比べるとどうしてもってモノはあるよね
冒険者登録したということで、冒険者活動を行うこともあった。
もちろん、Fランクという最低ランクなので、行うこと――受けられる依頼は、王都内の荷物運びや薬草採取など危険が少ないモノばかりだ。
でも、それで充分。
俺の身体能力自体は大したことないし、一人で冒険者活動を行うにはFランクがもっとも適していると言える。
それなりに体を鍛えることもできるし、最近は食事量も増えてきた。
俺の見立てだと、次を受け継げるようになるのは、もう少しといったところだと思う。
今日受けた依頼は薬草採取。
竜杖で王都近くにある森に向かう。
マジックバッグもあるし、薬草はたくさんあって困ることもないだろう。
報酬は歩合制だし、たくさん摘んだ方がいいのは間違いない。
……いや、待てよ。
たくさん摘むとそれだけ腰に大きなダメージを負って腰痛になるかもしれない。
それに、冒険者ギルドの方ですべて保存できないかもしれないし……ほどほどにしておくか。
そう考えながら森の中で薬草採取を行っていると――ガサリ、と背後で何かが動く音が聞こえる。
咄嗟に竜杖を構えて振り返ると、そこに居たのは、犬頭で人のような体型を持つ魔物――コボルトが居た。
「コボルトッ!」
身構える。
まだ距離はある。
魔法を放てば……最悪森を焼失させることになるが……命には代えられない。
関係各所に迷惑をかけることになるが……謝って許されるだろうか?
でも、死ぬ訳にはいかないから……どうにか半焼くらいで終わるように魔力操作を頑張ろう。
先手必勝と魔法の詠唱を始めようとした時、気付く。
「……あ、ああ……俺が……わかるのか……あああああ……」
コボルト、泣いていた。
「うっ……ぐす……悪い、泣いちまって……そうだよな。俺は魔物。あんたは人間だ。……うう……さあ、やろう……俺たちは、戦う運命にある……うう……」
涙を拭いながら、コボルトがそう言って構える。
いや、涙がポロポロと出続けているが?
というか、また喋る魔物か。
どうしたものかと思っている間もコボルトは泣き続け、遂には崩れ落ちて大きく泣き始めた。
……なんか、そう泣かれるとやりづらい。
―――
泣き続けるコボルトを放置して、薬草採取を続ける。
すると、少しだけ落ち着いたのか、コボルトが話しかけてきた。
「あの……驚かないんですね」
「ん? ああ、喋ることか? 何度かそういうのに出会っているからな」
スライムとかゴブリンとか。
というか、喋りながら採取するの難しいな。
痛めないように気を付けないと。
「普通に受け答えてくれる……ああ……」
また泣き始めた――が、言葉に気になる部分があったので採取を続けながら尋ねる。
「受け答えてくれるってなんだ?」
「……うう……」
駄目なようだ、と思ったが、コボルトはポツポツと話し出す。
「喋れる、ということは……わかる、ということ……」
「……はあ」
とりあえず頷いておく。
「だから……わかった……俺……いや、俺たちコボルトって……なんか影が薄くないですか?」
「……は?」
思わず手をとめて尋ねる。
コボルトの表情は泣き顔ながらも至って、真面目だった。
「スライムやゴブリンに比べて、影……薄いんですよね、コボルトって」
「……そうなのか?」
「そうですよ。同じく最弱認定されているのに、スライムは意外性があったり、妙に強い個体が居るとか、その種類は多種多様で使い道が色々あったりしたりします。ゴブリンだって個体は弱いが数の暴力、その繁殖性は警戒されていて、中にはキングやウィザードと呼ばれる恐ろしい存在まで居る。コボルトだってそういうのが居るのに……あまり知られていない……同じ最弱なのに……」
ああ~、なるほど。
確かに、そういう存在を耳にするかどうかと問われると……スライムやゴブリンに比べるとまったくと言っていいほど聞かない。
いや、居るんだろうけど……そういえば、冒険者ギルドでもスライムやゴブリンに関する注意は受けたけど、コボルトに関しては……。
「思い当たるって顔していますね……」
「いや、まあ……その、な」
「わかりますよ。本当に、コボルトって影薄いですから。きっとその内『ほら、あれ……犬頭の……なんだっけ?』とか言われるような存在になるんですよ」
自虐的な笑みを浮かべるコボルト。
相当追い詰められているように見える。
あっ、だから、俺がコボルトって反応した時、わかってもらえて嬉しくて、それで泣いたのか。
「まあ……仕方ないですよ。犬の魔物として有名なのはケルベロスさまですから。コボルトなんて……うう……どうしたらいいと思いますか?」
「いや、俺に聞かれても」
「ですよね……」
項垂れるコボルトが、喋るスライムとゴブリンに重なり……仕方ない。
俺は独り言のように言う。
「詳しいことは知らないが、どこかに魔物の村があって、そこに居るパネェ神官は転職させることができるらしい」
いや、本当に詳しいことは知らないが。
すると、コボルトがゆっくりと俺を見て目を輝かせる。
「ほ、本当にそんな神官が?」
「あくまで噂だ」
情報元がスライムとゴブリンって知ったら落ち込みそうな気がする。
「その神官に会えれば……もっとコボルトの存在感が増すってことですか! スライムやゴブリンよりも!」
いや、それはちょっと難しい……というか無理だと思う。
絶対的な差があるからな。
「ありがとうございます! このご恩は絶対忘れません! 早速捜してみます!」
まあ、人と魔物という普通は殺し合う仲だ。
口にはしないが……まあ、頑張れ。
「あっ、採取手伝いましょうか? これでも鼻と掘ることには自信があります」
……腰が痛くなりそうだったのでお願いして、終わればこの場で解散。
新たな希望を抱いたコボルトの足取りは軽かった。
これがのちに、「姿なき暗殺者」の異名を授かるコボルトとの出会い……にはならないか。
影がさらに薄まっているし、コボルトの希望と違う。
まっ、いいか、と王都に戻った。




