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賢者巡礼  作者: ナハァト
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そこまで疑う必要は普通ない

 ………………。

 ………………。

 意識が覚醒していく。

 ゆっくりと、目を開け――。


「………………」


 最初に見たのは髑髏。

 こちらを見ている……気がする。


「………………俺、死んだのか?」


 そう口にする。

 別に返答は求めていない。

 何故なら、今目が合っている? のは髑髏。つまり、ここは棺桶の中で、俺は幽体となって自分の髑髏を見ているのではないだろうか?

 そう考えたからである。


「いいや、生きているぞ」


 目の前の髑髏から返答があった。

 声には出さないが、目は大きく開いたと思う。

 どういうことだ? 俺は死んだのでは――いや、生きているのか?

 ただ、髑髏は生きているという。

 というか、髑髏には骨の体があって、ローブを纏い……寧ろ、どこかで見たことがあるというか、知っている髑髏だ。


「アブさん?」


「うむ。他の誰に見える?」


 これほどの美顔――いや、これほどの美骸骨(ナイスガイ)は他に居ないだろ? と流し目で見るように顔を傾けるアブさん。

 そういうのは俺ではなく、他の骸骨に……いや、ちょっと待て。

 なんでアブさんが俺を見ていたんだ?

 なんか記憶が……。

 体を起こす――ことで、自分がベッドの上で寝ていたのだと自覚する。

 そのまま周囲を見れば……それほど大きくない部屋。置かれている物から察するに、寝室だろうか。

 ベッド脇の小さな台座に竜杖が立てかけられ、台座の上には水差しとコップがあるが……飲んで大丈夫だろうか?

 起きたばかりで喉は乾いていた。軽くでもいいから水を飲んで一息吐きたい気分でもある。でも、この水差しの水は安全なのだろうか? 実は毒が入れられていて、起きたばかりで水を飲みたくなる心理を突いて殺害。犯人はその時別の場所に居て……いや、考え過ぎか。

 起きたばかりだからか、思考が妙な方向に向かっている気がする。

 まずは水でも飲んで一息……こういう心理を狙っていたのか! 危なかった。

 ここがどこか、状況もわからない以上、ここにある物は迂闊に手を出さない方がいいだろう。下手に触れて何かを壊してしまった場合、賠償金も発生するかもしれないし。

 ……まあ、アブさんが居て、特に危機感のようなモノは持っていないようなので、ここは安全な場所だと思うのだが………………なんで俺はここに?

 一人だけだったら何もわからなかったが、アブさんが居るならアブさんに聞けばいい。

 とりあえず、まだ流し目状態だったのでそれはやめろと伝えてから、アブさんに状況の説明をお願いした。


「……状況と言われても、某はアルムに付き添っていたから、わかる部分しかわからないが、それでもいいのか?」


「ああ、まずはわかる範囲で構わない」


 アブさんから状況を聞く。

 まず、ここはアフロディモン聖教国・聖都・大教会の中にある、個室の一つだそうだ。

 ………………。

 ………………。


「え? いやいや、え? なんで――て、そういえば、ここは大教会ってことは聖域みたいなモノだし、アブさんが中に入って……そういえば、普通に入っていたな。あれ? 大丈夫なのか?」


 今もここに居るし。


「大丈夫。某くらいになると聖域など関係ない」


 むんっ! と胸を張るアブさん。

 そうか。アブさんくらい強くなれば関係ないのか。

 周囲から神聖なモノなんて一切感じないし、別に聖域でもなんでもないとか、アブさんではなくそっちの方が関係していると思っていた。


「それで、どうしてここに? というか、俺はなんで寝ていたんだ?」


「憶えていないのか?」


 尋ねられて、思い出す。

 自分だけだと無理だけど、他の人から言われて思い出すことってある。そんな感じ。

 思い出したのは、直前の記憶――黒ローブの男性が放った槌状の黒く輝く闇に飲み込まれ……あれ? 無事?

 自分の体を見るが、特に何かがあったようには見えない。普通。いつも通り。

 神杖効果による黒ローブの男性の魔法はかなり強力だったのだが……。


「なんで無事?」


 どういうこと? とあの時の状況を詳しく聞くと、アブさんから見ても槌状の黒く輝く闇が俺を飲み込まれたのは間違いなく、意識を失ったように落下したらしい。

 いや、俺にその記憶はないので、意識を失っていた。

 黒ローブの男性はそんな俺を気にすることなく、空中に黒い丸を出現させてその中に入り、黒い丸が消えるのと同時に姿も消えたそうだ。

 俺の方はというと落下していたが、黒ローブの男性がこの場から消えると、竜杖が支えるようにして地上までゆっくり降下していった。

 竜杖に助けられたようなので、ありがとう、と竜杖に向けて頭を下げる。

 装飾の竜はどこか誇らしげに見えた。

 そうして、地上まで降下すると、そこにファイたちが駆け寄って回収される。

 アブさんもこっそり様子を見ていたのだが、俺にダメージはあった。

 けれど、それは回復薬や回復魔法で治る程度だったらしく、今はもう治療されている。

 おそらく、という注釈はつくそうだが、槌状の黒く輝く闇を食らってもその程度で済んだのは、ドラゴンローブが守ったのでないかとアブさんは言う。

 物理防御力よりも魔法防御力の方が強く、だから即座に治療できる程度で済んだのではないか? というのがアブさんの推測だ。

 俺もそう思った。


「それで、どうしてここに?」


 居るのならリミタリー帝国の陣の方では? と思ったが、今は俺が意識を失ってから二日後で、リミタリー帝国軍とアフロディモン聖教国軍の戦いは既に終わっていた。

 勝ったのはリミタリー帝国軍。

 現在、聖都はリミタリー帝国軍の占領下となっている。

 そこまで聞いた時、ノック音もなく、いきなり寝室の扉が開いて、そこからファイが入ってきた。

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