発散方法の一つは、やっぱり動くこと
テレイルを手伝うといっても俺にできることは限られているし、そもそもテレイルが行っていることの大部分は国営に関することなので元から関われない。
士官する訳ではないのだ。
いずれ国を出るので、あくまで協力者という立場である。
なので、俺が主に行うのは気を紛らわせることと戦闘だ。
気を紛らわせる相手はもちろんテレイルで、時折リノファも交えて話し相手となっている。
といっても、国営に関することではなく、なんでもない普通の会話。
それだけでも充分助けになっているそうだ。
あと、母さんによるメイド式マッサージも続いている。
「いつの間にか娘だけではなくもう一人息子ができました」
と母さんは喜んでいる。
それはいい。
リノファは母さんに甘え始めているし、テレイルも気恥ずかしそうだが受け入れていた。
実際、メイド式マッサージでテレイルはかなり癒されているそうだ。
今は俺よりもテレイルとリノファに母さんの存在が必要だろうと、母さんはテレイルとリノファの傍に居るため王城に一室用意してもらったが、俺は国を出るまで冒険者ギルドの隠れ家をそのまま使わせてもらっている。
けれど、その中で一つだけ気にかかることがある。
母さんと共に王城を歩いていると、王城勤めのメイド――だけではなく執事も含めて、すれ違う前に一礼してくるのだ。
まるで、上司にするように。
「母さん。どういうこと?」
「アルム。母さんはメイドを極めています。教授を願い出られたので、教えているだけに過ぎません」
つまり、掌握しているということか。
さすがは母さんである。
―――
戦闘に関してというのは、まだところどころで戦いが起こる可能性が高いからだ。
反乱軍は四方から一直線に王都に向かっていたため、国内の「スキル至上主義」を掲げる勢力のすべてを潰した訳ではない。
その生き残った「スキル至上主義」が、もう大勢は決したのに空気を読まず、軍事行動を起こそうとしているのである。
『「スキル至上主義」こそが至高の国策』であると、これまでそれで甘い汁を吸ってきた貴族たちが中心となって。
その鎮圧のために、というのが戦闘に関しての部分である。
空が飛べるので、迅速な対応が取れるのだ。
魔法の練習にもなるし、いい機会だろう。
ただ、反乱は既に終わったので「新緑の大樹」の俺に対する護衛は終わっている。
彼らは冒険者だし、いつまでも俺の護衛として拘束する訳にはいかない。
別に会えない訳ではないが、正直一人で行くのはちょっと……。
できない訳ではないが、万が一があっても困る。
なので、助力をお願いした。
「書類仕事ばかりで嫌気がさしていませんか? これからちょっと『スキル至上主義』の残党を鎮圧しに行くんですけど、一緒にどうですか?」
これで、狙い通りに二人の人物――書類仕事で辟易しているゼブライエン辺境伯とシュライク男爵が手を上げてくれた。
かかる時間も少なくて済むように、「ツァード」の時と同じようにして空を飛んで運ぶ。
二人だけなら、速度も出せる。
また、時間がかかればかかるだけ、書類仕事が増えていくのは、二人もわかっているので、迅速な行動が必須であり、そのためなら多少雑に扱っても文句は出ない。
まさに、ザッと行って、サッと帰る、である。
後処理とかに関しては、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵の指示で近場の味方貴族のところに寄ってお願いしたので問題ない。
「よおーし! 溜まった鬱憤の発散だ! 最初から全開だ!」
「いくぜ! いくぜ! いくぜ!」
運んでいる最中、妙に上機嫌の二人だった。
現場に着けば、勝手に飛び降りていく。
そうして助力を頼んだ結果――俺の出番はなくなった。
鬱憤を晴らすという言葉通り、暴れまくるのだ。
俺の出番が一切なく、魔法の練習ができなかったのが残念としか言えない。
鎮圧が終われば当然王城に戻るのだが、そのあとは少し面倒だった。
ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵から、残党が現れた情報はないか? と顔を見合わせる度に聞かれるようになる。
いや、理由はわかるというか、それだけ書類仕事が嫌ってことなんだろう。
しかし、残党がそんな頻繁に現れるのは、それだけ国が乱れている証拠だと思うから、願っているように言うのはやめよう……というか、二人のうしろでマールさんがニッコリと怖い笑みを浮かべているのに、まずは気付くべきだ。
……いえ、俺は無関係です。
―――
今後――フォーマンス王国を出て色んな国を回ることになると思うので、予め新たな身元証明を用意することにした。
俺の肩書き――通りすがりの凄腕魔法使いと共に、Fランク冒険者が追加される。
そう、冒険者登録しておいた。
冒険者ギルドは独立した組織機関であり、世界各国にその支部があるほどで、冒険者証明は世界共通と言ってもいい。
ランク上げに興味はないが。
とりあえず、これで各国を回っても身元保証で困ることはない。




