素で聞いてはいけません
普通ならそれなりに時間はかかるだろうが、俺の移動手段は空から一直線。
なので、思っている以上に早く着く、という訳である。
また、今回は世界一と言ってもいい大きな山――竜山。
大きな山が見えたら、それが竜山――。
「アルム。あの山は違うぞ」
………………うん。そうだと思った。
いや、俺もなんか竜山にしては小さいかなあ? とは思った。
まあ、それでも、今は遠くに見えているからそう見えるのであって、近付けば普通に大きいとは思う。いや、大きいだろ、あの山も。それこそ、間違えてもおかしくなくない?
だから、アブさん。仕方ないなあ、みたいな優しい感じで俺を見ないで。心が痛い。
アブさんが指し示す方向に飛んでいく。
いくつかの町や村も見えたが、特に寄ることもなく素通りして、一直線に進んでいく。
そうして見えてくるのは、遠目で見てもわかるほどの巨大な山。
頂上が雲に隠れて見えないくらいだ。
ただ、近付いて気付く――というか思うのは、どこからが竜山――つまり、竜の領域なのだろうか?
迂闊に近付き過ぎるというか、もし入ってしまったら敵対行動だと受け取られかねない。
どうしたものか。
考えてみても答えは出ないが、この場に居るのは俺だけではない。
「アブさん」
「どうした?」
「これ、どこからが竜山? というか、このまま向かって大丈夫だろうか?」
「は? 何か考えがあるからこそ、進んでいたのではないのか? 何しろ」
――あっ、嫌な予感。
「もう竜山――竜の領域に入っているぞ。空も含めるのであれば」
……入っていたかあ。そっかあ……入っていたかあ。
そうだよな。だからかな。俺の目に間違いがなければ、竜が二頭、背中にある翼で羽ばたきながらこっちに向かって飛んで来ている。
竜二頭は俺が気付いたとわかると、下りろと地面を指し示す。
下を見れば、森の中に開けた場所があった。
あそこですか? と指し示せば、その通りだと頷きが返ってくる。
大人しく下りた。
―――
竜山の麓……だろうか。
広大な森があり、その森の中の開けた場所で、俺は竜二頭と対峙……いや、なんというか一方的に圧力をかけるように見られているのだが、竜二頭の大きさが俺の三倍はあるため、なんというか圧力が通常よりも割り増しな感じである。
カーくんほどは大きくないが、目線を合わそうとするのなら見上げないといけないため……姿勢が辛い。
あと、竜二頭には違いがある。
鱗の色だ。
緑色と青色。緑竜と青竜である。
「……それで、いつまでこうしていればいいんだ? いい加減、この姿勢はやめたいんだが」
そう口にする。
何故なら……く、首が、そろそろ。
緑竜と青竜は、そんな俺の訴えが聞こえていないかのように二頭だけで話す。
「どう思う? こいつは敵か? こいつが神剣を奪いに来たヤツか?」
「いや、そのために見極めているのだが……わからん。お前はどうだ?」
「え? 俺に聞くのか? ………………じゃあ、そうなんじゃないか?」
「いや、じゃあって。あやふやかよ」
「だったら、そういうお前はどうなんだよ」
「………………多分、違うんじゃないか?」
「いや、多分って。お前もあやふやじゃねえか」
「だって、どう見極めればいいか……あっ、だったらここに来た『理由』を聞けばいいんじゃないか?」
「『竜』だけに?」
どう、これ? みたいな感じで、緑竜と青竜がチラチラと俺を見てくる。
………………。
………………。
「え? あっ……ちょっと待って。どういうこと?」
「は? いや、だから、『理由』と『竜』をかけて――て、馬鹿、お前! 馬鹿! わざわざ説明させるなよ!」
「気付け! それくらい気付け!」
緑竜と青竜が何やらいきり立つ。
いや、それくらいはわかるが、それがどういうことか……でも、だからかな。
「――――――」
ツボに入った感じというか、アブさんが声を出すのを我慢しながら、空中で笑い転げている。
というか、緑竜と青竜……アブさんに気付いていないのか?
まあ、視線も俺、声をかけてくるのも俺――でアブさんには無反応……ということは見えていないようだ。
それだけアブさんの能力が高いということだが、今はその姿を見せてあげたい。
緑竜と青竜の機嫌が良くなる気がする。
まあ、アブさんのことがバレていないのなら、できる限り隠しておきたい。
切り札的存在をわざわざバラす必要はないだろう。
なので、別のことを口にする。
「それで、このまま竜山の中に入っていいか? 一応、神剣を守るための手助けでもできれば、と思ってきたんだが……あっ。もしかして、なんか許可とかいる感じ? それだったら、このドラゴンローブ……紹介状があるから、それをなんか偉い竜とかに見せてもらえれば」
「いや、流すな、流すな。というか、普通に始めないで」
「というか、通すか! 少なくとも、竜の笑いを理解できない者を通すことはできない!」
――な、なんだと。竜の、笑い。
「種族全体のモノとして大丈夫か?」
心配なんだが。
「だ、だだだ大丈夫に決まっているだろうが!」
「そ、そそそその通りよ! 故に、通す訳には――」
緑竜と青竜が明らかに動揺していると見ていると、その背後の空がキラリと光る。
「お前らと!」
ん? なんか、声が――それに、何かがこちらに向けて飛来して――。
「一緒にするなっ!」
そのまま緑竜と青竜を叩きのめす。
それは、緑竜と青竜よりも大きな黒竜だった。




