きっと無事です
神剣を守るためには、神剣を隠している球体魔法陣を守る必要がある、ということがわかった。
それに、その球体魔法陣は竜王であるシーさんが守っている。
万全――とは思うが、絶対はない。
相手も何をやってくるのかわからないのだから、不測の事態ということも起こり得るのだ。
それが起こらないように、備えなければならない。
神殿の門番の竜二頭が厳重警戒中だと言っていたが、それも備えの一つということだろう。
――いつ敵が現れてもいいように。
もちろん、俺もその心構えである。
これで相手の本拠地とかがわかっていれば直接攻めに行くのだが、わからないので待つしかできないのは……少し歯がゆい。
それでも今は待つしかできないので、竜の町に滞在することになった。
「許可も出すことだし、俺は暇を持て余しているからいつでも来ていいぞ」
軽い感じでシーさんに誘われる。
まあ、時間に余裕はあると思うので、話し相手くらいになるのは構わない。
それに、シーさんなら俺や無のグラノさんの知らないカーくんを色々と知っていそうなので、話を聞くだけでも楽しそうである。
「ああ、また来る」
そう伝えると、ホーさんが提案してくる。
「これから滞在するというのなら、良ければ私たちの家に宿泊していってください」
「いやいや、それには及ばない。宿屋を教えてくれれば大丈夫だ」
お断りする。
正直、終始緊張しっ放しで気が休まらないと思うので……。
「そう? でも、最近のカオスはどうなのか聞きたいので、お願いできませんか?」
「カーくんのことを話すのは構わないが……その……そう、女性しか居ない家に男性が宿泊するというのは……ほら、色々と……それに、何日宿泊するかもわからないし……」
助けを求めるようにアブさんを見――ほお、これは……と言わんばかりに、神殿の荘厳な造りを観察していた。いや、今はこっちを観察していて欲しいのだが……今は絶対にこっち――俺と目を合わせないという意思の強さを感じる。
ならば、とシーさんを見――。
「ぷひ~……ふひ~……」
鳴らない口笛を鳴らしている。
こちらもアブさんと似たようなモノで、関わる気は一切ないというか、迂闊なことは言わないようにしているようだ。
もしもの願いを込めてデーさんを見るが、どことなく歓迎していそうな雰囲気である。
味方が居ない。
だからだろうか、結局は断り切れずに押し切られた。
―――
どうにか巻き込ませようとしたが、竜山から竜の町へと戻ると、アブさんは建築物が気になると飛んでいった。
……逃げた、と思うのは俺の心が汚れて――いや、正直にいこう。逃げたな、これ。間違いなく。ことが起こるまでは戻ってこないような気がする。
けれど、アブさんの行動は竜の町を把握することに繋がるので、いざという時に助かるのは事実なので……くっ。容認するしかない。
そうして、デーさんとホーさんの家にある一室が、宿泊場所となった。
寝具はあるが、他にこれといった物が置かれていない一室。
よくこんな部屋があったな、と思ったが、カーくんは時々――といっても数年、数十年単位だが――ここに帰ってきているそうだ。
この部屋は、その時に使う部屋であるため、物はなくとも寝具はある、ということである。
なので、急に一人泊めることになっても問題ないそうだ。
カーくんの友達である俺なら尚のこと。
けれど、それはカーくんの部屋ってことでは? と思ったが、カーくんは帰ってきても数日で、長くても一か月くらいでラビンさんのダンジョンに戻っているらしい。
口では親友であるシーさんに会いに来た、遊びに来たとか色々な理由を言っているそうだが、多分カーくんはデーさんとホーさんの様子を見に来ているのだろう。
なんだかんだと、デーさんとホーさんを気にかけているようだ。
ただ、滞在日数が少ない気がするのは……まあ、大変なのだろう。色々と。
少しだけ覚悟を持って、デーさんとホーさんの家で寝泊まりする。
―――
当然と言えば当然だが、デーさんとホーさんの家に常に居る訳ではない。
それはデーさんとホーさんも、だ。
顔を合わせるのは、朝と夜程度。
何しろ、今は厳重警戒中。竜山と神殿だけではなく、この竜の町も。
その警備を行っているそうだ。
しかも、デーさんとホーさんは所謂警備責任者的立場らしい。
というのも、竜王であるシーさん含め、デーさんとホーさんに面と向かって逆らえる竜は居ないそうだ。だから、自然とそういう立場になる、と。
そこら辺は、竜の町を出歩いた際に、デーさんに叩きのめされていた緑竜と青竜と出会い、教えてもらったのだ。
その辺りを喜々として話して、さらに婚期について触れた辺りで、その背後にデーさんが満面の笑みを浮かべて立って居た。
それからあの緑竜と青竜は見ていない。
愉快ではあるので、無事でいて欲しいとは思う。
そうして、少しばかり竜の町で過ごすことになった。




