そういう風に見える時もある
宿屋に戻り、夕食には早いようなので一旦部屋へ――。
「……すみません。俺の部屋ってどこですか?」
直ぐ食事を取ったから、部屋の場所を確認していなかった。
女将さんと、互いに苦笑いを浮かべる。
変な客と思われただろうか? 面白い客だと思ってくれたらありがたいが……まあ、変な客だろうな。
それでも、さすがは女将さんと言うべきか、嫌な顔はせずに案内してくれた。
部屋へと入る。
ベッドや小棚がある程度の簡素な部屋。
なんというか、豪華な部屋というか寝室よりも、こういう方が落ち着くから不思議だ。それとも、慣れの問題だろうか。
一息吐いて、ベッドに腰を下ろして、そのままベッドに体を預けるように倒す。
………………。
………………。
なんだろうな。こう……天井に限らず、一部をジッと見ていると別のモノが見えてくるというか、今ジッと見ていた天井の一部が骸骨に見え……あっ。アブさんだ。
俺が気付いたことに気付いたのか、アブさんがそのままスゥーッと下りてきた。
「おかえり、アブさん。なんでそのまま入って来なかったんだ?」
「ただいま。いや、何やら考えていたように見えたから邪魔するのもな、と思っただけだ」
「そうか。気を遣わせて悪かったな。別に大したことではないと思うが……アブさんの方はどうだった? 面白かったか?」
「うむ。参考になるような建築はなかったが、全体的に活気があって中々面白かったな。やはり、世界最大であるラビン殿のダンジョンが近くにある影響だろう。得られる物も多種多様だろうしな」
うんうん、と頷くアブさん。
楽しかったようで何より。
「それより、アルムの方も何かあったのだろう? 大したことではないと言うが、何があったのだ?」
「ああ、少し面倒というか、巻き込まれたかもしれないというか――」
アブさんに、ここで食事を取ってからのことを話す。
…………………そう長い話でもないので直ぐ終わった。
聞き終えたアブさんは一つ頷く。
「気にし過ぎではないか? アルムが望まなくとも、巻き込まれる時は巻き込まれるものだ」
「……そういうものか?」
「そういうものだ」
気が楽になった……気がする。
ちなみに、王城に忍び込むのは、その方が手っ取り早いと賛成してくれた。
いや、アブさんに届けてもらうのも……駄目か。ラビンさんからも会った? と聞かれたし、直接会った方が後々のためにいい気がする。
そのために忍び込もうとしているのは……横に置いておこう。
とりあえず、そろそろ夕食時だと思うので食堂へ向かった。
本日の夕食のメニュー。
柔らかいパン(おかわり二個まで)、腸詰め入りスープ(三本入っている)、グラタン(器が気持ち大き目)といったところ。味はどれも美味い。
そうして食事を取っていると、女将さんが現れる。
「よろしいですか?」
「何か?」
「こちらの方が、お客さまにお話しがあると」
女将さんが紹介してきたのは……金髪の男性。
「やあ、先ほど振りだね!」
陽気な感じで挨拶をしてきた金髪の男性が、テーブルを挟んで対面に座る。
……いや、そんな自然に座られても。
もう既に座られてしまったけれど、なんか面倒そうだから、今からでも拒否して連れ帰ってもらえるだろうか? と女将さんを見れば――居ない!
どこに? と周囲を見れば、他のお客と談笑していた。
……押し付けていった訳ではないよな?
「どうかしたかい?」
「いや、なんでもない。それより、俺がここに居ると何故わかった? えっと」
「遊び人のキンだ。気軽にキンと呼んでくれ。皆からもそう呼ばれているしな」
「そうか。俺はアルムだ」
「アルムね。覚えた」
金髪の男性――キンが笑みをうかべてそう言う。
「それと、アルムがここに居るとわかったのは、ここの女将が教えてくれたんだよ。おっと、女将を責めるなよ。ここの女将と俺は所謂友達でね。俺がアルムをとある理由で探していると知ったから、会わせてくれとお願いしたんだよ」
そこは普通黙っておく……いや、初見の俺と友達だというキンであれば、女将さんが優先するのはキンの方か。仕方ない。
「別に責めはしない。それで、そのとある理由ってのはなんだ? それ次第でもあるが」
「おっと、そうだな。気を付けるようにと注意を促しておこうと思ってな」
「気を付ける? 注意? 何に?」
「ああ、あの時アルムが一人倒した、あの集団なんだが、話を聞くとどうにもきな臭くてな。妙な因縁を付けて絡んでくるかもしれないから気を付けるように」
「それならもう返り討ちにしておいた」
「……え? もう?」
頷きを返す。
すると、キンが笑い出す。
「はははははっ! さすが! あの時に強い魔法使いだと思ったが、それは間違っていなかった訳だ!」
キンは自分の膝まで叩き出したが、次の瞬間には遊び人とは思えない真面目な表情を浮かべる。
「だからこそ、その強さを見込んで、一つ協力してくれないか? 」
キンの目を見ればわかる。
俺を巻き込ませる気満々だ。
……なるほど。巻き込まれる時は巻き込まれるか。
アブさんの言う通りかもしれない、と思った。




