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賢者巡礼  作者: ナハァト
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効果がないというか、意味がないというか

 大教会の地下に牢屋がある……というのは、そこはかとなく闇を感じるのだが、触れない方がいいだろう。

 それに、ここは国の中心の大教会。他の国であれば王都で王城である。

 そう考えれば、別にそういうモノがあってもおかしくない……はず。

 ………………まあ、それでもこういう場にある地下の牢って、何をどう繕っても闇を感じてしまうものだ。

 ……突然不死系が出てこないよな? と思いつつ、セカン、ファイ、アスリー、クフォラに、俺を含めた五人で、しっかりと照らされた地下の通路を、目当ての牢に向けて進んでいく。

 他に兵士を連れずにこの五人だけなのは、そこまで広い場所という訳ではないので、人数を揃えても手狭なだけで、戦力という意味でも数だけでは通じない相手だからだ。

 なので、少数精鋭でなければならない。

 だから、俺もこの場に居るのである。

 まあ、これで書類仕事が少し滞る可能性がある、ということで、セカン、アスリー、クフォラは少しげんなりしているが。

 ただ、ルーベリー教皇を始めとするアフロディモン聖教国の関係者は、この場には居ない。

 裁可はこちらに任せる、ということだろう。どのような結果になろうとも受け入れるつもりなのかもしれない。もしくは、持て余してしまうだろうから、押し付けられた――だろうか。

 ……あっ。不死系だ。と思えばアブさんだった。

 牢屋の中に居て、出してくれ~、と俺に向けてアピールしている。

 いや、いつでも出られるでしょ、と思うが、遊んでいるだけだろう。

 何しろ、そのまま素通りすれば次の牢屋の中に居て、「よく来たな。何が知りたい?」みたいな雰囲気でこちらを見ていたからだ。

 特に知りたいことはないので、そのまま素通りする。

 そうして進んでいる内に辿り着く。

 最奥。この場で一番大きく、堅牢そうな牢の中――こちらに向けて膝を着いて座る「人類最強」が居た。手枷が嵌められているのが見てわかる。足枷は……アレだ。鉄球と鎖で繋がっているヤツ。

 ………………効果あるのか? これ。

 いや、普通はある。重いし。身動きがとりづらくなるのは間違いない。でも、今繋がっている相手は「人類最強」である。効果があるとは思えないというか、まったく意味がないような……寧ろ、鉄球を武器にして戦う……いや、「人類最強」の場合はそのまま肉体の力で戦った方が強いか。


「……さて、自分がどういう状況に置かれているか。その説明は必要か?」


 こちら側の責任者として、セカンがそう口にする。

 おっと、余計なことは考えない。

 今はセカンと「人類最強」の会話に集中だ。

 セカンがこちら側の代表者であり、「人類最強」に対する裁可の決定権を持っているため、俺と含めたファイたちは何も言わない。

「人類最強」は首を左右に振った。


「いや、必要ない。記憶は……ある。最初から。……己が行ってきたことのすべてを思い出せる」


「そうか」


「それを、意識がなかった、あの教皇に操られて命令されたから、などと己を擁護したりはしない。相手からすれば、その時の状態など関係ない。どのような状態であろうとも、己がやったことに変わりはないのだ。だから、どのような裁可であろうとも大人しく受け入れる」


「反抗する気はない。こちらの下す裁可に従うと? 死刑であってもか?」


「ああ。受け入れよう」


「……貴様なら容易に逃げ出すことも、追っ手も返り討ちにして逃げ続けることもできると思うが? それこそ、今襲いかかり、私たちを全員殺すこともできると思うが?」


 いいや、それは無理だね、と俺は内心で思う。

 そう簡単にはやられない。他の者を逃がす時間くらいは稼いでみせる、とも。

 ただ、ファイはそれを隠そうともせずに、そんな訳あるか、とセカンを睨み付ける。クフォラはどうでも良さそうだが、アスリーは珍しくどこか不機嫌そうだった。


「確かに、それだけの力は有しているようだ。だが、己の心を取り戻した今、己の意思でそのようなことは行わない」


「なるほど。……こちらの裁可を受け入れる意思があるのはわかった。だが、裁可がどのようなモノになろうとも、一つだけ確かなことがある。今後貴様に自由は与えられない。死する時が安息となるのは間違いない。それはこれまでよりも、体と心にとって辛く厳しいモノとなるだろう。それで構わないと?」


「ああ。己の意思でそう決めた。それが大事であり、辛く厳しくなるのは寧ろ望むところだ」


「人類最強」が即座に肯定する。

 もう、そうすると決めている――その意思は固そうに見えた。


「ただ、望めるのであれば、贖罪となるようなことをお願いしたい」


「贖罪か。まあ、その辺りはルーベリー教皇とも擦り合わせていかないといけないな。だが、まずは貴様が知っている前教皇について包み隠さず話してもらおうか。何を行ってきたのかを――それで貴様が行ったことも含めて」


「ああ、すべて話そう。隠し立てはしない。だが、その前に一ついいか?」


「なんだ?」


 セカンが問いかける。

 それにしても「人類最強」って結構喋れるんだな。寡黙だったのは、意識がないようなモノだったからか? と考えていると、「人類最強」が俺をジッと見ていることに気付く。


「……なんだ? 何か俺に言いたいことでもあるのか?」


「何故だろうな。理由はわからないが、最後に食らった魔法よりも、その前に食らった拳の方が痛かったと、それだけは言っておいた方がいい気がしただけだ」


「……あっそ」


 思いを込めた分、強く響いたのかもしれない。

 そのあとは、セカンが「人類最強」にいくつか尋ねるが、どうやら前教皇が関わっていると疑われていたモノがあって、その確認をしているようだった。

 実際に該当するモノがあったようで、セカンが疲れたように息を吐く。

 ついでとばかりに、ファイが一対一で戦うようにも伝えていた。

 さすがに一対一は……と思うが、やりたいのならやらせればいいと、誰もとめない。

 ……ファイの戦闘欲求が「人類最強」に向いたままになれば、周囲の被害が減るかもしれない、とか考えていそうだ。

 まあ、何かあれば別だが、「人類最強」については今のところこれ以上関わる気はない。

 それよりも、リミタリー帝国が勝利したことということは、この国でやることは終わったようなモノだし、俺はそろそろラビンさんのダンジョンに戻ろうと思った。

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