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賢者巡礼  作者: ナハァト
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あと一歩踏み込めば

 竜の町で過ごしている間に思ったのは、思いのほか普通の町だということだ。

 町の中を歩いていると、よくわかる。

 建物だって他のところと変わらないし、道行く人たちも――。


「「ウィッス!」」


「おう!」


 最初に出会った緑竜と青竜が居たので、軽く挨拶を交わす。

 おそらく、これから見回りに向かうのだろう。

 ……うん。訂正。普通ではない。いや、ここではこれが普通。……普通って?

 ………………。

 ………………。

 なんか頭の中がぐるぐるするので考えることをやめる。

 要するにアレだ。普通だと思えるくらい、ここに竜が居ることは自然なのだ。

 人だけではなく竜も歩いているし、全部という訳ではないが、屋台だけではなく竜がその姿のままで利用できるお店もある。

 それに、極少数だが友好的な魔物も居るのだから、少なくとも普通の町ではない。

 ただ、竜という存在が居るからこそ、だろうか。

 狙われている場所は竜山の神殿だが、ここも襲撃されてもおかしくない。

 あの黒ローブなら、喜んで被害を広げそうだし、何より襲撃場所を分散することでこちらの戦力を分けることにもあるのだから……まあ、間違いなく竜の町も襲撃されるだろう。

 それはわかっているだろうが、この町住民たちに慌てた様子は一切ない。

 いつでもかかってこい、という気概も感じられた。

 しっかりと厳重警戒中だからというのもあるだろうが、やはり主力となるのが竜たちだから、だと思う。

 全体数はわからないが、結構な数の竜が居るようなので、かなりの戦力なのは間違いない。

 それこそ、一つの町の戦力ではなく、国に匹敵――いや、それ以上の戦力ではないだろうか?

 ……あれ? もしかして俺必要ない?

 いやいや、そんなことはない。きっと何かあるはず。

 俺がこの町でできることを考えながら歩いていると――。


「………………」


 とある建物の前でもじもじしている全身鎧を見かける。

 その建物の中に入りたいが迷っている、といった感じだろうか。

 通り過ぎる際にその建物を見る。

 ――「喋る全身鎧(リビングアーマー)の結婚相談所」という看板が掲げられていた。

 ほぉ~ん……という感じで素通りして………………駆け足で戻る。

 看板をもう一度確認して……思い出す。

 もしかして、天塔(ヘブンタワー)がある三柱の国・ラピスラに向かった時に道を示してくれた全身鎧だろうか?

 確認してみる。

 ………………。

 ………………。

 そうだった。あの時の全身鎧だった。

 無事にここまで辿り着いて、パネェ神官に会い、ここでこの町の人たちを愛へと導いているそうだ。


「……この町の人限定?」


「いいえ、そんなことはありませんよ。ここまで来ていただけるのであれば、その思いに応えたいと思っています」


「そ、そうか」


 脳裏を過ぎったのは、メイドさん(美人)だ。

 ……いざという時は、ここのことを教えようと思った。

 全身鎧を生贄にするようで心が痛むが……大丈夫。この全身鎧なら、きっとメイドさん(美人)を導いてくれるはずだ。

 頼りにしている――と思っていると、全身鎧の様子からふと思う。


「……もしかして、何か悩んでいるのか?」


「わかりますか?」


「まあ、なんとなく」


 これでも無のグラノさんたちやアブさんといった、感情が表面に表れない人たちと交流しているのだ。相手が全身鎧でも問題ない。


「実は、恥ずかしい話なのですが――」


 話してくれるようなので聞いてみる。

 ――簡単に言うと、こうして結婚相談所を開いて多くの人々を導いてきたが、自分は結婚どころかそういう相手すら居ないということだった。

 説得力に欠けるのでは? と悩んでいるそうだ。

 ちなみに、聞くところによると、今のところ導きはほぼ的中している。

 ほぼなのは、まだ結果が出ていないのがあるだけ。

 結果が出ているのはすべて的中。失敗は今のところ一つもない。

 さらに話を聞くと、俺がこれまで出会った魔物たちもここのお世話になっているようで、黒パンツのオーガに運命の出会い(筋肉)が起こったり、カエルの剣士が運命の相手がどこにいるのかを知って旅立ったりしたそうだ。

 ……カエルの剣士には会いたかったな。

 ともかく、別に大丈夫というかそこまで気にするところではないと思うが……。


「自分は導けないのか?」


「導けません」


 ……そうか。でもまあ、失敗はないようだし、そこまで気にしなくてもいいんじゃないか、と励ましておく。

 そうして結婚相談所から出ると、もじもじしている全身鎧がまだ居た。

 特に気にしなかったが、佇まいや仕草から女性のような気がする。

 ついでに、結婚相談所の全身鎧は男性だ。

 ………………。

 ………………。

 ほほ~ん。これはもしや……あるかもしれない。

 結婚相談所の全身鎧の悩みは、案外早くに解決するかもしれないと思った。


 ――数日後。この町の広場で躍るゾンビたちの興行が行われ、そこに結婚相談所の全身鎧ともじもじしていた全身鎧が連れ添って見物しているのを見かけた。


     ―――


 そして、さらに数日後。報告が届けられる。

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