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賢者巡礼  作者: ナハァト
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声を出した方がいいような気がしないでもない

 嫌がらせをしてみたものの――。


「なんだこれは! お前が何かしたのか! さっさと解除しろ! というより、さっさと出せ!」


「そうだ! この行為は栄光なるフォーマンス王国の根幹を成すスリーレル公爵家を敵に回すことだと知れ! それに、お前はスリーレル公爵家の使用人見習いなんだ! 大人しく言うことを聞いて、さっさと開けろ!」


 余計うるさくなった。

 ボロいベッドの上で、先ほどよりも高い声量で喚いている。

 というか、状況をただしく理解できるだけの頭脳を持っているのなら、既にスリーレル公爵家は存在しないとわかるだろうし、それに、たかが一貴族家の使用人見習いが王城の地下牢を開けられると思うだろうか?

 普通は思わない。

 あと、いつまで俺が使用人見習いだと思っているんだ?

 もうとっくに違う。

 通りすがりの凄腕魔法使い――と言っても信じないだろうし、わざわざ教えるつもりもない。

 とりあえず――。


「どこまでやっていいんだ?」


 正直言って、早々に死んだ方が、世のため、国のため、人のため、の二人だ。


「……生きていれば、何しても構わないそうだ。一応、情報の擦り合わせとかでまだ必要ってだけだがな」


「新緑の大樹」のリューンさんが面倒そうに答える。

 なるほど。

 正直言って……それは困る。

 未だ魔力操作の甘い俺が檻の中の二人に何かしようとすれば、間違いなく瞬殺してしまう。

 それは……避けたい。

 ただ、別に生かしたい訳ではなく、苦しんで欲しいだけだ。

 それなら、俺がやるよりも拷問官とかにお願いした方が……と考えていると、床の熱さを忘れたかのように跡継ぎが詰め寄ってきて、鉄格子の隙間から腕を出してドラゴンローブの一部と掴む。


「貴様! 先ほどからその態度はなんだ! 主である俺を助けるのが貴様の義務だろうが!」


「……この状況でも置かれた立場を理解できないとは、馬鹿としか言いようがないな。それと、お前如きがこのローブに触れるな」


 声に怒りが交る。

 跡継ぎのローブを掴む手の腕に俺の手を置き、身体強化魔法を一瞬発動させて跡継ぎの腕を力任せに砕き――。


「『赤燃 燃えろ』」


 燃やすだけならそれで充分。

 普通は小さな火が灯る程度だが、そこは魔力量をガンガン注ぐことで補う。

 跡継ぎの腕が一気に燃焼する。


「う、うわあああああっ!」


 叫びながら檻の中に引っ込んでいく跡継ぎ。

 スリーレル公爵が気遣うような声を上げるが、跡継ぎに答える余裕はない。

 もちろん、俺もドラゴンローブも燃えていない。


「あああああ……ああ……」


 痛みから気絶する跡継ぎ。

 その片腕は既に燃え尽き、炭化して崩れ落ちている。

 跡継ぎにとって幸いだったのは、燃焼が強過ぎて燃え尽きた傷口も焼けて血止めになったことだろう。

 まあ、床は熱いままなので、このまま放っておくと焼け跡が付きそうだが……別にいいか。

 些細なことだ。

 それに、もうここに来るここもないし、関わることない。

 いつまでも取り戻せない過去に縋りついていればいい……俺は未来さきに進む。

 まあ、俺以上に檻の中の二人を恨んでいる母さんは、またくるだろうけど。


     ―――


 地下牢から出て気分を変える。

 やっぱり、ああいう仄暗い場所に行ったあとは、陽光を浴びると癒される。

 そろそろ大丈夫だろうか? とテレイルの下へ。

 駄目なら駄目で、そのまま待たせてもらおう――と思っていたが、運良くそのまま会うことができた。

 テレイルは貴族との面会を終え、執務室に戻ってリノファと共に一息吐いていたようで、テーブルの上には紅茶と茶菓子が置かれている。


「……だいぶお疲れのようで」


 そう言いたくもなる。

 数日しか経っていないというのに、テレイルの目元には隈ができていて、執務机の上には書類が山のように置かれていた。


「仕方ないよ。まだ数日だからね。即位式が行われて、信頼できる者がもう少し増えたら……多少は休まると思うけど。今は、ね。それにこれくらいで音を上げる訳にはいかない」


 肩をすくめるテレイル。

 まあ、これから一国を担う訳だから、これくらいはこなせないと、ということだと思う。

 そのあとは、負担になってはいけないと軽く話す。

 テレイルとしては、騎士団と三特殊部隊に俺がどんなことをしたのかを詳しく知りたかったそうなので、その辺りを主に。


「……正直言って、騎士団と三特殊部隊を相手に、一人でどうにかできてしまうアルムの協力を得られたことが、一番幸運だったことかもしれない」


 いやあ~、と頭を掻く。

 褒められて慣れていないので照れる。

 だからといって、「新緑の大樹」から向けられる、「……非常識だ」という視線を向けて欲しい訳ではない。

 そして、ある程度話したあと、テレイルから尋ねられる。


「それで、旅に出るって話だけど、もう出るのか?」


「いや、まだだ。この国がもう少し落ち着いてから、かな。それまではテレイルに協力するつもりだ」


「そうか。ありがとう。……それなら、あとで相談に乗って欲しいことがあるから、お願いできるかな?」


 ……相談?

 とりあえず、聞くだけならと頷きを返しておいた。

 話が終わったあとに、母さんに頼む。


「テレイルが疲れているようだから」


「任せなさい。メイド式マッサージ・極を行います。遠慮はいりません。息子の義兄弟なら、私にとっても息子そのもの。さあ、母に甘えなさい」


「え? いや、その……」


 テレイルの甘美な響きが城内に響いたとか、響かなかったとか……。


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