なんとも言えない気持ちを抱く時もある
明けましておめでとうございます。
ファイの案内で、大教会内を進んでいく。
その目的はルーベリー枢機卿に付けられた物を取り払うため。
それは別にいいのだが――。
「………………」
なんとも言えない。
というのも、ここが大教会内ということもあってか、聖職者たちが居るのだ。
その聖職者たちとすれ違う時に、俺に向けて祈るのである。
………………。
………………。
なんとも言えない気持ちになった。
「ああ、アルムは迂闊に外に――大教会の敷地内ならいいが、それより外に出るなよ」
「なんでだ?」
「今より酷い状況になるぞ。たとえば、住民たちに囲まれて祈られたり、もてはやされたり」
それは面倒なので出ないことにする。
ここから出る時は、空からにしよう。
「……いや、それもそうだが、いいのか? ここって今リミタリー帝国軍が占領しているんだろ? なのに、特に拘束といった様子もなく――なんというか普通なんだが?」
「それは協力的だからだな。まあ、あの教皇は恨みを買いまくっていたのか、色々と思うところがあったみたいで、寧ろ感謝の言葉をもらったくらいだ」
「まあ、あの教皇は確かにそんな感じだったが……」
世界は私の物とか平然と言うくらいだったし。
「それに、お前のおかげで住民たちが受け入れているのも関係あるっぽいな」
だからか。
間違いなく、それが関わっていると思う。
だから、妙に落ち着かない。
そんなアフロディモン聖教国の人たちとは対照的に、リミタリー帝国軍の方は特にこれといったモノはない。
落ち着いているというか、普段通りだ。
……俺に対しては。
ファイに対しては違う。
露骨に反応している。
数の力があったとはいえ、「人類最強」に勝利したのだ。
こうなりたい。ここまで強くなりたい。いつか「暗黒騎士団」に。――なんて思いの羨望の眼差しが向けられている……こともなく、リミタリー帝国軍はファイからサッと視線を逸らす。
まるで、目と目が合ったら戦闘開始の合図となってしまう、とでもいうように。
いや、いくらなんでも……と思うが、ファイの性格を考えれば――否定できない。
特に今は本気を出したであろう「人類最強」と戦ったことで、彼我の力の差がより明確になったのだ。
それを目標として今より強くなろうと、ファイなら直ぐ動き出していてもおかしくない……いや、もう動き出していて、体が疼いて仕方ないとか……そんな感じで既に何人かは強制的に戦闘を……。
おそらく、アスリーとクフォラだけでなく、セカンも既に……目覚めた俺も危険だ。巻き込まれないように気を付け――。
「あっ、アルム。枢機卿を元に戻したら俺と一戦やろうぜ」
「……いや、俺起きたばっかりなんだが」
早速約束を取り付けようとしないで欲しい。
まあ、世の中には起きて直ぐ行動を起こせる者も居るが、俺はどちらかと言えば、起きても少しの間はそのまま横になっていて、ゆっくりと起きていきたい派だ。
なので、できれば……。
「じゃあ、アルムの負け。俺の方が強いってことで」
「……は? なら、あとでわからせてやるよ」
ギッタギッタに……はっ! しまった! 嵌められた!
ファイが笑みを浮かべているのだが、俺を嵌めたことに対するモノなのか、戦えることに対するモノなのか――判断に悩む。
……両方かな。
そうしてファイの案内で、大教会内にある一室――ルーベリー枢機卿の私室へと向かう。
ちなみに、アブさんも密かに付いてきているが……なんの問題もなさそうだ。何かを弾いているとか、そういった様子もない。ここは本当に大教会内部なのだろうか? 神聖とは一体……。
ともかく、ほどなくして辿り着いた部屋の前にはリミタリー帝国軍の兵士が立っていたのだが、ファイが話を通して中へ入る。
アブさんは外から様子を窺うようだ。
ルーベリー枢機卿は察知するかもしれないからだろう。
「教皇さまはどちらに? 私などより、あの方こそ教皇に相応しいのです!」
中に入ると、いきなりそんな声が聞こえてきた。
様子を窺うと、ルーベリー枢機卿がお付きの人と思われる神官とシスターたちにそう力説している。
「なるほど。こんな感じか」
「ああ、こんな感じだ」
確かに、これは駄目だろう。
ファイと共にうんうんと頷く。
「それで、どうする? 一度眠らせた方がいいか? 必要なら――トンッ。とやるが?」
ファイが手刀を俺に見せてくる。
それは本当にできるのか? アスリーならできそうだが、ファイはなんか力加減とか普通に間違えてできずに相手を怒らせて、そのまま戦いになって倒して結果的に意識を失わせることになりそうなんだが……。
疑いの目を向ける。
「なんだ、その目は。できないと思っているな。見てろよ」
ファイがなんでもないようにルーベリー枢機卿の背後に回り――。
「敵意!」
トンッ! としようとした手を、ルーベリー枢機卿が振り返って交差した両腕で防ぐ。
「甘いな、若造。これでも若い頃は武闘派としてそれなりに」
「へえ! 面白いな。なら、俺と一戦」
「そこの人たち! 今から解除するから取り押さえて!」
ファイが危険そうだったので、俺が合図を出す。
戸惑っていた神官とシスターたちが、ルーベリー枢機卿に飛びかかる。
ルーベリー枢機卿からすれば多勢に無勢で、直ぐに取り押さえられた。
「くっ、面白くなりそうだったのに。仕方ない。アルム、解除しろ」
「………………はいはい」
ルーベリー枢機卿に付けられた吸盤、腕輪、足輪にそれぞれ魔力を流して解除する。
それで衝撃が走ったかどうかはわからないが、解除するとルーベリー枢機卿は意識を失う。
「あとは、目覚めるのを待てばいいだけか」
ファイがそう言う。
確かにその通りだが、とりあえずもう取り押さえる必要はないので、ルーベリー枢機卿を解放しようか。ファイだけではなく神官とシスターたちも。
かなり痛そうな関節の極め方をしているけれど、そこまでする必要はあったのだろうか?
……きっと、当人たちにしかわからないような何かがあるのだろう。




