気が付いたら終わっていた
この国の王さまが立派な髭を取ると、その顔はキンに似ていた……いや、寧ろキンその人……つまり、キンだ。え? いやいや、なんでそこにキンが居る? そこは玉座であって、この国の王さまだけが座ることを許されていると思うんだが……今回の情報提供で座ることを許された? でも、それだと俺がこっち側に居るのはおかしくないか? 俺も座って見たい。きっとふっかふかに違いない。固い椅子ではないだろう。いや、そこではなく、俺が件の伯爵たちの近くに居ることを気にしていたのだ。キンがそっちで、俺がこっちなのは納得いかない。たとえ座れなくとも、全身鎧の人か、黒髪の男性の位置であるべきじゃないか? それぐらいの働きはした……したか? 俺? 基本出番がなくて、最後の方に少し動いただけ。ほとんどキン、それとナートが主動だった。……なるほど。俺は妥当な立ち位置かもしれない。だが、それはそれ。これはこれ。滅多にというか、普通は座れない椅子に座れるのは、少し羨ましい。いや、正直に言ってかなり羨ましい。数段高いだけだが、そこから見える景色はきっと何かが違うのだろう。今、そこからこっちがどう見えているんだ! キン! ……ん? キン? 待てよ。キングッド……キング……キン………………はっ! 親戚か! つまり、キンは王族関係者ということか! だから、今回の功績も加えることで玉座に座ることを許された、と! ………………いや、それはさすがに無理があるか。キンがこの国の王さまであるキングッドさまであると考える方が自然だ。つまり、キンは王さま。
………………。
………………。
あれ? 俺、何かやらかしてないだろうか? などと一気に考えてみたが、どういう状況だ、これ?
きっと困惑しているのは俺だけではないだろう。
同じく困惑していると思われる件の伯爵たちを見てみた。
額を床にこすり付けるように下げている。顔色も蒼白だ。
なんというか、こう……もうどうしようもないということが決まったというか、何もかもが終わってしまったというか……そんな感じを醸し出している。
「――よって、アクダイカ伯爵、いや、この場より貴族位は剥奪とし、アクダイカ。それとアクダイカと連なる者たちよ。これらの行いによって厳しい刑が下ると思え。騎士団長」
「はっ! この不届き者共を牢に連れていけ!」
「「「ははっ!」」」
全身鎧さん――やはり騎士団長だったようだ――の合図で騎士たちの何人かが、件の伯爵……もう伯爵ではないのか。だったら……件の人たちを、物を運ぶように連れて謁見の間から出ていく。
その光景を見つつ思うのは……う~ん。気が付けばなんか終わっていた、だった。
……終わった、でいいんだよな? あれ? ……なんかここでも出番がなかったような気が………………気にしないことにした。心の平穏のために。
―――
謁見の間は件の人たちを裁くための場だけに使用したようで、場所を移すことになった。
謁見の間から執務室へと向かうそうだ。
向かうのは、キン……グッドさま、全身鎧さん、黒髪の男性、俺――それとこっそり付いて来ているアブさんだけ。
他の騎士たちは同席しないようだ。
向かう間に黒髪の男性と少し話したのだが、まず黒髪の男性の名は「ライム」。この国の宰相だそうだ。自然と「さん」付けしたくなったので、ライムさんと呼ぶことにした。
そうなるとキンはキンではなくキングッドさまと呼ぶべきかもしれない。
そうして話した中で、俺が謁見の間に呼ばれたというか居たのは、関係者として事の顛末を見せるためだったそうだ。
ライムさんが決めたのではなく、キングッドさまがそうしようと決めたらしい。
迷惑な……いや、面倒な、とは思うというか、書面では駄目だったのだろうか?
俺はそれで良かったのだが。
そう思っている間に執務室に辿り着く。
テーブルや椅子などの応接セットに、本棚などの調度品。豪華な執務机と椅子。それに、山積みになっている書類。執務室はどこも似たようなモノかもしれない。
「では、確認していただく書類が溜まっていますので、よろしくお願いします」
ライムさんがキングッドさまにお願いする。
キングッドさまは書類の山を見て、首を左右に振った。
「いやいや、宰相。まだだ。まだ、アルムの件が終わっていないから。それが終わったあとで」
「別にそれでも構いませんよ。急を要するモノはありませんでしたから。ですが、あとにしても量は変わり――いえ、増えていきます。あとに回せば回すほど、より大変になっていきますが……なるほど。キングッドさまは己を追い込む苦行をなさりたいのですね。わかりました。このライム。そんなキングッドさまのために今から新たに書類を増やさせていただきます」
「悪かった……悪かったから……書類を片付けながらアルムの話を聞くから」
肩を落としたキングッドさまが、とぼとぼ執務机の椅子に座り、ライムさんが差し出す書類を手に取る。
「わはははははっ!」
その様子を笑う全身鎧さん。
というか、いつの間にか兜を取っていたのだが、その顔は……ナートだった。
……な、なんだってー! ……いや、そう言った方がいいかな? と思っただけ。
キンがキングッドさまなら、ナートも直ぐ近くに居ると思っていた。
騎士団長なのも、昨日の戦い振りを思えば納得である。
「何を笑っているのか知りませんが、あなたも騎士団長室に戻ればこれの半分くらいは書類がありますよ」
ナート……騎士団長……ナートが偽名の可能性もあるし、今は騎士団長さんでいいか――という訳で、騎士団長さんの表情が固まった。
「……せっかく久し振りに暴れてスッキリしたのに」
そんな呟きが聞こえたが、迂闊に触れないでおく。
「それで、こうして王に会いたいという約束も果たした訳だし、余に何を渡したかったのか見せてくれないか?」
キングッドさまが書類仕事をしながらそう言ってくる。
一応、ライムさんに確認の視線。
「まあ、私としては先に検閲したいのですが」
「大丈夫だって。アルムは」
「こう言っていますので、どうぞ」
どこか諦めの表情を浮かべるライムさん。
なんというか、苦労していそうな感じである。
いいのかな? と思いつつ、マジックバッグからラビンさんの報告書? を取り出して、キングッドさまに渡す。




