サイド シーさん
ぶるり――と背中に冷たいモノが流れるように震える。
しかし、目の前――どころか周囲には誰も居ない。
我だけ。
………………。
………………。
暇だな。誰か来ないかな。敵だと面倒だけど……ではなく、震えたのはアレだ。うん。きっと、アレ。デビルさんではこう感じる前に直接的だから、ホーリーさんが何か良くないことでも考えているのかもしれない。
……いざという時は竜王権限で呼ぶ――いや、それだけだと来ないと思うから、友情を信じて助けてもらえるように、カオスを巻き込ませよう。そして、矢面に立ってもらう。相手が姉でも弟なら助けてくれるはず。うん。それがいい。そうしよう。それしかない。
カオスとは幼馴染で、幼い時からそうしてきたのだ。
怒られるなら、一緒である。
もちろん、カオスだけが悪い時は、頑張ってこいよ、と応援しながら送り出すので問題ない。
……しかし、本当に暇だな。
外はどうなっているのだろうか?
町の方で魔物大発生の迎撃が始まった、という報告を受けてから、誰も来てくれない。
できれば戦闘中の報告は逐一届けて欲しいのだが……まさか、報告ができないくらいに状況が悪い? 先ほどでかい雄叫びがあったが、それと関係があるのか?
誰か報告を……いや、待てよ。もしかして、俺だけハブられている――という可能性はないだろうか?
実はもう終わっていて……いやいや、そんな訳ない。俺。竜王。そんなことにはならない。
ただ、こうして俺しか居ない状況というのは、どうにも悪い方に考えて――誰かの気配? 報告に来たのか?
姿勢を正し、威厳たっぷりで待ち構えると……現れたのは黒いローブで姿を隠した人間?
何故ここに――いや、神靴を履いている。敵か。
「何用だ?」
一応、聞いてみた。
しかし、ここに敵が現れるということは、外はどうなっているのか気になるが――それを態度に出さないようにする。
弱みを見せる訳にはいかない。
「用件? 決まっているでしょ? 神剣を封じている魔法陣を破壊しに来たの――よ!」
神靴を履く者が駆け出し、俺を通り越して球体魔法陣を蹴り砕こうとする。
確か、神器は物によって特性があったはずだ。
神靴は、速度上昇だったはず。
だからこその速度であったが、甘い。
俺の目はしっかりとその姿を捉えているので、神靴を履く者の動きに合わせて尻尾を振るう。
当たればそれなりのダメージは与えられると思うが、神靴を履く者は尻尾を飛び越えた――ところを叩き飛ばす。
神靴を履く者は壁まで飛んでいくと、当たる直前でくるりと回って着地する。
壁に大きくヒビが走った。
ダメージは入ったと思うが、神靴を履く者の表面上にそれらしいのは見えない。
「さすがは竜王ってことね。まさか、私の速度に付いてこれるなんて」
「そこまでの速度だったか? 欠伸が出るかと思ったぞ」
「言ってくれるわね。いいわ。なら、どこまで私と踊れるか……見せてちょうだい!」
神靴を履く者が襲いかかってくる。
だが、やはりというか、狙いは変わっていない。
挑発的なことを口にしようとも、俺を倒すことよりも球体魔法陣を砕くことを優先しているようだ。
まあ、自分では俺を倒せないと判断しての行動かもしれないが……それでも、俺をどうこうせずに球体魔法陣を砕けると思っているのは……竜王が舐められている?
もしそうなら――知ることになるだろう。
竜王を敵に回すとどういうことになるのかを――と内心でカッコつけてみたり?
――と、即座に反応して、神靴を履く者を叩き飛ばす。
「――くっ!」
神靴を履く者から苦悶の声が漏れるが、今のは危なかった。
余裕がない訳ではないが、神靴の速度上昇は厄介だ。
反応が少しでも遅れると大変である。
それに、実際は叩くのではなく、掴もうとしたのだが駄目だった結果でしかない。
神靴を履く者の反応も悪くないようだ。
……面倒だな。
神靴を履く者を倒すには少しばかり時間がかかりそうだ。
誰か、助けに来ないかな?
神殿の外も大変だと思うが、そこはほら、竜王さまは竜族にとって大事なお方! 失ってはいけないかけがえのないお方だ! 賊め! 覚悟しろ! とか言って現れないだろうか?
もし今来てくれたなら、感謝する。すっごいする。満面の笑みで握手もする。これで竜王と仲がいいアピールになるから、色々と融通が利くようになるかもしれないし、まず間違いなく「自分、竜王と仲いいんだ」と話のタネの一つにはなる。
そんなこと考えながら神靴を履く者と攻防を繰り広げていると、地響きを感じた。
先ほどの雄叫びといい、外の様子が気になる。
今外はどうなっているのだろうか? 皆、無事なのだろうか?
次々と疑問は浮かぶが、答えてくれる者は居ない。
いっそのこと、神靴を履く者に聞いてみるか?
……いや、虚偽で惑わそうとしてくるのは間違いない。
やはり、誰か報告に来て欲しい――ついでに、そのまま援護して欲しいと思っていると、こちらに向かってくる気配を感じる。
現れたのは――黒いローブを羽織った人間が二人。
明らかに神靴を履く者の仲間。
何しろ、それぞれ神杖と神盾を持っているし。
「あれ? まだ片付いてなかったの?」
「うるさい! この竜が思っていた以上にやるんだよ!」
「まっ、球体魔法陣を守っているんだ。そいつは当然強い。当たり前のことだ。さっさと終わらせるぞ」
神靴を履く者が構える。
神杖を持つ者と神盾を持つ者も構える。
なるほど。ここからは一対三か………………一対一を三回行うのでは駄目だろうか?
味方が来るのを、切実に待っています。




