同じ経験は連帯感を生む
デーさんに案内された場所は、大通りを進んだ先――竜の町の中心付近にある家。
二階建ての普通の家だ。外観も、大きさも。
ここ? と思っていると、デーさんがピカッと光り、俺の視界を真っ白に染め上げる。
「光るなら光ると言ってから光って欲しい!」
「あっ、すまん」
両目を押さえて、軽くじたばたした。
視界が戻ると同時に周囲が見えたのだが、同じように周囲を見ている人たちが居た。目が合うと、どうも、と互いに会釈。次いで、もしかしてあなたもですか? 自分もそうです。文句言いますか? 相手はデーさんですけど……あっ、やめとくと。賢明な判断だと思います。と目線だけで会話。同じ経験をしたからこそ、目だけで会話できるのだ。
光ってもそのまま直立不動の構えだったアブさんが、少し羨ましかった。
そうして、光ったデーさんを見る。
竜は居なかった。
代わりに、黒の長髪の、勝気そうな目付きの非常に整った顔立ちで、スレンダーな体付きの上に格闘家のような動きやすそうな黒の衣服を着た、二十代くらいの美人女性が居た。
「えっと……もしかして、デーさん?」
「は? どこからどう見ても私だろうが」
「いや、さすがに竜と人では、姿形が違うと思うんだが」
「ああ、それもそうか。まあ、そう細かいことを気にするな」
誰もが気になると思うが……周囲の人たちは別に気にしていないので、気にすることでは………………いや、気にするところだから! 周囲の人たちはこの町に住んでいる訳だし、慣れているでしょうよ。でも、俺は初見なのだから、気にすることしかできない――が、まあ、いっか。
カーくんも人化していたし、デーさんができても不思議ではない。
眩しかった。だから一言欲しかった。それだけだ。
「それに、家を見ろよ。竜の姿で入る訳にはいかないというか、入れないだろ」
「それはまあ、普通の家だし。ということは、他の竜たちも家があるのか?」
「あるぞ。といっても人化できる者に限っているがな。いくらここが大きくとも、さすがに竜が竜のままで住める家はない。人化できないのは、山や森の方に住処がある」
まあ、そうなるよな。
うんうん、と頷くとデーさんが家の中に入っていく。
「ただいまー! 客連れて来たぞー!」
扉は開いている。
勝手に入って来い、ということだろうか。
まあ、付いていくしかないので付いていくが……直ぐに引き返す。
「いや、アブさん。一緒に」
「……某、ここで待っていては駄目か?」
「う~ん……駄目、じゃないかな? いや、俺はいいよ。別に。でも、デーさんに既に認識されているし、これで行かないのはマズくないか?」
「そ、そうだよな。よ、良し。行くぞ」
「ちなみに、直立不動の構えのまま?」
「何を当たり前のことを」
当たり前、だろうか?
わからないが、アブさんと共に家の中に入る。
デーさんに案内されたのはリビング。そこに一人の女性が居た。
白の長髪を編み込んで纏め、優しげな顔立ちの、グラマラスな体付きの上に真っ白なシスター服のような衣服を着ている、二十代くらいの女性。
「この二人がお客さまなのかしら? 不浄の存在が居るようだけど、浄化すればいいのかしら?」
その女性が首を傾げて、デーさんに尋ねる。
二人。当然のようにアブさんが見えている訳か。
だからだろう。アブさんが助けを求めるように俺を見ている。
頑張ってみるが期待しないように。デーさん以上に敵に回してはいけない感がある。
寧ろ、デーさんが上手く取りなしてくれることを願っておこう。
デーさんが頷き、ラビンさんの紹介状を女性に渡して、俺とアブさんに会ってからのことを話す。
というか、ラビンさんの知り合いって……デーさんとこの女性のことだったのだろうか?
「……あらあら。この二人はカオスとラビンのお友達なのね。これはきちんと挨拶をしないといけないわね」
デーさんが上手く話してくれたようだ。
ラビンさんの紹介状も役に立ったと思う。
白髪の女性がこちらに向けて一礼する。
「はじめまして。『究極混沌竜』とこちらの『超越魔竜』の姉で、『至高聖竜』です」
「……あっ、はい。アルムです。魔法使いです。こちらはアブさん」
俺は一礼するのだが、アブさんは直立不動の構えから微動だにしない。
「アブさん。答えないのも失礼じゃ」
「『絶対的な死』です! 偉そうな名ですみません! アブと気軽にお呼びください!」
お、おお。アブさんがいつものアブさんではない。
いや、気持ちはわかる。
ラビンさんは、カーくんの頭が上がらないのが居るって言っていたが……よくわかった。
うん。確かにその通りだ。
……なんというか、大変なんだろうな、と思えて、カーくんに対して優しい気持ちを抱いた。
―――
「……はっ! ラビンよ! なんか今我にとって嬉しい展開がどこかで起こった気がした!」
「そうか~(なんとなくだけど、アルムくんが『至高聖竜』に会ったような気がするな~)」
―――
「アルムくん、アブくんね。はい、覚えました。デビル、カオスだけではなく、私とも仲良くしてくれると嬉しいわ」
「ホーリー姉さん。大丈夫だ。仲良くなっているぞ。何しろ、私は既にデーさんと呼ばれるほどに仲良しだ。それに、カオスもカーくんと呼ばれている」
とめる間もなく、デーさんがそんなことを言う。
「あら、そうなの? なら、私はホーさんかしら? ふふ。愛称みたいでいいわね。そう呼んでいただけるかしら?」
覚悟を決めろ、俺!
「はっ! 喜んで!」
アブさんが見習って、綺麗な直立不動の構えを取った。
しかし、それならカーくん呼びは俺だけではなく無のグラノさんたちもそうだ。
………………巻き込まれてくれるだろうか?
是非とも会って欲しい。
アブさんが大丈夫なら、大丈夫だ。
「それでは、行きましょうか」
「……行く? どこへ?」
死後の世界へ、だろうか。
「神剣のところに、です。正確にはその封印の要となっている場所ですが、守るために協力していただけるのなら、一度見ておいた方がいいと思いますから」
ホーさんがニッコリと笑みを浮かべる。
死後の世界じゃなくてホッと安堵したのは、胸の内に秘めておく。




