他人の視線には敏感
「『黒失 何物をも通さず 何物をも透さず 何者をも爆ぜる 黒爆球』」
教皇が黒い球体を十数作り出し、俺に向けて一斉に放ってくる。
闇のアンクさんの記憶の中で当てはめて、黒球の上位系で当たると爆発を起こすモノだと理解。
距離を取るように飛びつつ、対応する。
「『白輝 闇を裂き 流星のように降り注ぐ 拡散する一筋の煌めき 光輝雨』」
幾重に広がる光り輝く線が走って、すべての黒い球体に当てていく。
当たった瞬間に爆発するが、距離を取っている俺には届かない。
そのまま、黒い球体にも当たらず、爆発にも巻き込まれなかった光り輝く線が教皇に迫る。
「フフ」
教皇は笑みを浮かべるだけで何もしない。
そのまま直撃すると思ったが、光り輝く線はそこに何かがあるかのように弾かれてしまう。
目に見えないが、障壁が張られているようだ。
教皇がクフォラと戦っている時にそのような障壁は張られていなかったと思うので、教皇の力ではなく神杖の力なのかもしれない。
アブさんの即死魔法が効かなかったのも、その障壁に防がれたからだろう。
「ほらほら。もっと頑張らないと、私に触れることすらできないわよ」
そう言って教皇が魔法を放ってくるので、俺は魔法で防ぎつつ、合わせて攻撃のための魔法も放つ――といった魔法合戦を繰り広げる。
先ほどの言葉が挑発かどうかはわからないが、少なくとも教皇の浮かべている表情は嘲笑のままなので、正直ムカつくのは事実だ。
それに、言っていることも間違ってはいない。
障壁をどうにかしない限り、教皇に攻撃を当てられないのだ。
なので、魔法だけではなく物理も試してみる。
教皇が放つ魔法の中を抜けていき、距離を詰めると同時に殴る、あるいは蹴る、もしくは体当たりといったことを試みたが……駄目だった。
障壁に阻まれる。
もちろん、身体強化魔法も使っている状態で――こうなのだ。
かなり頑丈な障壁のようである。
そうして何度か攻撃を繰り返した上での感触的な部分で判断すれば……注ぐ魔力量次第ではやってやれないことはない、だろうか。
けれど、できない。
注ぐ魔力量が相当必要であるし、そのためには時間がかかる。
だが、教皇が放つ魔法は確実に俺を殺しにきているため、その対応で必要な魔力量を注ぐ時間が取れないのだ。
教皇は余裕のまま、口を開く。
「フフフ。どうしたのかしら? まさか、この程度で終わりなの?」
「まさか。どうやって倒そうか、考えているところだ」
「私を倒す? そういうのを何と言うか知っているかしら? 無駄な努力というのよ」
「どうだろうな? 案外、やってみないとわからないものだ」
「あら? 随分と自分の力に自信を持っているようね」
魔法合戦を繰り広げる中――チラリ、と教皇が下を見る。
おそらく、「人類最強」が倒れているのを見たのだろう。
それに対しての動揺は一切見られない。寧ろ、酷くつまらなそうな目であった。
「せっかく最強と呼ばれるまでになったというのに、情けないわね。使い勝手が良かったけれど、負けたのなら、今の私には必要ないわね。……あなた、どう?」
「どう、とは?」
「私に使われてみない? それだけ魔法が使えるのなら色々と使い道はありそうだし、何よりここで死ぬことなく生きていられるわよ。場合によっては、私のこの体を楽しませてあげてもいいわよ。いえ、逆かしら? 私があなたの体を楽し」
「いえ、結構です」
本気でどちらも拒否する。
「はあ? この私を拒絶するなんて愚か……まさか、あの女の方がいいって言いたいの!」
別にそういうつもりで言った訳ではないが、何故か教皇は激昂した。
……あの女? 誰だ? ……状況から判断するにクフォラか?
チラリ、と地上に居るクフォラを見る。
―――
「今、私のことを見ませんでしたか?」
「いや、気のせいだろ」
「私たちが襲われていないか確認したのではないか?」
「そうですか。アスリーの言う通りかもしれません。ただ、目が合ったような……いえ、気のせいですね。何か私が関係しそう事態が起こったような……いえ、それも気のせいですね」
「何がどうなればそうなるんだよ、クフォラ」
「ファイ。やめておけ。下手に触れると巻き込まれるぞ」
―――
ただ、見たのが悪かったのか――。
「ほら、やはり! チッ。あの女。やはり殺しておくべき……いえ、このあと殺して……いえ、ただ殺すだけでは生ぬるい。……そうだ。あなたを捕らえて、あの女の前で私の物にしたと宣言してみるのも一興ね。あの女の泣いて悔しがる顔が目に浮かぶわ」
泣いて、悔しがる……だろうか? そもそも、それになんの意味が?
なんか色々と誤解しているような気がしないでもないが、実際教皇からの魔法の圧が増した。
威力と数がさらに増した教皇の魔法への対処により一層追われることになって、魔力を多く注ぐ時間が大きく足りなくなる。
どうにか隙ができないモノかと考えるが、考え過ぎると対応が遅れてしまうので、あまり考える時間がない。
非常に厄介な敵だと言える……が、それでも不思議と負ける気は一切ないというか、どうにかできそうな気がした。




