できるからそうしただけ
報告にあった通り、魔物たちは発見された日から二日後の朝、竜の町から見える森の中から姿を現わした。
魔物たちはその場で留まるなんてことはなく、竜の町に襲いかかり――森側の新たに作られた分厚い土壁に突き刺さる。
そう、突き刺さったのだ。
二日前に俺が森側に分厚い土壁を作り出したあと、デーさんとホーさんは強度を確かめてこれなら問題ないと判断したあとに、まずデーさんが――。
「なるほど。これなら……だが、登ってくる魔物も居るかもしれない。だから、こう……上の方を、外側に反らすような形にできないか?」
そう言われ、できるのでそうする。
うんうん、とデーさんが頷いた。
すると、今度はホーさんが――。
「これで登り切ることはできないと思われますが……形を変える――いえ、全体ではなく一部でいいのですが、できますか?」
できるかできないかで言えば、できる。
なので、断れない。
ホーさんの指示通りにやった結果――巨大な土壁の下部分は鋭利な棘がいくつも飛び出している形となり……凶悪さが増した。
その鋭利な棘に、魔物たちが突き刺さったのだ。
正確には、先頭を行く魔物たちは棘が見えてとまろうとしたが、うしろからの勢いに押されてそのまま――という形だろうか。
ともかく、棘だけではなく壁の上部が反り返っていることから、魔物たちはこれで森側から襲いかかることができない。
土壁を破壊しようとするが、棘が邪魔というだけではなく、そもそも並大抵の攻撃では傷一つ付かない強度であるため、魔物たちではどうしようもなかった。
ここからどうこうは断念するしかないと、魔物たちは山側へと向かうが――そちらにも巨大な棘付き土壁がある。
そう。竜の町は巨大な棘付き土壁に覆われているのだ。
『………………』
うそん……と魔物たちが一瞬呆けた。
その姿は間抜けっぽい。
これについては、俺の魔力は豊富であるし、どうせならとやった。
安全性が向上するならしない手はない。
しかし、魔物たちはいつまでも呆けている訳ではなく、あることに気付く。
すべてが覆われている訳ではない、ということを。
そう。門付近といった一部は覆われていないのだ。
なので、魔物たちはそこに集まる。そこから襲いかかるしか手はないのだから。
ただ、これは意図的である。
覆われていない部分に向かった魔物たちを待ち構えていたのは――竜たち。
生身で戦う竜も居れば、武装している竜も居る。
待ち構える竜たちを抜かないと、竜の町の門には辿り着かないのだ。
しかし、それは難しいと言える。
「はははははっ! よく来た! 魔物共! さあ、かかってこい! 俺がすべて倒しつくしてやる!」
「だが、いくらなんでもこの数だ! お前の強さはわかっているが、気を付けないと――いや、留意しないと危ないぞ!」
「竜だけに、な!」
緑竜と青竜が居るのだが、それなっ! と互いを指差す。
他の竜たちは真面目に戦っているのだから、お前たちも真面目にやれ、と言いたい……いや、こういう時でもブレない胆力を褒めるべきかもしれない。
ただ、それが原因かどうかはわからないが、そんな緑竜と青竜の足元を数体の魔物が駆け抜けていく。
竜の町の門まで近付かれたが、問題ない。
門や壁の上には魔法や弓矢といった遠距離攻撃が行える者たちが待機しているし、門の前には人の姿となっている竜や、普通に武装した人が待機しているので、魔物が数体抜けてきても為す術なく倒される。
魔物たちが竜の町の中に入ることはない。
ちなみに、竜の町に元から居た魔物たちは、町の中で待機中である。
理由は一つ。間違って攻撃してしまうかもしれないから。乱戦みたいなモノなので仕方ない。
ただ、先ほどの緑竜と青竜についてはデーさんとホーさんも見て笑みを浮かべていたので、このあとどうなるかわからない。
竜の姿なので、その笑みが余計に怖く……いや、なんでもない。
緑竜と青竜は、今見る姿が最後にならないことを切に願っておく。
あと、俺もここに残って戦うことにした。
巨大な棘付き土壁の補修とかあるかもしれないし、念のため。
状況次第では竜山の神殿の方に向かうつもりだけれど。
ともかく、これで竜の町の方は万全である――と判断したデーさんとホーさんは――。
「大丈夫そうだな。町の方はアルムに任せる。助かった!」
「ありがとうございます。この町のこと、よろしくお願いします。あと、緑竜と青竜にはあとでお話しがあると伝えておいてください」
俺にそう言って、多くの竜を連れて竜山の神殿の方に飛んでいった。
………………。
………………。
竜山の神殿の方にも何かした方が良かっただろうか?
でもなあ、一方通行の神殿だったし、竜王による守りだし……俺がその場に居るならまだしも、居ないのなら特にやっておくようなことはないような……いや、あるような、やっぱりないような……まっ、結構な数の竜が向かったし、何が来ても大丈夫だろう。
寧ろ、こっちだ。
任されたのだから、しっかりと竜の町を守らないといけない。
そう意気込んで、俺は隣を見る。
「………………」
「いや、その……な……すまんかった!」
黙っていると、アブさんが謝罪の言葉と共に頭を下げる。
まあ、気持ちはわかるので、俺が言うことは一つ。
「……行くよ! アブさん! この町を守るために!」
「あ、ああ! 守ってみせる!」
アブさんと共に、魔物たちが居る場所の上空に向けて飛んでいく。




