サイド アブの小追跡
時は少し遡り――アルムが教皇と黒ローブの男性のあとを追って欲しいとアブにお願いし、アブがそれに応えたあと。
―――
某は奥へと向かっていったらしい教皇と黒ローブの男性のあとを追う。
普通なら――あり得ない。何故なら、ここは大教会内部。神聖な場――それもその中心地となる場所といっても過言ではないのだ。不死系である某とは相性が悪い場所でもある。
それなのに、特に問題なく奥へと進むことができるのだ。
神聖とされる場所において、それは普通あり得ない。
その理由として――某にはわかる。不死系であるからこそ、神聖なモノには敏感なのだ。骨伝導で伝わってくる。
しかし、大教会という割には危険なモノは何も伝わってこない。
いや、なくはない。
数か所――それらしいところがあると伝わってくるのだが、それだけ。大部分は神聖でもなんでもない。先ほどまでいた聖堂のような場所ですら、そうなのである。
それに、おかしいというか、ダンジョンから与えられた某の記憶の中だと、この世界に「アフロディモン」という名の神は存在していないのだが……まあ、その辺りは時代の流れというのもあるかもしれない。某、しばらくの間、ダンジョン最下層から出なかったしな。
ともかく、神聖だとされている場所であっても、実際はそうではなさそうなので、これなら自由に教皇と黒ローブの男性のあとを追う――捜索することはできるだろう。
……いや、待てよ。某がここで自由に行動できる理由はもう一つあるな。
もちろん、それは某が不死系を超えた存在である――「絶対的な死」であるため、普通なら効果のある神聖なモノであっても通用しない、である。
いや、これこそ正しい理由だろう。そうに違いない。某の力――まさに正義。
そうして、教皇と黒ローブの男性を探して奥へと進んでいくが……見つからない。
これも仕方ないのだ。
何しろ、何の手掛かりもないのだから。闇雲に進むだけでは駄目だ。
今こそ唸れ……いや、震えて感じろ。骨伝導よ。
………………。
………………。
何も震えてこない。完全に手詰まりだ。
どうしたものか。
……待てよ。確か、グラノ殿の話によれば、ここに神杖と呼ばれるモノが封印されている。こういう場に封印されているとなると、これ見よがしに目立つ場所に飾るか、誰の目にも触れさせないように隠すか。どちらかだろう。
骨は震えていないが、某の勘を信じるのならば……下だ。
これだけ大きな建物なら、地下があっても不思議ではない。
その下の方から、神聖なモノではない……モノではないが、妙な何かを感じる……気がするのだ。なので、下に向かう。
といっても、わざわざ階段を使う必要はない。
すり抜けることができるのは、何も壁だけではないのだ。
下があるのなら床もすり抜けることができる。
床をすり抜けると、僅かな明かりが照らしているだけの薄暗い通路があるだけ。某の感覚を信じるのなら……ここではない。まだ下だ。
再び床をすり抜けると――薄暗い通路であることに変わりはなかったが、少し先に扉があった。扉には奇妙な紋様が描かれていて、その先にあるモノを封じているように見える。
ただ、感じているモノは……その扉の先にあるようだ。
扉に触れてみる……触れられて、何も起こらない。
ふむ。弾かれるなど、何かしらあると思ったが……封印が解除されている? あるいは、某の力が強く、そういうのをものともしないか………………八割くらい後者だな。
ともかく、なんの障害もなく扉をすり抜けて中へと入る。
――居た。
どちらも見た姿。教皇と黒ローブの男性である。
光属性魔法で作り出された光球を光源として、室内が照られていた。
床に巨大な魔法陣が描かれており、その中心に杖が浮かんでいる。他にはこれといった装飾の類はない。
杖を注視する。
要所に宝飾が施された杖。かといって、それがくどいとかではなく、気品を感じられるのだが、見ているだけでわかる。普通の杖ではない。ただの杖ではない。神杖と言われて納得するだけの、恐ろしいまでの力を見ているだけで感じさせる。
そうしてそのまま神杖を見ていると――。
「……おや?」
そう口にした黒ローブの男性がこちらを見る。
いや、その視線の向け方から、正確には某自身というよりは某が居る空間全体を見ているような、そんな感じだ。
某の透明化が通じない、何かしらの感知方法を持っているのかもしれない。
おそらく魔力の流れとか、そういったモノだろう。
長居は――できないな。
「どうかしたのかしら?」
「いや、何者かはわからないけれど、邪魔者が居るかもしれない」
「そう……そうね。邪魔者は消さないと、ね」
某からは見えていた。
黒ローブの男性がこちらを見たということは、教皇に対して背を向けている状態だということ。
だから、見えていない。
教皇が衣服の中から短剣を取り出し、それを黒ローブの男性の背中から突き刺した。
「がっ! な、何を!」
「何を? フフフ。不思議なことを言うのね。お互いに利用していたのだから、こうなるのは当然でしょう? あなただって、神杖が手に入ったら私を殺すつもりだったのではなくて? だから、そうする前に私から動いただけ。今までありがとう。感謝の言葉を送っておくわ。そうそう。この神杖は私が有効活用してあげるわ。これで、世界は私の物」
背中に短剣が刺さったまま、黒ローブの男性が倒れる。
「フ、フフ……アハハハハハッ!」
教皇が高笑いを上げながら神杖を手に取る。
様になっているな……ではなく、このままだと危険だと判断して即死魔法を放つが――弾かれた。おそらく、神杖が関係しているだろう。
このままでは不味い気がする。
早くアルムに伝えた方がいい気がした。
なので、某は急いで戻る。




