何も正面から行くだけが道ではない
王城に向かう。
アブさんはまだ王都内を散策しているようで会えなかったが……まあ、ラビンさんに託された報告書? みたいなモノを王さまに渡すだけなのでいいか。
竜山についても聞いてみるが……そっちは冒険者ギルドに聞く方が早い気がしないでもない。情報を出し渋られるだろうか? 竜たちを刺激するな、とか言われるかもしれない。まあ、その時は冒険者ギルド総本部に連絡してもらえばいいか。冒険者ギルド総本部のマスターにお願いすればいけるだろう。
そんなことを考えながら大通りを進んでいけば、王城がよりハッキリと見えてくる。
立派なのはそうだが、近付けばその大きさだけではなく、敷地もかなり広そうだ。あと、城を見た時に豪華とか荘厳とか、受ける印象というモノがあるが、ここは堅牢といったところだろうか。
ダンジョンが近くにあるので、そこで魔物大氾濫が起こった場合に備えてとか、そういった理由なのかもしれない。まあ、それは冒険者の国・トゥーラの王城と似たような状況かもしれないが、大きさはこちらの方が上だ。大きい分、より堅牢に見える。
………………。
………………。
でもなあ、ダンジョンが近いといっても、そこを管理しているのはラビンさんだ。間違いなく上手くやっているだろうから、魔物大氾濫の危険性は限りなく低いと思う。
いや、そもそも宿屋の女将さんの話だと、歴史の中で周辺国から何度か攻められたことがあるみたいだし、魔物ではなく人用かもしれない。
一人で納得していると、王城に着いた。正確には、その前。王城の門に。
門には当然のように門番として兵士が二人、門の左右に立っているが、さすがに無反応はまずいと思うので、軽く会釈して中に――。
「……いやいやいやいや」
「……こらこらこらこら」
門番二人が立ち塞がった。
俺は首を傾げる。
「何か?」
「いや、何か? じゃないから。そんな意味がわからないみたいな顔しても駄目だから」
「そうそう。ここをどこだと思っているの?」
「王城の門より先には行っていないから、まだ王都セントール内かな」
「まあ、そうだね。でも、ここより先は王城だから」
「許可なく入れないからね」
「……え? そうなのか?」
「いや、驚く意味がわからない」
「普通、入れないよね、ここ。というか、何かしらの許可があれば入れるけれど、そういうの、ある?」
「………………ああ、その、ない、かな」
「んん、ないかあ。まあ、沈黙していたから、こっちも『あっ、これは持っていないな』とは思ったけどね」
「それは、ないと……駄目な感じ?」
「ああ、まあ、駄目だね。うん。だから、私たちもこうして立っている訳だし」
「そっか。駄目か」
「寧ろ、何故会釈だけでいけると思った?」
「それは勢いというか……ここの王さまは気さくって聞いたから、会釈で入れるかなって」
「まあ、確かに気さくで、ここは国王さまが居る王城だけど、国王さまなら気にしないかもしれないけれど、他にも多くの人が居る訳だし、許可がないとさすがに、ね」
粘ってみても駄目そうだ。
しかし、これで俺だけの用件なら諦めるのだが、ラビンさんが書いたモノを渡さないといけないし……それなら、重要な用件だと言ってみるか?
……いや、駄目だ。これで、まずはここで重要かどうか確認するから話してみろ、となった時に話せない。ダンジョンマスターと関わりがあるとか、迂闊に口にしていいモノではないだろう。
たとえ目の前の門番二人がそのことを知っていたとしても、何故それを知っていると警戒されて捕らえられる可能性もあるのだ。
……ここは大人しく退こう。
「わかった。出直すよ」
わかってくれればいい、と頷く門番二人。
仕方ない。
夜。竜杖で飛んで忍び込むか。
―――
王都に戻り、夜までどうするかな? と考えながら歩いていると、前の方が騒がしいことに気付く。
興味本位で近付いてみると――。
「か、返してください! それは代々伝わってきた物で、手放す訳にはいかないのです!」
「そんなことは私の知ったことではありませんよ。ええ、ええ。仕事を受けて、失敗したのはあなた。それなのに補償ができないあなたの代わりに、私たちが補償したのですよ。その補償分として相応しい物をもらう。どこもおかしな話ではないでしょう?」
「そ、それは……」
「ジネス商店」と看板に書かれた商店の前で言い合い? が行われていた。
周囲の人たちの中から、何事かと足をとめているのも居る。
言い合いをしているのは、四十代くらいの細身の男性と、ガラの悪い取り巻きを数人連れた四十代くらいの恰幅のいい男性。
どちらも商人風の衣服を着ているが、恰幅のいい方は宝飾品を多く身に付けていて悪趣味だな、と思う。
ガラの悪い取り巻きの一人が、1mほどの棒状の物を抱き抱えている。
白い布に包まれているので中は何かわからないが、細身の男性はそれを返して欲しいと手を伸ばしていた。
「だ、だが、それだけはどうか勘弁して欲しい! それに、今回の件には怪しいところが」
「そうやって言い訳するのですか? 見苦しい。どれだけ言葉を重ねようとも、あなたが失敗したという事実は変わりません。それでは、失礼させていただきますね」
「ま、待ってくれ!」
細身の男性が駆け寄るが、恰幅のいい男性からの合図を受けたガラの悪い取り巻きの一人に突き飛ばされる。
細身の男性は、くそっ! と何度も地面を叩き、起き上がろうとするが、そこを別の取り巻きの一人が蹴り飛ばした。
どういう状況だ? と思っていると――。
「おいおい、酷いことをするヤツらだな。今のは、さすがにやり過ぎじゃないか?」
そう言いながら、金髪の整った顔立ちに軽装を身に付けた、二十代後半くらいの男性が現れた。




