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賢者巡礼  作者: ナハァト
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わかった上でやる必要があることだってある

 一度書類から目を放し、ラビンさんの報告書? に目を通すキングッドさま。


「………………」


 一旦空……天井を仰ぎ見て、再度ラビンさんの報告書? を再度確認。

 嘘だろ? と表情に表れている。それとも、信じたくない、だろうか。


「……とりあえず、アレだな。下手にアルムと敵対しなくて良かったというか、不当な扱いをしなくて良かった、本当に……」


 キングッドさまがホッと安堵する。


「一体何事ですか?」


「俺も気になるな」


 ライムさんと騎士団長さんがそう口にする。

 けれど、キングッドさまは何も言わずに俺を見た。


「教えてもいいか?」


「え? なんで俺に聞くんだ……ですか?」


「口調は普段通りで構わない。というか、公式の場以外でなら気を遣わなくていい。アルムにとって、余は――俺は遊び人のキンのままで構わない。俺としてもそっちの方が気は楽だしな。騎士団長――ナートもそっちの方がいいだろ?」


「ああ、アルムにとって俺は騎士団長ではなくナート。それでいい」


 うんうん、と頷く騎士団長さん――ナート。

 キングッドさまも、キンで。

 そういうことでいいらしい。

 まあ、ライムさんは……うん。ライムさんだ。居るんだよな。相手から言われても、こう、自然と「さん」付けしてしまう人って。


「それで、どうしてアルムに確認するかだが、書かれている内容に加えて、書いた者について俺は絶対に軽々しく扱えないからだ。それに、今のアルムはその者の使者のようなモノ。だから、確認が必要――という訳だ」


「そうなのか? まあ、その辺りを気にする人ではないと思うが……まあ、俺としては別に構わないが……」


 ライムさんと騎士団長さんをチラリと見る。

 それで、キングッドさまは俺が何を言いたいのか察したようだ。


「安心してくれ。二人には元々話してある。といっても、実際にお目にかかったことがあるのは俺だけだが」


 キングッドさまの口調からは、ここに居ない人(ラビンさん)に向けて気を遣っている――あるいは敬っているようなモノを感じられた。


「まさか……」


 ライムさんは思うところがあるようだ。

 騎士団長さんは気付いていないのか首を傾げる。

 俺は問題ないと頷いて口を開く。


「知っているのなら大丈夫だ。俺が名を口にしないのも、誰がどこまで知っているかわからないからだったし」


「あの方については俺、ライム、ナート、それともう一人しか知らない。名を出したとしても通用しなかっただろうな。まあ、迂闊に名を口にしていい方でもない……ああ、それで、門番にとめられた話なのか。……ん? アルムはそれでどうやって俺に会って渡すつもりだったんだ? 何かしらの考えがあったんだろ? なんか余裕みたいなモノがあったし」


 ライムさんとナートにラビンさんの報告書? を渡しながら、キンが聞いてくる。

 隠すようなこと――かもしれないが、他の国では俺が飛べるとわかっているので今更だ。


「夜に空から忍び込もうと思っていた」


「………………」


「………………」


「それは……駄目ってわかっている……よな?」


「当たり前だろ。ただ、普通には入れなかったし、渡さない、という訳にもいかないから、強行するしかないとなると……これかな? と」


「事情はわかった……わかりたくないが、わかった。でもお前、それ印象悪いからやるなよ」


「いや、それくらいはわかっている。ただ、他に手段がなくて仕方なく、だな。普通はやらない」


「本当にわかっているのか?」


 キンが疑いの視線を向けてくる。

 失礼な。わかっている。ただ、わかった上でやる、それだけだ。


「まあ、いい。ラビン殿の使者となれば、何をおいても無下にはできない。アルムには入城許可を出しておくから、次があれば普通に入れるようにしておく」


「わかった。それにしても、ラビン、殿?」


「当たり前だろ。この国が栄え、どの国が相手でも中立を保っていられるのは、ラビン殿の世界最大ダンジョンから得られる恩恵があればこそ。それを当たり前だと感謝の心を忘れ、蔑ろにするような者は、そもそも王にはなれない……というのが理想だが、歴史を紐解けば愚かな王も居たのは間違いない。それでも今尚恩恵を得られているのは感謝しかない」


 確かに、ラビンさんもそんなことを言っていたような……でもまあ、キンに限ってはラビンさんも何かあれば協力をお願いすればいいと、どこか気に入っているような節があったし、大丈夫だろう。

 つまり、今代のミドナカル王国は安泰ということだ。

 そんな感じでキンと話していると、ライムさんとナートも読み終わったようで……特にライムさんは不安そうな表情を浮かべている。


「キングッドさま、これは間違いなく事実で? 邪神復活の可能性と」


「ライム。ラビン殿は冗談や与太でそのようなことを言う方ではない。間違いなく事実だ。阻止できたのならそれでいいが……もしもの場合を想定して準備しておく必要がある」


「そう、ですね。……わかりました。とりあえずは、中立国というこの国の立場を利用して、各国――特に大国同士を協力させるように調整しなければなりません。何しろ、事は一国で済む話ではなく、世界規模なのですから」


 それでもライムさんの表情がどこか不安なままなのは、色々と考えてしまう――良い方も悪い方も――からだろう。

 一方で、ナートの方は楽しそうな笑みをうかべている。

 存分に体を動かせそうだ、とか思っていそう。


「これから忙しくなりますので、今回のようなことは暫く控えていただきますよ、キングッドさま」


「わかっているよ。……今回の件は、忙しくなる前に息抜きができたと思っておく。それで、アルムはここを出れば竜山に向かうということでいいんだよな?」


「ああ」


「だったら、もう少し待ってくれないか? 最近、竜山の様子がおかしかった――まあ、その理由は今わかったが、その様子を見に行かせていた者が戻ってくる予定だ。そこで話を聞いてからでもいいんじゃないか?」


 竜山の様子を事前に知ることができるなら、その方がいいかと頷く。

 それを聞いたら、実際に竜山に向けて出発だ。

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