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賢者巡礼  作者: ナハァト
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不思議でも伝わる時がある

 神杖を手にした教皇を相手に戦いつつも、どうにかなりそうな気がする。

 ……まあ、気にするだけで、どうにかなりそうという部分に具体的なモノはないのだが。

 まずはそこをどうにかしないといけない。

 そのために少し考える時間が欲しいのだが、先ほどまで何故か理不尽に怒りを露わしていた教皇が嘲笑を浮かべ、そのまま口を開く。


「フフフ。あなたのその、私の周囲をうろつきながら飛ぶ姿は、まさしく羽虫そのものね」


 イラッとした。

 何振り構わず突撃して竜杖でパーン! と尻叩きでもしたくなる。

 危ない。危ない。実際に行動を起こすところだった。考えなしに突っ込めば終わっていた。冷静に。冷静に。


「やっぱり要らないわ、あなた。あの女の悔しがる顔を見るのに使ったあとで殺してあげるわ。羽虫を叩き潰すようにして、ね。『黄覆 砕けぬ強固 曲がらぬ意志 振るわれるは力の塊 巨大鉄腕ギガント・アイアン・アーム』」


 こんな風に、と言いたげに教皇が放った魔法は、人も簡単に握り潰せそうなくらい巨大な、鉄でできた両腕。それが左右から俺を挟み込むように迫る。

 ――瞬間。注げるだけの魔力を注ぐ。


「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球(ファイヤーボール)』」


 両手を広げ、迫る巨大鉄腕に向けて巨大火炎球を放つ。

 巨大火炎球は巨大鉄腕を溶かすように焼失させながら、教皇へと向かう。


「フフフ。だから、無意味なのよ」


 しかし、障壁に阻まれて通じない。

 くっ。やはり瞬間的に注げる魔力量では駄目か。

 その強固な障壁に守られている、という安堵感からか、教皇は攻撃に専念できているため、教皇の次の魔法攻撃は直ぐに行われ、俺はその対処に追われる形での魔法合戦が再び始まる。

 だが、似たような状況が続いたからだろうか?

 慣れた。

 いや、それもあるかもしれないが、教皇の魔法を放つ回数が気持ち減ったような……まあ、だからといって、それで教皇をどうにかできるようになったという訳ではない。

 ともかく、少し考える時間ができたのは間違いないので、今の内に打開策を考える。

 こうなってくると、無のグラノさんから神杖についてもう少し詳しく聞いておけば良かった。

 あるいは、無のグラノさんの記憶を受け継いでいれば、この状況を打開する何かがあったかもしれない。

 とりあえず、こうしてやり合うことでわかったことがある。

 一つは、教皇について。

 使える魔法の属性が豊富だ。ほとんどの属性が使える――というか、光と無属性以外は使ってきた。光と無属性っぽいのは一つもないので使えないのかもしれない。

 もう一つ、神杖についてもわかったことがある。

 魔法の威力を相当高めるのと、攻撃を防ぐ障壁を張るということだ。

 ………………。

 ………………。

 正直言って、神杖という割にはしょぼくない? と思う。

 思うのだが、それが勘違いというか間違っていることに直ぐ気付く。

 比較対象を俺にすることが間違っている。

 そもそも、俺の魔法自体はどちらかと言わなくても異常な分類なのだ。

 俺はそうだと確信しているが、俺が受け継いでいるのは、各属性においてぶっちぎりで一番の人たちの記憶と力である。

 それが今や六人分。

 正直に言って、魔法に関しては並ぶ者は居ないと思う。

 ……まあ、完全に扱えるのであれば、という注釈はつくが。

 そんな俺と、普通より強いという認識でしかない教皇が、対等に渡り合っているのだ。

 いや、渡り合えるようになっていること自体が異常である。

 それが神杖の効果によるモノなのは疑いようがなく、さらにはそんな俺の魔法を弾く障壁まで張るのだ。

 神杖という大層な名称に間違いはなかった。無のグラノさん、ラビンさん、カーくんが気にかけるだけの非常に強力な杖。それこそ、その威力は杖の中で一番かもしれない――なんてことを考えたのがいけなかったのだろう。


「うおっ!」


 竜杖が、がくんと揺れた。

 もちろん、俺がそうした訳ではない。

 一体何が? と竜杖をチラ見すると――なんとなく竜杖の装飾の竜が不機嫌なように見えたのだが………………あれ? もしかして、俺の心を読みました? いやいや、読める訳がない。

 となると、通じている? こうして手で掴んでいるからそこから? いやいや、いくらなんでも。

 でも、先ほどの反応は……あれか? 神杖が威力においては杖の中で一番と考えたのが――。



「おっと!」


 竜杖がまた揺れる。

 先ほどはそうでもなかったが、今回は少しタイミングが悪く、教皇の魔法が危うく当たるところだった。


「あらあら、もうそろそろ限界なのかしら?」


 教皇が何か言っているが今は無視。

 まず俺がすべきことは教皇の相手ではない。

 俺は思う。

 ――確かに威力は神杖かもしれないが、俺にとっての世界一の杖は竜杖である、と。

 わかっているのならいい、と言わんばかりに竜杖の飛行速度が上がった――気がする。

 まあ、教皇の魔法を避けている状態での体感的なモノでしかないが。

 それでも、教皇の魔法を避けやすくはなった……というか、教皇が魔法を放つ頻度がさらに減っているような?

 不思議に思って教皇の様子を窺うと、少し呼吸が乱れている気がする。

 寧ろ、教皇の方が限界は近いっぽい。

 ……一発も食らっていないのに? 何故?

 ………………もしかして、神杖は威力を高めるだけで、魔力量は別に変わらないのでは?

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