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賢者巡礼  作者: ナハァト
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聞いていた話と違うのは、ままある

 スケルトンたちの紹介が終わり、俺のことを話すことになった。

 ………………。

 ………………。


「……で、ここに落ちてきて今に至る」


『………………』


 スケルトンたちが黙ってきいていたかと思えば――。


「……ぐすっ」


 気怠そうだったスケルトンが泣き声を上げた。

 それがきっかけとなり――。


「くそっ! 胸糞悪い!」


「正直言って、初期スキルだけを指針にするなど愚かとしか言えません」


「嫌な国だね~……潰したくなるよ」


「あらら。そういうことをする人はお仕置きしなくちゃね」


「崩壊させた方が周辺の国にも、後々のためにも良さそうです」


「やれやれ、そんな国ができているとはの……」


 スケルトンたちが思い思いの言葉を口にするが、怒り、悲痛、嘆きといった雰囲気が漂っている。

 俺に対しても同情的なモノを感じるが、別にそこまで気にかけてもらう必要はない。

 そもそも、母以外に仲がいい人も居なかった……というより、俺と仲良くしようとすると必ず跡継ぎが嬉々として介入して、時に暴力や言葉巧みに、時に貴族の力を使って破綻させてきた。

 正直言って、恨みと憎しみしかない。

 何しろ、あの貴族家は俺だけではなく母も軽んじていたからだ。

 それだけは許せない。

 だから、唯一気がかりなのは母だ。

 きっと、俺は死んだと、跡継ぎは喜びながら母に伝えるのは間違いない。

 生きていると今直ぐ伝えられないのは……つらい。

 雰囲気にあてられてか、俺も少し感傷的になってしまった。


「……ふむ。少しいいかの?」


 最年長っぽいスケルトンが声をかけてくる。


「何か?」


「先ほどの話の中で出ていたが、魂が欠けているというのはなんの根拠もない愚かで馬鹿な表現じゃが、魔力がないというのは本当かの? ちょっと調べさせて欲しいんじゃが?」


「別に構わない。いくら調べても、ないものはないが」


「なあに、一応じゃ、一応」


「そうか。………………はっ! そうか! 全員スケルトンとはいえ骨格が違う。俺の骨格を調べて、抜いたあとに誰が一番すんなりと入ることができるかを」


『だから、その発想から離れろ!』


 先ほどまでの雰囲気が一気に霧散した。

 さすがにここまで否定されると、違うのかもしれないと思う。

 俺の体を奪うためではないとなると……本当に助けられた、のかもしれない。

 そんなことを考えている間に、俺の体は調べられた。

 といっても、年長者っぽいスケルトンが、手のひらの骨を俺の腹部に当てているだけだったが。


「……なるほど。なるほど。確かに魔力はないが、器の方は………………これは、神の采配かの。運命というモノを信じたくなるの」


 何やらぶつぶつと言葉をこぼしているが、その内容まではわからない。

 納得している、ということだけはわかる。

 年長者っぽいスケルトンが俺の腹部から手を放し、一つ頷く。


「うむ。中々興味深かった。ありがとう」


「いえ」


 満足したような感じは伝わってくる。

 何かしらの収穫があったような雰囲気だ。

 今なら聞けるかも、と口を開く。


「ところで、一ついいですか?」


「ん? なんじゃ? 答えられることなら答えるぞ」


「先ほども言った通り、大穴に落ちたところまで憶えている。ただ、その先の記憶……ここがどこかとか、俺の今の状態、状況がわからない。それを教えて欲しい」


「構わんよ。ここは、縦穴横穴が複雑に入り組んでいる大穴の終着点の一つであり、ダンジョンの最下層でもある場所。他にも様々な終着点はあるが、最下層までは続いているのは一つだけで、途中から緩やかに滑って落下するため、もっとも安全なモノを引き当てたのじゃ」


 安全と言われても、ダンジョンの最下層となると……確か聞いた話によると……。


「地下100階ってことか」


「いや、違うよ」


 そう否定してきたのは、黒い衣服のスケルトン。


「このダンジョンの最下層は、現在地下212階ですよ」


 に、212階?

 想定以上の階層の多さにクラクラしそうになった。

 少なくとも、聞いていた話より倍以上の階層が……。


「ちょっと待って。現在?」


「そうだよ。このダンジョンは今も階層を増やし続けているからね。といっても、直ぐできる訳ではないから、時間を置けばという前置きが付くけれど」


 未だ増え続けているというのは驚きだが、やはりショックなのは現状だろう。

 最下層では……脱出しようとしても、道中の魔物にあっさりと殺されて終わりだ。

 もう出られないことに、少なからず心が折れそうになる。


「……そうか」


 そう返すのが精一杯だった。


「それと、お主の状態だが、生きておるよ。受けていた傷も治してもらったから、大丈夫なはずじゃ」


 言われて気付く。

 そういえば、魔物に吹き飛ばされて落ちたということを。

 その時の痛みは完全に消え失せていた。


「確かに、痛みがない。ありがとう……でも、治してもらったというのは、誰に?」


 スケルトンたちを見るが、誰も自分は違うと首を振る。


「それはあとで紹介しよう。とりあえず、寝泊まりできる場所はあるから、まずはそこで落ち着いて休んだ方がいい」


 そう言って年長者っぽいスケルトンが俺の肩を叩くので、弱々しいながらも笑みだけ返しておいた。


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