竜たちに近付くと――。
(今度は人間の小僧かい)
そんな声が聞こえた。
この場に人間は俺しか居ない。
なので、俺に向かって言われた訳で――。
「誰が小僧だ!」
思わず、そう口にしていた。




