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賢者巡礼  作者: ナハァト
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言い訳ではなく、実際に忙しい場合もある

 ラビンさんのダンジョンに戻ろうと思った理由は、もう一つある。

 今回の出来事――特に黒ローブの男性と神杖の件を、無のグラノさんやラビンさん、カーくんに伝えないといけないと思うからだ。

 これにはアブさんも同意。

 そうと決めれば、早速戻る――前に、数名と軽く挨拶だけかわしておくことにした。

 翌日。挨拶回りが終わればそのまま出発するつもりなので、アブさんがこっそりと付いて来つつ、まずはセカンから。

 大教会内にある、一番豪華な客室で書類仕事をしていたが、声をかければ話に付き合ってくれる。

 少しだけ雑談したあと――。


「じゃあな。責任者として頑張ってくれ」


 そろそろ行くと伝えれば、セカンは少しだけ複雑そうな表情を浮かべた。


「何故だろうな。いや、アルムは協力者なだけで、リミタリー帝国所属ではない、ということはわかっているのだが」


「いや、これ以上は国と国の問題だろ。そこに俺が関われることはない。『人類最強』も贖罪の意思を示した。俺が抜けても大丈夫だろ」


「だから、わかっていると言っているだろう。確かに、これ以上引きとめるのもな。アルムがリミタリー帝国所属であれば、という……ただ、それだけのことだ。残念で仕方ない」


「まあ、友人関係が途切れる訳じゃない。また会うこともあるさ」


「そうだな。その時は酒でも酌み交わそうか」


「はいはい。愚痴に付き合ってやるよ」


「朝まで頼む。いや、そんな数時間で終わるとは思えないから何回かに分けて……」


 付き合っていられない、と次へと向かう。

 といっても、同じ室内で、同じく書類仕事をしているのだが。


「アスリーも、元気でな」


「そちらもな」


 まあ、アスリーとはこんな感じで充分だ。

 ……というか、これ以上の話題があるだろうか? こういう時、共通の話題がないと厳しい。……最近、ファイとの戦績はどう? ……いやいや、これはないな。なさ過ぎる。アスリーとの話題……話題か……。


「………………」


「………………」


 いや、アスリーもないのかよ!

 お互いに困った表情を浮かべていたことに気付き、自然と苦笑いが浮かぶ。


「まっ、こちらも次の機会があれば飲んでみるか」


 アスリーがそう提案してくるので、了承を伝える。


「そうだな。やってみるか」


「先約は私だからな。いや、なんだったらアスリーも一緒でいいぞ」


 セカンがそう口にする。

 アスリーはなんとも言えない表情を浮かべた。

 ……なんか、それっぽい理由を付けて断りそうだな、と思う。

 そこに触れると、アスリーから余計なことを言うな、と怒られそうなので何も言わないでおく。

 そして、室内には、もう一人書類仕事をしているのが居る――。


「……また、男が去っていく……いつもそう……これまでも男の方から離れて……完璧に振る舞おうとすることの何が悪いの……隙があった方がいいって何?」


 のだが、両肘を机につき、顔の前で手を組んで、何やらぶつぶつと呟いていた。

 声量が小さ過ぎて何を言っているのか聞き取れないが、組んだ手によって表情は見えず、闇を纏う……いや、振り撒いている? ……ともかく、声をかけづらい雰囲気を醸し出している。

 ……まあ、知らぬ仲ではないし、リミタリー帝国関係者の中では比較的接してきた方なので一声くらいはかけておきたいが……これは、どうすればいい? とセカンとアスリーを見ると――。


「「――(サッ)」」


 目が合った瞬間、二人共「ああ、忙しい……」と書類仕事を始める。

 いや、先ほどまで確かに感じていた友情はどこに行った?

 しかし、これはどうしたものか……助けがないことは確定したことだけはわかる。


「……えっと、それじゃあ、また、な?」


 和やかに話せる雰囲気を放っていないし、挨拶するのが精一杯というか。

 まあ、返事は期待していなかった。聞こえていないと思っていたから。

 しかし、クフォラは顔を上げて俺を見る。


「……また?」


「あ、ああ」


「つまり、また会う機会がある、と?」


「あ、ああ。あるんじゃ……ないか?」


 セカンとアスリーとは次の機会が――とまた会う前提で話しているし、その時にクフォラとも会うかもしれない。

 だから、ないとは断言できないのだが……そんな前のめりで聞くことか?

 なんか鬼気迫るモノがあるというか、よくわからないが恐怖のようなモノを感じる。

 助けを求めるが、セカンとアスリーは一心不乱に書類仕事に取り組んでいる……ように見えた。

 次の機会はないかもしれない。

 くそっ。どうしたものか――。


「……はっ! い、いえ、なんでもありません。あなたが優れた魔法使いということはわかりました。ですが、使用する魔力量が増えると魔力制御の甘さが目立ちます。せっかくの魔力量もそれでは万全に活かせません。もっと頑張りなさい。いつか、あなたを倒して私が名実共に一番の魔法使いだと名乗れるように」


 悩み始めようとしたら、急にその必要がなくなった。

 いや、なんかさっきまで雰囲気が変わり過ぎじゃないか?

 今は「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」で一番の魔法使いそのものといった感じである。


「ああ。きちんと制御できるように頑張るよ。まあ、負けるつもりはないが。またな」


「ええ。またお会いしましょう。それまで、お元気で」


 クフォラと挨拶を交わしてから部屋を出て――あともう一人。ファイの下へ。

 ファイは大教会の横――敷地内にある開けた場所で、リミタリー帝国軍の兵士たちを相手に鍛錬していた。

 ……いや、リミタリー帝国軍だけではない。疲弊し切って倒れている者の中にはアフロディモン聖教国軍の兵士の姿もある。きっと強制参加させられたのだろう。


「ん? アルムか? どうした? また勝負か?」


 ファイが気付いてこちらに来る。

 兵士諸君。あからさまに安堵しているが、今は別に休憩時間ではないと思うが?


「いや、勝負はまたの機会だな。ここで俺がやることはもうないだろうし、他に用があるから戻ることにした。だから、その前に挨拶しに来ただけだ」


「そうか。また会える時を楽しみにしているぜ!」


「その心は?」


「次会う時は、さらに強くなっているだろうからな。アルムと戦うのがさらに楽しくなりそうだ!」


 これである。

 まあ、ファイらしいと言えばファイらしいので、今更だ。

 軽く雑談を交えたあと、互いに軽く手を上げる。


「じゃ、またな」


「ああ、またな」


 まあ、ファイとはこれくらい気安い感じで充分である。

 そうしてこの場をあとにして……ルーベリー教皇はそこまで関わりがある訳ではないので除外となると……こんなモノか。

 挨拶回りが終わったので、早速出発――おっと、普通に大教会から聖都に出るところだった。

 下手に顔を見せない方がいいということを思い出す。

 なので、竜杖に乗って空から出発した――のだが、気付く人は気付くようで、聖都上空に居る俺に向けて手を振ってくる人たちが居た。

 あそこまで熱心に手を振られると返した方がいいかな? と振っておく。

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