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賢者巡礼  作者: ナハァト
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限界かどうかはその時がこないとわからない

 教皇の呼吸が少し乱れている。

 余裕も少しなくなっているように見えた。

 おそらく、教皇は魔法を使い過ぎて疲労を感じ始めている。

 神杖に、魔力量を増やすといった効果はないのかもしれない。魔法の威力をかなり上げるのなら、そっちに特化していてもおかしくないと思う。あれだけの威力を出せるのなら普通は一発、あるいは数発放つだけで相手を倒せるのだ。

 だから、魔力量まで増やす必要がない――のかもしれない。

 もしそうなら、俺の存在は想定外ではないだろうか?

 威力で対抗できるだけではなく、それで魔力量も莫大なのだ。

 推測の域を出ないが……間違っていないと思う。

 それを確かめる手段は簡単だ。

 このまま相手をし続ければいい。

 教皇に魔法を使わせ、魔力をさらに消費させればハッキリする。時間が経てば経つほど、俺に有利な状況になっていくはずだ。

 そう考えて、時間稼ぎに徹する。

 教皇からの魔法は減ったが、その分、障壁で防がれようとも反撃の魔法を放って休ませない。

 というのも、考えてみたのだが、障壁を展開するのも魔力を使っている可能性は高いと思ったのだ。

 たとえ神杖が持つ力によるモノだとしても、いつまでも展開はできないはずだ。

 限界はある! ……はず!

 限界がなかったらどうしよう。打つ手が……いや、それでもいいのか。

 教皇が魔力を消費し過ぎて魔法を放てなくなれば、それは俺に時間の猶予を与えるということなので、その時は時間をかけて大量の魔力を注いだ魔法を放てばいいだけ。それで障壁をぶち破れば……問題解決である。

 ……駄目だったら?

 ………………。

 ………………。

 いや、今は考えない。その時はその時だ。その時考えよう。

 そうして、教皇との魔法合戦を続けていく――のだが、途中から教皇は疲労を見せ始める。

 魔法を放つ回数は大きく減り、見てわかるくらいに汗もかいて、片を動かして呼吸しているし、何より嘲笑はもう浮かんでいない。

 どちらかといえば苦しそうで……でも、目だけは俺を憎々しげに見ている。


「……何……の……」


 口を動かしたのは見えたのだが、教皇が何を口にしたのかは聞こえなかった。

 一旦手をとめ、尋ねてみる。


「ん? なんか言ったか?」


「……何故なの」


「何が?」


「何故、あれだけ高威力の魔法を連発しておきながら、そうも平気でいられるのよ! そんなのおかしいわ!」


「いや、別におかしいことなんて何もないだろ。少なくとも説明できないことではない。単にそれだけの魔力量を持っているだけだ」


 あとは回復量も大きい、ということもある。

 実際、そんなに減っていない。いや、「人類最強」を相手に半分近くを消費したが、既にそこからかなり回復しているので、寧ろ教皇と魔法合戦を始めた時よりも増えている。


「魔力量が膨大だからって……限界があるでしょう!」


「そんなのは知らん!」


 そもそも受け継いだモノであって、自前の魔力ではないのだから、限界と言われてもわからない。元々一人分が膨大なので、膨大が膨大に増えていくのだから、わかる訳がない。今思えば、「人類最強」の時に半分近くを使った感覚だったが……本当に半分近くだったのだろうか?

 魔力量に関しては、自分で自分の感覚が信じられないので、少なくとも限界についてはわからない、としか言えない。

 ……まっ、限界が来たら、その時が限界ということで。

 ただ、教皇からの魔法が減ったことで魔力を込める時間が増え、魔力量で負けていないことがわかったので、絶え間なく様々な魔法を放ち続けてみる。

 もちろん、威力強めで、できるだけ持続するようなヤツを。

 障壁が展開されて防がれるが関係ない。

 そのまま放ち続ける。


「くっ……うぅ……」


 教皇から苦悶の声が漏れた――ような気がする。

 いや、実際は魔法と障壁が衝突している音が響いているので聞こえていない。

 それっぽい表情を浮かべたのは見えたので、そうじゃないかな? と思っただけだ。

 でもまあ、それでも放ち続けるのをやめない。

 我慢比べみたいなモノだ。

 俺の魔力量が尽きるか、障壁がなくなるか。

 こっちはいつまでも放ち続けるつもりである。

 ――なんて意気込んでいたのだが、長く続かなかった。

 先に動いたのは教皇の方。

 さらに上昇して、逃れた。

 何故そのような行動に? と思うと、障壁が消えて教皇が居た場所を魔法が通り過ぎていく。

 どうやら、推測が当たったようだ。

 障壁を張るには魔力が必要。

 教皇の魔力が尽きたとは思わないが、もう障壁を張り続けるのは難しいのかもしれない。

 上昇した教皇は俺を見下ろしているが、その表情は憎々しげで、取り乱したように声を荒げる。


「なんなのこれは! おかしいでしょ! これは神杖なのよ! 世界最強の杖なのよ! それを手にしているというのに、羽虫でしかない魔法使いにこの私が負けるなんてあり得ないでしょ!」


 世界最強の杖とか、その辺りに関しては繊細だから口にしないで欲しい。

 俺が、ではない。竜杖が、だ。

 その辺りの発言の撤回を要求しようとした時、教皇の背後に、そこだけ空間がなくなったかのような、人よりも大きな黒い丸が現われ――。


「それはね、元々キミが大したことない魔法使いだからだよ」


 そんな声が聞こえてきたかと思えば、そこから黒ローブの男性が姿を現わす――と同時に、教皇の胸部から少しだけだが何かが飛び出した。あれは……剣先? うしろから突き刺された?

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