察し――てないな、これ
竜山の様子を見に行っている人が明日戻ってくるという。
この国の魔法師団の団長だそうだ。
キンが件の人の屋敷に乗り込もうと俺を誘いに来た際、協力者が二人居てと言っていたが、それがその魔法師団長らしい。自分とナートは物理特化云々で魔法は駄目みたいなことを言っていたが、魔法関連はその人に任せっ放しだそうだ。
つまり、今はその人が居ないため、俺が誘われた、ということである。
ついでに、今回の件についてもう少し聞いた――というか聞かされたが、件の人だけではなく、エチーゴ商店のギーサだけではなくその商店自体も取り潰されたそうだ。
実際、ギーサは件の人と組み、裏で色々と悪事を働いていたらしく、相当重い罰になる。また、それに関わっていた人は程度によって罰が軽くなり、まったく関わっていなかった人は希望すれば別の商店への口利きを行ったりしたとのこと。
竜の爪は無事に回収して、ジネス商店に返されたとのこと。良かった。
あと、キンが餌付けした魔物たちは、そのままキンが王城で餌付けて――番犬……だと犬だけになってしまうから番魔物? にしようとしたが宰相が却下。冒険者ギルドを通じて、引き受けてくれる魔物使いを探すそうだ。
ただ、ライムさんも鬼ではない。
「引き受けてくれる魔物使いが見つかるまでは、王城で面倒を見ましょう」
「おお! 話がわかるじゃないか! さすがライム! へへっ。そうだよな。あいつら、俺の手からしか餌を食べ」
「いえ、既に他の者からでも餌を食べていましたよ。ですので、キングッドさまは王として執務の方をお願いします」
「……は? いやいや、ライムよ。それは嘘」
「いいえ、事実です」
「そんな……癒しが、俺の癒しが……」
「……まあ、一日の執務をしっかりとこなしていただけたなら、あとは自由ですのでお好きなように餌付けしてください」
「そうだよな! 俺、頑張って終わらせるわ!」
これで、少しは執務の方も片付けばいいのですが――と言いたげなライムさんが印象的だった。
とりあえず、エチーゴ商店のガラの悪い取り巻きたちも一掃されたそうなので、もう王都セントール内を歩いていても絡まれることはないだろう。
なので、今日は宿の方に戻ることにした。
「明日また来るのも面倒だろう。昨日泊まった客室をそのまま使っていいが?」
キンからの提案は丁重にお断りした。
決して、メイドさん(美人)を恐れた訳ではない。
数日分の宿泊で予約しているから、利用しないともったいないと思っただけだ。ただそれだけ。うん。それだけ。他意はあ――ない。
―――
……いい朝だなあ。
ぐっすりと眠ることができた。
――宿屋。最高!
両手を上げて、喜びを体現。
合わせて、室内の様子を窺うが……アブさんの姿はない。まだ戻って来ていないようだ。
昨日、宿屋に戻るとアブさんは王都セントール内の見ていないところを見てくると飛んでいった。早ければ今日出発するとわかっているからこそ、今の内に、ということだ。
あと、わかったことがあるというか、宿屋に戻ると女将さんに感謝された。
なんでも、この宿屋で使う備品関係はジネス商店から購入しているそうで、知らぬ仲ではないというか、創業当初からの付き合いらしく、だからこそ、助けられるなら助けたかった、と。
感謝の気持ちはわかったが、話が早くない? と思えば、この女将さん。元は王城勤めのメイドだったそうで、現在は宿屋の女将であり、キンの協力者の一人として、王都セントール内の様々な情報を集める手伝いをしているそうなので……がっつり繋がっているのなら、話が早い訳だ。
そんな女将さんに朝食を注文する。
――本日の朝食。
パン(二個)、野菜煮込みスープ(形が崩れるくらい煮込まれている)、ベーコンエッグ(分厚い)という一式に、果物(カット済アップル)が別に付いてきた。俺だけに。
女将さんなりの感謝の印ということだろう。
美味しかった。
食べ終わると王城からメイドさん(美人)が来て、竜山の様子を見に行っていた人が戻ってきたことを教えられる。
「教えてくれたのは助かるが……どうしてあなたが?」
「人を変えて余計な混乱を招くよりは、とアルムさまに王城関係で何かあれば私が出向くことになりました。所謂専属となり――いえ、これは最早結こ」
「そんな訳あるか!」
女将さん、苦笑していないで助けて欲しい! 切実に!
王城に出向くだけなのに苦労しそうだ。
朝からは勘弁して欲しい。
―――
女将さんに今日出発すると伝えると、払っていた宿代が少し返ってきた。
余っていた分と、宿泊しなかった日の分だそうだ。
こういう時、少し儲けた気になるのは何故だろうか。
そうして、王城に向かう途中でアブさんがこっそりと合流した。
その際、メイドさん(美人)を見て「あっ。察し――」という雰囲気を醸し出したのだが、何を察したのか教えて欲しい。多分……いや、絶対違うから。
それ、何も察していないから。
―――
「あっ。察し――」という雰囲気は、王城の門番兵士二人(一昨日、昨日と同じ二人)も醸し出してきた。
それ、王城に来た俺をとめる必要はもうないって察しではないよな? だって、俺とメイドさん(美人)を交互に見て、悲しそう――いや、お前に任せた! みたいな視線になっているし。
お前らも察していないからな。
そんな感じで、王城に来るだけでなんか気苦労した。




