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賢者巡礼  作者: ナハァト
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他の人に向けたモノでも自分に当てはまる時がある

 教皇の背後に黒い丸ができたかと思えば、そこから黒ローブの男性が出てきて、教皇を背後から突き刺したようだ。

 黒い丸は消え――。


「き、さま……な、ぜ……」


 教皇が首を回してうしろを確認すると、驚愕の表情を浮かべながらそう口にする。

 仲間に裏切られると思っていなかった、ということか。


「刺し、殺したはず……」


 違った。既に裏切ったあとだったようだ。

 なんか恥ずかしい。口にしなくて本当に良かった。裏切りか? と少しドヤ顔で口にして間違うところだったが、様子見で留めておいて正解だったようだ。


「ええ。キミに刺されましたよ。残念だったね。あの程度で自分は殺せないよ。でも、痛かったから、これはそのお返し。自分の背後からキミが刺した短剣で、同じように刺しておいたから。まあ、元々キミの短剣だし、物を返したという意味も含まれているかな」


 先に裏切ったのが教皇なら、これは自業自得というヤツか………………て、えええええっ! 本当に生きていたのか、あいつ。話には聞いて、それっぽいな、と思って半ば確信はしていたが、それでもこうして目にすると驚愕する。

 ……まったく無事だな。俺の魔法を食らったあとはないし、教皇が刺したあともない……というか、教皇が邪魔で見えない。本当にあとない? それはそれでなんの効果も与えなかった――みたいで、なんかちょっと思うところがあるのだが。


「寧ろ、あれで自分を殺せたと思ったとか、そんなんだから、神杖を手にしても使いこなせないんだよ」


 ……いや、黒ローブの男性が教皇に向けてそう言っているのは状況的にわかる。わかるのだが……なんというか、他の人に向けて言っている言葉であっても、自分にも刺さる時ってある。今もそう。確かに手応えは感じていなかったが、俺も黒ローブの男性は倒したと思っていたのだ。黒ローブの男性の言葉に当てはまる。当てはまってしまう。思わず顔を逸らすか、両手で覆ってしまいたくなるが、我慢。そんな行動をしてしまえば、自らばらしてしまうようなモノだ。


「………………」


「………………」


 なんか黒ローブの男性が俺を見ている気がする。

 もしかして、我慢していることに気付いたか?


「……う、うう」


「おっと、まずはキミだったね。キミの相手をしないと。いやあ、少し嬉しいよ。キミが最後に接する者が自分であって」


 大丈夫。怪しまれた気がしないでもないが、触れられていないのなら実質何もなかったと言ってもいいはずだから、問題ない。

 それにしても、こういう時、俺の立場としてはどうしたらいいのだろうか?

 横槍を入れるべき? でも、どっちも敵であるし……。

 天気と悪魔が肩を組んで出て来そうな状況だ。


「き……さぁ、まぁ……ころ、して……や……」


 黒ローブの男性を見る教皇の表情は怨嗟そのものだが、その生命は輝いていないというか、教皇にはもう生気が感じられない。

 背中から突き刺されたであろう剣が、致命傷となっているようだ。

 教皇は黒ローブの男性に向けて神杖を振ろうとしたが、その動きは酷く緩慢であり、寧ろ差し出しているようにしか見えなかった。


「ありがとう。渡してくれて。まあ、元々そういう約束だったんだから、言葉にしても感謝の気持ちは一切ないけれどね」


 黒ローブの男性が神杖を奪い取った。

 教皇が返せと手を伸ばすが、限界が近いと示すように弱々しい。


「きさ、まぁ!」


「ああ、そうそう。キミが気になっているかどうかは知らないけれど、一応教えておくよ。……キミが言ったことは間違っていない。自分も、あの時キミを殺そうと思っていたよ。だって、それなりに長く付き合ってきたのは、すべてこの神杖を手にするためだからね。手に入れば、キミなんて必要ないよ」


 黒ローブの男性が教皇に向けて神杖を向ける。

 ――ここだ、と思った。

 教皇も黒ローブの男性も俺に意識を向けていない。絶好の機会だ。

 纏めて――。


「『赤熱緑吹 貫き穿つ 乱れ吹き荒れる暴風は 振るわれる一突きは すべてを飲み込み 燃え上が突き刺す灼熱の猛火 すべてを拒絶する 炎槍・大竜巻トルネード・ファイアランス』」


 瞬間的に込められる最大量の魔力を注ぎ、炎渦巻く巨大槍が放たれる――が、途中で激しい衝突音が響き、炎渦巻く巨大槍は向かった先から霧散していった。


「危ない。危ない。いきなりでびっくりしちゃったよ!」


 無傷の黒ローブの男性がそう口にする。

 神杖の障壁――だろう。

 ただ……。


「教皇はどうした?」


「え?」


 黒ローブの男性は不思議そうに首を傾げ、自分の手を見る。

 そこには何もなかった。


「ありゃ。いきなり攻撃されたから落としちゃったみたい。……まあ、別にいいかな。落下の衝撃で死んじゃうだろうし、もう要らないしね」


「要らないって……仲間じゃないのか?」


「いいや、自分も教皇もそんな意識は持っていないよ。お互いに目的のために協力していただけだよ。教皇は教皇になるために。自分は神杖を手にするために。こうしてお互い目的達成した訳だし、もう協力する必要はないでしょ」


 そう言うと、黒ローブの男性は神杖の先端を俺に向ける。


「というか、自分の心配をすれば? まあ、こうして神杖は手に入ったから、次にやるべきことに向かわないといけないんだけど……でも、せっかく強い魔法使いが居るんだし、少しくらいはいいよね? 遊んで殺すくらいなら」


 黒ローブの男性が濃密濃厚な殺意を発した。

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