あれ? 俺、何かやって――
見取り図に記された場所には直ぐ辿り着いた。
早速中に入ると――確かに執務室のようだ。
豪華な机と椅子が目立ち、本棚や壺、小棚といった調度品も置かれている。
キン、ナートと頷き合って、何かないかと手分けして探っていく。
………………。
………………。
特にこれといったモノは見つからない。
書類の類はあるのだが、キン、ナートによると変なところはない普通の書類の類だそうだ。
つまり、求めている物ではない。
もう少し探してみる。ここで見つからないと、あとは寝室……嫌だ。となると、客室に乗り込むことになるかもしれ……ない……あれ? それでも良くない? キンとナートも強いし、無理矢理現場を押さえて……いやいや、それだと無理矢理だったとか、改竄・捏造されたとか言い出して、有耶無耶になる可能性がある。
ここは大人しく、まずは証拠となるモノを見つけよう。
大人しく探す。
しかし、なんというか……普通だ。普通の執務室だ。色々な部屋を見たあとだからか、これが普通だと思ってしまう。いや、実際普通なのだが……わかっている。きっと、ここに置かれている物の金額は、聞けば驚くことになるだろう。
……え? これがそんなにするのか? なんでそんなに高いんだ? 全然見えないんだけど、とか思うに違いない。
でもまあ、聞かなければいいのだ。
ここにあるのは、そこらにある物とそう変わらない物。
この精神が大事……あれ? なんかそう思ってみると、本当に安物に見えてきた。
……安物? いや、この大きな屋敷の主は貴族。伯爵。安物のはずがない。
でも、貴族だからといって、金持ちとは限らないんじゃないか? 実際は資金繰りが苦しくて、家財道具を売り、見栄えだけはいいモノを揃えて……もしそうなら、魔物たちが腹を空かせていたのも、狂暴性を高めるためにあえてそうしていた訳ではなく、ただ単に……いや、考え過ぎだな。
これはアレだ。俺にそういうのを鑑定できるような目が養われていないだけだろう――ということをついつい考えてしまう。
手を変えよう。
………………思い付いた。
アブさんにお願いしてみるのはどうだろうか?
今も窓の外でこちらを見て……ん? なんだ? アブさんが何度も横を指差している。
指差す方を見れば……本棚があるだけ。
あの本棚がどうした? と視線で問う。
視線に気付いたのか、アブさんが奇妙な動きを始めた。多分、何かを伝えようとしているのだろう。
……えっと………………その本棚……向こう? ……合っている? 合っているようだ。それで……ヘア……違う。ヘヤ……部屋か? 合っている。……終わり?
繋げると……本棚の向こうに部屋………………隠し部屋か!
声に出した訳ではないが、態度には出たのだろう。
それ! 正解! とアブさんが俺を指差す。
思わず両手を上げて喜びそうになるが、キンとナートの姿が見えて我慢した。
危ない。危ない。
でも、正解して嬉しい。小さく拳を握るくらいなら――いや、そういうことではなく、本棚の向こう側に隠し部屋があるのか。
寝室に行かなくてもいいかもしれない。
何しろ、隠し部屋だ。そこになら色々と証拠となるモノがあるはず。
問題は……その向こうに隠し部屋があるぞ、とそのままキンとナートに言った場合、何故知っている? と要らぬ疑いをかけられる可能性がある、ということだろうか。
いや、待てよ。そもそもどうやって隠し部屋に行くんだ?
アブさんを見る。
俺の言いたいことは伝わったようで、少し待て、と返されたあと、アブさんが窓の外から大きな屋敷の中へと入っていくのが見えた。
おそらく、どのようにして中に入るのかを確認していってくれたのだろう。
――はっ! ここで漸く俺の出番では?
実際に開けるのはアブさんだろうが、俺が開けたように見せる必要があるかもしれない。
そう思うと少し緊張してきた。
一旦何かに手を付きたい――と伸ばして掴んだ物は……台座に乗った壺?
それなりに大きな壺だが、何かの拍子に倒してしまってはマズい、と手を放す。
だが、そういう時に限って意図しない動きになってしまうモノ。
突き出すように押してしまい、壺がそのまま落ち――なかった。
それなりに大きな壺はその場でくるりと回転して、「カチリ」と小さな音を発する。
どういうこと? と思う俺の視界の端で、本棚が扉のように開く。
開いた先――隠し部屋に行けるようになる。
ついでに、「あれ? なんで?」と言いたげに、呆気に取られたアブさんが居た。
「「………………」」
キンとナートが無言で俺を見て、音が鳴らないようにしながら拍手を送ってきた。
………………ま、まあね。
とりあえず、両手を広げて、二人からの賞賛を浴びておく。
いや、それどころではない。
早々に切り上げて、キンとナートと共に隠し部屋の中へ。
さすがにここまで月明かりは入ってこないので、キンがランプを使う。
ランプの光に照らされた隠し部屋内は……まあ、わかりやすい。
金貨の山や高価そうな物がいくつも置かれている。
かなり溜め込んでいるのは見れば明らかだが……証拠となる書類の類はない。
ただ、腰ぐらいの高さの金庫がある。
「「「………………」」」
俺たちの考えることは同じようだ。
おそらく、この金庫の中に色々と入っているのだろう。
どうする? とキンが視線を向けてくる。
ナートは斬るか? と剣の柄に手を置く。
いや、証拠があったとして、それごと斬りそうな気がする。
キンなら開けられ……なさそうだ。
どうするか……。
「一旦その肩掛けカバンの中にしまって、あとで開けられるヤツに開けてもらえば?」
俺がそう口にすると、それだ! とキンとナートが俺を指差す。
え? 俺、何か言っちゃいました?
しかし、そもそも入るのだ――入った。問題ない。
良し。これであとは脱出するだけ――と思ったところで背後から光が漏れる。
「まさか本当にネズミが紛れ込んでいるとはな」
そんな声が俺たちの後方――執務室の方から聞こえてきた。




