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賢者巡礼  作者: ナハァト
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何も起こっていません

 捕まるかと思った。

 これから向かう先は王城の牢屋だと。

 ただ、これは好都合ではないか? と思ったのだ。

 捕まったのは事実だが、これで王城に入ることができる。

 さらに、貴族が――伯爵が関わっているのだから、王さまが話を聞く可能性は高い。

 よって、その時にラビンさんからの報告書? を渡せばいいのだ。

 そのあとは………………まあ、用はないので空から退散……いや、竜山の情報……いいか。行けばわかる――と考えた。

 実際に騎士たちと共に王城に入る際、門番兵士が昼に居た二人で、俺のことを覚えていたらしく、「……お前、あれだけ注意しておいたのに、やっちまったのか?」みたいな視線を向けられていたのだ。

 あれ? 俺、そんな風に見える?

 そして、騎士たちに連れていかれた場所は、王城の客室? どういうこと? 別に竜杖もマジックバッグも取られていない。いつも通りだ。

 ただ、その答えを知っていそうなキンとナートもいつの間にかいなくなっていたし、アブさんは念のためにと王城内の把握をしに行っている。

 ……アブさんが頼りだ。

 しかし、こうなった意味がわからないので、客室内に置かれている高そうな椅子を傷一つ付け(賠償金を払わ)ないように恐る恐る座り、騎士の一人から用があればお願いすればいいと付けられたメイドさん(美人)の淹れた紅茶を飲んで一息吐く。

 ちなみに、紅茶は淹れたばかりなので、メイドさん(美人)は直ぐ近くに居る。


「お味はいかがでしょうか?」


「え? あ、美味しい、です?」


 向こうから話しかけられると思わなかったので、少し疑問形になってしまった。

 いや、実際に美味しいと思う。


「いきなりのことで緊張されているようですが、悪いようにはなりませんので安心してください」


「は、はあ」


 色々と事情を知っているのだろうか?

 なら、教えて欲しい。


「もしよろしければ、気を落ち着かせるために、少々私とお話しをしませんか?」


「あ、ああ、別に構わないけれど」


「ありがとうございます。ではお客さまはかなり優秀な魔法使いと聞きました。きっと、その知識も豊富なのでしょう」


「それは……どうだろうか?」


 一応、自分の他に無のグラノさんたちの記憶があるが、それを知識としていいのだろうか。


「そのような魔法使いさまに、是非答えていただきたいのです」


「ま、まあ、わかることであれば」


「それで構いません。先日、同僚が結婚しました。それは喜ばしいことです。ええ、本当に。しかし、それである疑問が生じたのです。何故、同僚は結婚できて、私は結婚できていないのか、と。自分としては、炊事洗濯掃除といった家事において、その同僚よりも上だと思っています。もちろん客観的に見て、です」


 口を挟む隙間もないくらい一気に言われる。

 なんだか雲行きが……部屋の中だけど。


「ただ、私と同僚を比べた際、どうしても……いえ、認めた訳ではありませんが、客観的に……そう、客観的に見て私に足りない部分があります」


 メイドさん(美人)が胸元に手を当てる。


「同僚はばk……胸部装甲が厚いのです」


 そう言うメイドさん(美人)は……うん。あえてそこには触れないが、とても悔しそうな表情を浮かべていた。

 と思ったら、真剣な目付きで俺を見る。


「そこで疑問なのですが、私が結婚できないのは私の胸がどちらかと言えば標準だからですか?」


 いや、どちらかと言えば……そうではなく。そういうことではないというか、胸の大きさは関係ないと思う――のだが、それを口に出してはいけないことくらいわかっている。

 だが、どう答えたものか。

 とりあえず、まずはこれを言ってみよう。


「その、他のメイドさんに交代は?」


「私の何が駄目なのですか! やはり胸ですか! 『谷間』ですか! そこに吸い込まれてしまうのですか! 私だって、寄せて上げれば『谷間』を作り出せますが、それでは駄目なのですか!」


「あ、圧が強い。なら、もう夜も遅いので寝ます!」


 そう言うと、メイドさん(美人)は途端にもじもじし始め、頬を染めてチラチラと俺を見る。


「それはぁ、夜伽のお誘い、ですかぁ?」


「いいえ、違います」


 メイドさん(美人)が客室から中々出てくれなくて苦労した。

 件の伯爵たちを相手にするより疲れた。


     ―――


 今日は何もなさそうなので、このまま客室にあるベッドで横になる。

 ……宿代が一泊分無駄に……まあ、いいか。

 他に考えるべきは――気になることがあった。

 思えば、騎士たちが現れてから妙だった気がする。

 騎士たちがキンとナートを見ると、なんとも言えない表情を浮かべていたし、キンとナートも騎士たちに向けて指示を出していた上、騎士たちもそれに従っていたのだ。

 キンとナートは騎士たちと関係が深い?

 顔が広いと言っていたが、そこまで広く――指示を出して従わせるほどの仲になるだろうか?

 ……いや、待てよ。発想の転換か。

 件の伯爵を捕らえられる絶好の機会であって、キンとナートの指示がなくともここぞとばかりに捕らえていたのではないだろうか。

 指示を受けてそうしたのではなく、言われなくてもやっていた、ということでは?

 ……それはそれで不敬な気がしないでもない。相手、騎士だし。

 ………………。

 ………………。

 わからん。

 気が付けば寝てい――。


「添い寝します」


「結構です」


 メイドさん(美人)を相手に、そういう意味ではない眠れない夜を少しだけ過ごした。


     ―――


 翌日。謁見の間に連れていかれた。

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