おかわりしておきました
キンは俺を巻き込ませたいようだ。
ただ、その詳しい内容がわからないことには何も言えないので、聞いてみる。
話したいようだし。
キンが対面から俺の横に椅子ごと移動してきて、周囲に聞こえないように小声で詳しい内容を話す。
………………。
………………。
聞いた内容を纏めると、細身の男性はジネス商店の店主・ジネスさんで、どうやら嵌められたようだ。
ジネスさんを嵌めたのは、エチーゴ商店の店主・ギーサ。あの時居た、恰幅のいい男性。
それと、そのギーサのうしろに居る貴族。
というのも、ジネスさんはその貴族から依頼を受けた。正確には巧妙に隠されていたそうだが、キンが突きとめたそうだ。
受けた依頼は、王都からとある貴族の領都まで貴金属類を運搬する、というモノだったが――それが失敗した。
途中で賊に襲われたのだが……それがどうも怪しい。
賊が出るような道は事前に調べ、避けていた。もちろん、それで絶対という訳ではないが、襲われた者の話によると、賊は訓練された兵士のようであった、と。
そのようなことをした理由は――あの白い布に包まれていた物を合法的に手に入れるため。
あれの中身は、竜の爪。
ジネスさんの先々々々代くらい前に手に入った家宝的な物で、その竜の爪を貴族が欲したため、そのような手段に出たのではないか、と。
ただ、証拠はない。
その証拠を取りに行かないか? ついでに竜の爪を奪い返さないか? と俺を誘いに来たそうだ。
……なるほど。
「それは、どこに行くことになるんだ?」
「そりゃもちろん、件の貴族の屋敷だな。竜の爪もそこに運ばれているし」
「エチーゴ商店の方は?」
「そっちは大丈夫だ。問題ない」
グッ! と親指を立てるキン。
もう既に何かやったあとっぽい。
事態はもう動き出しているようだ。
つまり、後戻りできない、と。
「そんな状態で俺を誘いに来るのかよ」
正直な感想。
「それに、そもそも貴族の屋敷に行く……この場合は忍び込むか? 発覚するとヤバいのは間違いないよな?」
「大丈夫だって。たとえ見つかったとしても証拠さえ見つかれば……あとはどうとでもなる。ここの上はそう悪くないからな。証拠が見つかって提出すれば、上手く取り計らってくれる。それは間違いない。俺が保証する」
いや、保証すると言われても、俺からすれば不安しかないが……・。
「それに、件の貴族は色々と黒い噂が絶えない。今回のじゃなくても、何かしらの悪事に手を染めているのは間違いないから、そっちのでも証拠が見つかれば、それで終わりだ」
なるほど。そうなのか。にはならない。
というか――。
「どうして俺を誘うんだ? そっちだけで終わらせられるだろ?」
「ああ、件の貴族の屋敷には俺ともう二人――協力者と共に行くつもりだったんだが、一人は所用で今居なくてな。残った俺もそいつも物理の方は強いが、魔法の方はちょっとな。それで、件の貴族は最近強い魔法使いを雇ったなんて話もあって、どうしたものかと思った時にアルムを思い出した訳だ。まっ、わかりやすく言えば、俺の直感だな」
直感で俺を巻き込まないで欲しい。
ただ、キンはどことなく顔が広そうだ。
「……協力してもいいが、条件がある」
「条件? なんだ?」
「俺はここの王さまに会いたい。あんたなら、どうにかして会わせることができるんじゃないか?」
忍び込んで会うよりかは好印象だろう。
キンは驚きの表情を浮かべたあと、俺を警戒するように見てくる。
「会って、どうするつもりだ?」
「渡したい物があるだけだ。といっても、危険物じゃない。ここの王さまが知っている人物からの預かり物だ。これ以上は言えない。実は、昼に出向いて断られてな――」
王城の門での門番二人とのやり取りを話す、
キンは笑った。
「はははははっ! いや、そりゃ無理だろ、普通! はははははっ!」
そこまで笑うか? と思うが、キンはテーブルまで叩き、上機嫌である。
「ははははは……はあ、笑わせてもらった。いいぜ。国王に会わせてやるよ。間違いなくな」
「なら、協力する」
キンと握手を交わす。
「それで、いつ決行だ?」
「今夜だ」
なるほど。今日は寝るのが少し遅くなるかもしれない。
パンを二個おかわりしておいた。
―――
キンから話を聞き、協力を求められて応じたのだが、キンは腹ごしらえをすると言ってそのまま食べ始める。
注文の際に、いつもの、と言って女将さんに通じていたので、何度もここを利用しているようだ。
そうして、夜。
キンの案内についていく。
もちろん、上空からアブさんもついてきている。
ないだろうが、キンが俺を騙していたらと念のためだ。
一応、人目は避けて大通りではなく裏路地のような道を通っていく。
キンの歩みに迷いはない。
「……随分と慣れているな。こういう道に詳しいのか」
「ん? まあな。城から抜け――まあ、ほらよ。俺は遊び人だから。自然とな。王都の道で俺より詳しいのは居ないと自負しているぜ」
自慢そうに言っているが……それは自慢できることなのだろうか?
ともかく、キンのあとをついていくと――気付けば周囲の建物が何やら大きく豪華になっていっている。ついでにどこにも庭があった。
いつの間にか、貴族街と思われるところに入ったようだ。
そして、他よりも大きな屋敷が見えてきた辺りで、男性が一人合流する。
茶髪に精悍な顔立ち、筋骨隆々な体付きに軽装に腰から長剣を提げた、四十代くらいの男性。なんというか……迫力があるというか、凄みがあるというか……絶対強いだろ、この人! と言いたくなる何かを感じた。
キンが声をかける。
「間に合ったようだな」
「うるさいのに捕まりそうだったがな。でもまあ、間に合わせるさ。頼まれていた物だ」
茶髪の男性が、キンに肩掛けカバンを渡す。
「おう。悪いな」
「これいくらいはどうってことはない。それで、そっちのが?」
茶髪の男性が俺に視線を向ける。
「ああ、俺の目に狂いがなければ凄腕だ。代わりだが問題ない」
どうも、凄腕です、と一礼しておく。
「ナートだ」
「アルムだ」
互いに簡潔に名だけ告げておく。
「良し。じゃあ、行くか!」
そう言って、キンと茶髪の男性――ナートと共に、見えていた大きな屋敷へと向かう。




