本当に言っているとは思わない
アブさんが、大教会から飛び出してきた。
どこか焦っている様子。何かあったのだろうか?
「アルム! 即死魔法が効かなかった!」
大丈夫。アブさんは冷静だ。
周囲に居るファイたちを気にして、叫ぶように言っているが声量はしっかりと落とされている。
姿は隠しているままだし、ファイたちも気付いていない。
だから………………ん? 即死魔法が効かなかった、とは?
いやいや、待って欲しい。
いきなり殺そうとしたの? それとも、それに至るまでに何かしらがあったのか?
その辺りを省いて、いきなり完結のようなモノだけ伝えられても困るのだが。
少なくとも、本当に黒ローブの男性が生きていて効かなかったのか、それとも教皇の方に効かなかったのか――まずはどちらに対してなのかを言って欲しいというか告げるべきではないだろうか?
まあ、黒ローブの男性の方は前回即死魔法の骸骨を回避していたし、これといって不思議ではないので……教皇の方か?
そういう推測は立てられるが……答え、欲しい。というか、もう少し詳しく話して欲しい。
周りにファイたちが居るので言葉にはできないが、視線で訴えれば……アブさんは「おお!」と手を叩いて察してくれた。
そうして、ファイたちに考えることがあると告げて、少し距離を取ってから、アブさんが何を見聞きしたのかを聞く。
教皇と黒ローブの男性を探し、妙な気配を感じ、地下に向かい、そこにあった扉を越えた先に、教皇と黒ローブの男性が居て、神杖らしきモノがあり、黒ローブの男性がアブさんに気付いたかと思えば、教皇が黒ローブの男性を刺して神杖を手にし、危険な感じを抱いたアブさんが即死魔法を放つが――効かなかった。
そこまでを一気に告げられる。
なるほど。黒ローブの男性が生きていたとか、なのにまた死んだの? とか色々と気になる部分が多い中で今最も気にするべきは、アブさんが見ただけで恐ろしいまでの力を感じたという神杖を、教皇が手にしたことだろうか。
無のグラノさんが危惧した通り、神杖の封印が解かれたということになる。
解かれたのなら仕方ない。教皇の手にあるのなら、奪い取って無のグラノさんに渡せば問題ないはずだ。
アブさんに俺の考えを話せば、その通りだと頷きが返される。
そうと決まれば、次の相手は教皇だ。
場所に関しては、神杖の気配を感じ取ったアブさんに案内してもらえば、そこに教皇が居る。
ついでに教皇を倒せば、この戦争も終わりだ。
早速案内してもらおうと思った瞬間――ドオオオオオーン! と激しい音が響き、強烈な光が周囲一帯を照らす。
何事かと視線を向ければ、大教会から光り輝く柱が立ち昇っていた。
というか、位置的に大教会内部からのようというか……内部から突き抜けているように見えるのは……多分、見間違いではない。
ほどなくして、光り輝く柱は消え――そこから人が浮き上がってくる。
空中だし、少し距離が離れているが……教皇で間違いないと思う。
アブさんが言っていたように、なんか雰囲気のある杖をその手に持っている。
あれが神杖か。
さすがに距離があるので表情の判別はできないが、教皇は嘲笑していそうな気がする。
ついでに、自分は空を支配した。この万能感……世界は、私の物! とか思っている、あるいは口にしていそう。
「ファイ!」
名を呼びながら、ファイたちのところに駆け寄った。
ファイたちも同じように見ていたようだが、俺が近付くと視線を向けてくる。
「どうした?」
「あれは俺に任せてもらっていいか? 空中に居るし、俺が行くのが一番いいと思う」
「まあ、相手が空に留まることができるとなると……仕方ないな。それに、今の状態では戦いを楽しめないし、任せる。いや、任せていいか?」
「人類最強」との戦いで、ファイの体はかなり傷付いている。
いや、ファイだけではなくアスリーも。クフォラは魔力切れに近い。
今この場に居る中でまともに戦えるのは俺だけである。
「ああ。問題ない。こっちもあれには用事があるからな」
そう返して、アスリーとクフォラを見れば、俺に任せると頷く。
「……ただ、本当に俺が抜けて大丈夫か? ここは、未だ敵地ど真ん中なんだが?」
襲われないか心配である。
「そんな心配いらねえよ。こんな状態でも返り討ちにするくらいはできる」
だからさっさと行ってこい、とファイは追い払うように手を振ってきた。
まあ、ファイたちなら大丈夫だろうけど……もしもの可能性はある。
そこで、アブさんが護衛として人知れず居てくれるのなら、俺も安心して教皇と戦えるのだが……どうだろうか? と視線を向ければ、俺の意図を察したアブさんが任せておけと頷く。
俺も小さく頷き、竜杖に乗って空へ。
教皇が居るところに近付くと、教皇が何やら口にしているのが聞こえてきた。
「アハハハハハッ! なんて力なの! 力が溢れてとまらないわ! これで私は空を支配したも同然! つまり、世界は――私の物になったということ!」
……う~ん。まさか、本当に言っているとは。




