流行っている訳ではありません
大きな町があった。
こんなところに? と思うが、詳しいことは中で聞けると思うので、そのまま付いていく。
他の町と同様に高い壁に囲まれ、大きな門には門番が居る。人ではない。竜だ。俺の倍以上はる大きさの赤竜が二頭。門の左右に陣取っている。……う~ん。迫力があるなあ。
赤竜二頭は、デーさんが近付くと恭しく頭を下げる。
「「おかえりなさいませ」」
「ああ。戻った。こいつは客人だ」
デーさんが俺を指し示すので、頭を下げておく。
アブさんのことに触れないのは、多分気遣いだと思う。
赤竜二頭がジロリと俺を見る。
「この者が、緑と青の若いのが言っていた者ですか?」
「追いやらなかったのですか? ここに連れて来られたのはどうして?」
「まあ、そう警戒するな。こいつも神剣を守るための協力者だ。まっ、どれだけ強いかは知らないが」
「「ほほう……」」
あっ、なんか嫌な――いや、違うな。妙な予感がする。
赤竜二頭がずずいと前に出る。
「協力者ですと? このような貧相な体で?」
「足りない! 圧倒的に筋肉が足りない! 足りなさ過ぎる!」
いや、そう言われても。特にそっちの赤竜は嘆き過ぎじゃないか?
しかし、やはり――とは違うかもしれないが、竜山に行くと決めた時に考えたことが起こったな。
竜はやはり筋肉が大事なのだろうか? ……いや、その割には今ここで言われたな。緑竜と青竜、デーさんはそんなこと言わなかったし……待てよ。心の中ではそう思っていた可能性はある。筋肉が足りないと。けれど、俺は魔法使い。筋肉で判断されても困るのだが。
………………いや、ない訳ではないから。筋肉。標準くらいはあるから。ただ、人と竜の体格を比べた時、標準となる筋肉量が違うから。だから、大丈夫。もう俺は貧弱ではない……はず。
しかし、どうしたものか……侮られても困るし、いざという時は戦って魔法で殲滅……いや、違う。間違えた。ここには協力しに来たんだった。
「だが、我らもそこまで厳しく見極めるつもりはありません! 竜と人では体格そのものが違いますから!」
「その通り! 故に、我らは求める! 貴殿が我らに協力するという理由を!」
「『竜』だけに?」
赤竜二頭が互い指差し、どうこれ? と次いで俺を指差す。
いや、どうこれと指差されても……。
「さっき、聞いたな、それ。緑竜と青竜で」
「「か、被ったあ~!」」
でも、アブさんは我慢できずに吹いたぞ、
「お前らも、何言ってんだ、こらあ!」
デーさんが赤竜二頭を叩きのめす。
……なんというか、竜ってこんな感じなのだろうか? 案外怖くないのかもしれない。
「竜が誤解されたらどうすんだ、こら!」
「「す、すんませ~ん!」」
いや、やっぱり違うかもしれない。
デーさん、怖い――というか、あの、やり過ぎないように。
関節も極まって……迫力あるな。
赤竜二頭。俺に助けを求められても困るんだが。
―――
赤竜二頭は――まあ、とりあえず無事だ……うん。無事。竜だから耐えられるんだろうな、と思う。普通なら――人なら無理だ。骨まで軽く砕けると思う。
だからかもしれない。同じことを思ったのだろう。
頑丈? 太さ? 骨密度? そんなの関係なく、今日が命日かもしれない、とアブさんは恐怖を抱いている――骨も心もポッキリ折れた……そんな雰囲気が感じられた。
直立不動の構えのアブさんの背が、気持ちシャキッとしたように見える。
そんなアブさんと共に、デーさんのあとに続いて町の中に入る。
実際に目にすると、大きさはよく実感できた。
竜が闊歩できているというだけはあって、大通りが文字通りの大通りだ。
賑わいもあって、活気がある。
「……これは、本当に町が? こんなところに?」
「まあ、簡単に言えば――」
町中を歩きながら、デーさんが軽く説明してくれる。
ここの名称は「竜の町」。
文字通り、竜たちが住む場所だそうだ。
それが何故町の形をしているかと言えば、過去の出来事が関係している。
ここに町ができるきっかけとなったのは、遠い過去に竜と人が結ばれて共に暮らしていくためで、最初は当然と言うべきかここまで大きくはなかった。
規模は小さく、村から始まったそうだ。
それが今や町と呼ばれるまで発展しているのは――人の文化が気に入っているから。
具体的には食文化。
ただの生肉や焼いた肉ではもう満足できないそうだ。
だからだろう。大通りを歩いているが、飲食店が多い。
食材とかはどうしているのかと思えば、魔法で人に姿になれる竜がこっそりと近隣の町や村まで飛んで交流しているそうだ。
金銭に関しては……まあ、人の姿であっても元が竜ということもあって、高ランク冒険者として稼いでいる、と。
人に関しては良さげな人を勧誘して、という感じらしい。
攫ったとかではなくて、内心で安堵。
もちろん、きっかけとなった竜と人が結ばれて――という部分も残っている。
勧誘して来た、という人は実は少なく、ここに居る人の多くは竜の血を宿している、竜人という種族だそうだ。
中には相当濃い竜の血を宿していて、普段は人、いざという時は竜、という者も居る。
魔物に関しては、きっかけの時から友好的なモノを元から受け入れていたらしく、それが今も続いているそうだ。
それが大丈夫かといえば……大丈夫。
まあ、竜という絶対的な存在が居る訳だし。
それに今ではとある神官に慈悲を求めて、魔物が現れることがあるそうだ。
……ん? 神官? なんかそれらしいことを聞いたことがあるような、と思っていると――。
「あれ? もしかして……」
声をかけられた。
デーさんではなく、俺が。




