そろそろ動こうかと思います
その報告を聞いたのは、お世話になっているデーさんとホーさんの家のリビングだった。
昼食を一緒に取っていた時なのだが……まあ、もうそれなりに慣れたモノで、デーさんとホーさんとは普通に話すことができるようになっている。
談笑くらいはできるようになっていた。
いや、そうではなく。
報告を届けにきたのは武装した竜の一頭で、まずデーさんが家の外で聞き、それを俺とホーさんはリビングで食後の紅茶を飲みながら聞いた形だ。
最初に見つけたのは、警戒として竜の町の周辺を飛んでいた竜の一頭だった。
竜の町から少し離れた森の中。
そこで何を見つけたかと言えば、魔物の群れ。大きな群れ。わかりやすく言えば、魔物大発生。
魔物の種類は多種多様。その上、その規模は非常に大きいそうで、発見した竜がこれまで見たことがないほど、らしい。
見つけた竜が空を飛んでいたのは竜の息吹で一掃したが、それは全体からすればほんの一部でしかなく、大部分は森の中を進んで――竜の町に向かっているそうだ。
おそらく、明日の夜もしくは明後日くらいには竜の町に辿り着いて襲撃が始まる、と。
そのため、竜の町は今大急ぎで迎撃態勢を始めていた。
デーさんとホーさんも今後についての話し合いを始める。
敵の狙いは明確だ。
魔物大発生を囮として竜の町にある程度の戦力集めて、そこの隙に主力が竜山の神殿を攻める。
敵の主力は、やはり神杖、神盾、神靴を持つ者たちだろう。
だから、デーさんとホーさんの話し合う内容としては、どちらが竜山の神殿に向かうかといったモノ。
双方共、自分の方が残ると主張。平行線。
俺としてはどちらも神殿の方に行くと思っていたのだが、違うようだ。
踏み込んで聞いてみる。
「竜の町の戦力も相当だと思うんだから、任せればいいのでは?」
何しろ、竜の町だ。主戦力は竜である。
普通であれば、魔物大発生だろうと問題はない――が、デーさんとホーさんは魔物たちが森から向かってきているというのが問題だそうだ。
というのも、竜の町は森と山の境目のような場所にあるということもあって、森が非常に近い。
つまり、森は生活圏なのだ。
そして、竜は巨体である。森で戦うのに向いていない。戦えなくはないが……まあ、かなり自然破壊することになるだろう。
なので、ある程度町に近付けてから戦う必要がある、という訳である。
また、近付けるということはそれだけ危険性が高まるため、それに備えて竜の町にもそれなりの戦力が必要なのだ。
だから、自分が残るとデーさんとホーさんは主張し合っているのである。
ただ、これは互いに相手が竜山の神殿の方に行ってくれた方が安心できる、という思いからのようだ。
「私が!」
「私です!」
話し合いは未だに平行線である。
なら、ここは俺の出番だろう。
「まあまあ、ご両人……ん? ご両竜? ……まあどっちでもいいか。ともかく、デーさんとホーさん。ここは一つ、竜の町は俺に任せて、デーさんとホーさんで竜山の神殿に向かうというのはどうだろうか?」
そう提案してみる。
「「………………」」
デーさんとホーさんが俺を見る。
その目は見定めるようなモノで……少し落ち浮かない。
こういう時、どうすればいいのだろうか。
何か声をかけた方がいいのだろうか? それとも、見定められている訳だし、力強い何かをアピールするべきなのだろうか?
こう……魔法を放つように竜杖でも突き出してみるか――と考えてやってみようかな、と思ったところで、デーさんとホーさんが口を開く。
「確かに、ラビンからの紹介状には頼っていいと書かれていたが……」
「そうですね。実際に戦闘をしている姿を見た訳ではありませんし、お気持ちは嬉しいのですが」
断られる。
ただ、これは別に俺を侮っているとかではなく、俺がどれだけ戦えるかわからないため、不確定要素に頼りたくない、といったところだろうか。
だったら、俺が見せればいいだけである。
「わかった。とりあえず、アレだろ。魔物たちが森からきて、森を戦場にするのが良くない。つまり、魔物たちを森側から攻めさせるのではなく、山側から攻めさせるようにすればいいってことだろ? ということは、この町の森側の防御を厚くすれば、自然と魔物たちは山側から攻めてくることになる訳だ。そうすれば、山側に戦力を集めればいいだけで済み、デーさんとホーさんが竜山の神殿の方に行けるようになるってことだよな?」
それで合っている? と視線で尋ねれば、デーさんとホーさんから頷きが返される。
だったら、簡単だ。
デーさんとホーさんを伴って、竜の町から出て――森側へ。
竜の町も他の町と例外ではなく、高い壁に囲まれているが絶対ではない。
魔物大発生のような魔物の大群が相手となると心許ないというか、直ぐではないが、砕かれるのにそう時間はかからないだろう。
だから――。
「『黄覆 集いて頑強 密接して強固 すべてを断ち塞ぎ一切の侵入を防ぐ 土壁』」
竜の町を囲う高い壁の森側すべてを、巨大で分厚い土壁で覆う。
魔力増し増しで土壁を形成したので、相当頑丈だ。それこそ、竜の息吹でも容易に砕けないくらいに。
「これで、魔物たちは山側からしか攻められなくなる。つまり、竜たちが力を発揮できると思わないか?」
驚いているのか、黙って土壁を見ているデーさんとホーさんに向けて、そう口にした。




