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賢者巡礼  作者: ナハァト
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引っかかりそうになる時だってある

「さて、いくよ。『黒失 何物をも通さず 何物をも透さず 何者をも跳ね除ける 黒球(ダークボール)』」


 黒ローブの男性の周囲に黒い球が数十作り出されたかと思えば、俺に向けて飛んでくる。

 いきなり多過ぎないか? と思いつつ――。


「『白輝 輝きは形作られ 輝きが満たされ 輝きに焼き尽くされる 光球(ライトボール)』」


 ほぼ同数の白く輝く球を作り出して相殺――できなかった。

 俺が作り出した白く輝く球は黒い球にぶつかると弾けて消えてしまう。全部。どれも。

 神杖を使っていても、教皇の魔法ならこれで相殺できたはずなのに、できなかったということは威力が全く違うということだ。それだけ黒ローブの男性の魔法の方が教皇よりも上である、ということだろう。

 黒い球はそのまま何事もなかったように俺に向かってきた。


「くっ」


 竜杖を上手く操作して、黒い球をかわしていく。

 ここが空で良かった、と思うくらい縦横無尽に動きまくる。

 そのおかげか、自分で自分を褒めたくなるくらい、黒い球をすべて回避した。

 反撃しようとする俺に黒ローブの男性が声をかけてくる。


「安心するのは早いんじゃないかな?」


 嫌な予感がして振り返った。


「――追尾するのか!」


 数十の黒い球が綺麗な弧を描いて戻ってくる。

 ただ、速度自体が変わった訳ではない。数も増えていない。軌道が不規則になった訳でもない。

 再度、すべて避ける――が再び戻ってくる。

 それを繰り返していると、黒ローブの男性が突然笑い出す。


「アハハハハハッ! なるほど。教皇が言っていたように、今のキミの姿は羽虫みたいだね!」


「お前、絶対しばく!」


 黒い球を避けつつ、文句はきちんと言っておく。

 けれど、このままだと言葉通りにしばくのは難しい。

 待てよ。いいことを思い付いた。

 このまま黒い球を引き付けて、黒ローブの男性に押し付ければ……いや、駄目だ。神杖があるということは、あの障壁があるということ。

 黒い球がどれだけの威力かはわからないが、あの障壁を破れるほどとは思えない。なら、もし誘導したとしても効果はないというか、黒い球が避けることもあり得る。

 しばくのも、まずは障壁をどうにかしないといけない。

 ……それに、下手をすれば俺が危ない。障壁に衝突するといった間抜けな姿を見せることだってあり得る。

 うん。誘導はなしだな。

 それなら――素直に相殺しよう。

 一度で駄目なら、何度でも攻撃を当てるまでだ。

 数十の黒い球を避けながら、白く輝く球を作り出しては放って当てていく。

 二、三発当てると相殺された。

 相殺できるとわかれば充分。

 さらに白く輝く球を作り出して、黒い球をすべて相殺する。


「おお! やるね! 神杖の効果で、初歩的な魔法でも相当な威力になっているのに、それを相殺するなんて!」


「褒められている気はしないな」


「それはそうさ。言ったでしょ。初歩的な魔法でも、て。でも今は遊びなんだから、これくらいで丁度いいでしょ?」


 黒ローブの男性が再度魔法で黒い球を数十作り出す。

 またか、と言いたくなった。

 結構苦労するというか、疲れるのでやめて欲しい。


「ハハハ。面倒とか思っているでしょ?」


「……なんのことだか。これくらい、どうってことはない」


「アハハ。強がり言っちゃって。顔に出ているよ」


 ――顔に当てそうになった手を理性の力でとめる。

 危ない。今のは誘導だ。引っかかるところだった。


「……今、反応しそうだったでしょ?」


「そんな訳あるか」


「そう? なら、頑張ってもらおうかな」


 再度、数十の黒い球が俺に向けて放たれる。

 ちくしょう。遊んでいるつもりか? ……いや、そうなんだろうな。そのようなことを言っていたし。

 だからこそ、そんなヤツに負けていられない。

 黒い球を相殺しつつ、反撃の魔法を放つ。

 障壁に防がれるのはわかっている。それでもやめない。

 これくらいのことはできる、と見せるためだ。

 ……まあ、黒ローブの男性は特に気にした様子は見せていないが。

 けれど、そうしている内に――気付けば、黒い球を再びすべて相殺する。

 追加は……ない。


「なんだ? もう魔力切れか?」


 黒ローブの男性に向けてそう口にするが、そうではないのは見ればわかった。

 いや、黒ローブで隠れているので表情は見えないが、そういう雰囲気である。


「まさか。言ったでしょ。これから向かうべきところがあるって。そろそろ行かなきゃいけないから、もうキミと遊んでいられないだけだよ。だから、これで終わり。『黒失 黒き力 何物にも染められず 塗り潰す』」


 黒ローブの男性から濃密な嫌な感覚の魔力が漏れ出た。

 ただ、俺も対抗して詠唱を始めている。


「『白輝 白き力 万物を染め上げ 消し去る』」


 注げるだけの魔力を注ぐ。

 同時に、放つ。


「『闇の鉄槌(ダーク・クラッシュ)』」


「『光の浄化(ライト・イレイザー)』」


 俺の前に魔法陣が展開し、そこから槍状の白く輝く光が飛び出す。

 黒ローブの男性の前にも魔法陣が展開していて、そこから槌状の黒く輝く闇が飛び出し――衝突して、せめぎ合いが起こる――が。


「……く、くそっ!」


 俺の白く輝く光が、黒ローブの男性の黒く輝く闇に押される。

 じわりじわり、とではなく、結構な勢いで。

 威力が違い過ぎるのだ。

 このままでは不味い、と魔力を注いで対抗しようとするが、そんな俺の行動に合わせるかのように黒く輝く闇が強くなっていって少しも押し返せなかった。

 魔力量なら負けないだろうから、もっと魔力を注げば――と思うが、そうする前に押し切られそうだ。


「ハハハ。いやいや、すごいよ。ここまでもつなんてね。でも、だからこそ、『賢者』となり得る魔法使いは処分しなきゃ……これまで通りに、ね」


 ――これまで?

 そこに妙な引っかかりを覚えるが、それ以上は考えられなかった。

 黒く輝く闇の威力がさらに強くなり、白く輝く光を飲み込んで――その先に居る俺も飲み込まれた。

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