表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
480/614

サイド アブの小追跡

 時は少し遡り――アルムが教皇と黒ローブの男性のあとを追って欲しいとアブにお願いし、アブがそれに応えたあと。


     ―――


 某は奥へと向かっていったらしい教皇と黒ローブの男性のあとを追う。

 普通なら――あり得ない。何故なら、ここは大教会内部。神聖な場――それもその中心地となる場所といっても過言ではないのだ。不死系である某とは相性が悪い場所でもある。

 それなのに、特に問題なく奥へと進むことができるのだ。

 神聖とされる場所において、それは普通あり得ない。

 その理由として――某にはわかる。不死系であるからこそ、神聖なモノには敏感なのだ。骨伝導で伝わってくる。

 しかし、大教会という割には危険なモノは何も伝わってこない。

 いや、なくはない。

 数か所――それらしいところがあると伝わってくるのだが、それだけ。大部分は神聖でもなんでもない。先ほどまでいた聖堂のような場所ですら、そうなのである。

 それに、おかしいというか、ダンジョンから与えられた某の記憶の中だと、この世界に「アフロディモン」という名の神は存在していないのだが……まあ、その辺りは時代の流れというのもあるかもしれない。某、しばらくの間、ダンジョン最下層から出なかったしな。

 ともかく、神聖だとされている場所であっても、実際はそうではなさそうなので、これなら自由に教皇と黒ローブの男性のあとを追う――捜索することはできるだろう。

 ……いや、待てよ。某がここで自由に行動できる理由はもう一つあるな。

 もちろん、それは某が不死系を超えた存在である――「絶対的な死(アブソリュート・デス)」であるため、普通なら効果のある神聖なモノであっても通用しない、である。

 いや、これこそ正しい理由だろう。そうに違いない。某の力――まさに正義(ジャスティス)

 そうして、教皇と黒ローブの男性を探して奥へと進んでいくが……見つからない。

 これも仕方ないのだ。

 何しろ、何の手掛かりもないのだから。闇雲に進むだけでは駄目だ。

 今こそ唸れ……いや、震えて感じろ。骨伝導よ。

 ………………。

 ………………。

 何も震えてこない。完全に手詰まりだ。

 どうしたものか。

 ……待てよ。確か、グラノ殿の話によれば、ここに神杖と呼ばれるモノが封印されている。こういう場に封印されているとなると、これ見よがしに目立つ場所に飾るか、誰の目にも触れさせないように隠すか。どちらかだろう。

 骨は震えていないが、某の勘を信じるのならば……下だ。

 これだけ大きな建物なら、地下があっても不思議ではない。

 その下の方から、神聖なモノではない……モノではないが、妙な何かを感じる……気がするのだ。なので、下に向かう。

 といっても、わざわざ階段を使う必要はない。

 すり抜けることができるのは、何も壁だけではないのだ。

 下があるのなら床もすり抜けることができる。

 床をすり抜けると、僅かな明かりが照らしているだけの薄暗い通路があるだけ。某の感覚を信じるのなら……ここではない。まだ下だ。

 再び床をすり抜けると――薄暗い通路であることに変わりはなかったが、少し先に扉があった。扉には奇妙な紋様が描かれていて、その先にあるモノを封じているように見える。

 ただ、感じているモノは……その扉の先にあるようだ。

 扉に触れてみる……触れられて、何も起こらない。

 ふむ。弾かれるなど、何かしらあると思ったが……封印が解除されている? あるいは、某の力が強く、そういうのをものともしないか………………八割くらい後者だな。

 ともかく、なんの障害もなく扉をすり抜けて中へと入る。

 ――居た。

 どちらも見た姿。教皇と黒ローブの男性である。

 光属性魔法で作り出された光球を光源として、室内が照られていた。

 床に巨大な魔法陣が描かれており、その中心に杖が浮かんでいる。他にはこれといった装飾の類はない。

 杖を注視する。

 要所に宝飾が施された杖。かといって、それがくどいとかではなく、気品を感じられるのだが、見ているだけでわかる。普通の杖ではない。ただの杖ではない。神杖と言われて納得するだけの、恐ろしいまでの力を見ているだけで感じさせる。

 そうしてそのまま神杖を見ていると――。


「……おや?」


 そう口にした黒ローブの男性がこちらを見る。

 いや、その視線の向け方から、正確には某自身というよりは某が居る空間全体を見ているような、そんな感じだ。

 某の透明化が通じない、何かしらの感知方法を持っているのかもしれない。

 おそらく魔力の流れとか、そういったモノだろう。

 長居は――できないな。


「どうかしたのかしら?」


「いや、何者かはわからないけれど、邪魔者が居るかもしれない」


「そう……そうね。邪魔者は消さないと、ね」


 某からは見えていた。

 黒ローブの男性がこちらを見たということは、教皇に対して背を向けている状態だということ。

 だから、見えていない。

 教皇が衣服の中から短剣を取り出し、それを黒ローブの男性の背中から突き刺した。


「がっ! な、何を!」


「何を? フフフ。不思議なことを言うのね。お互いに利用していたのだから、こうなるのは当然でしょう? あなただって、神杖が手に入ったら私を殺すつもりだったのではなくて? だから、そうする前に私から動いただけ。今までありがとう。感謝の言葉を送っておくわ。そうそう。この神杖は私が有効活用してあげるわ。これで、世界は私の物」


 背中に短剣が刺さったまま、黒ローブの男性が倒れる。


「フ、フフ……アハハハハハッ!」


 教皇が高笑いを上げながら神杖を手に取る。

 様になっているな……ではなく、このままだと危険だと判断して即死魔法を放つが――弾かれた。おそらく、神杖が関係しているだろう。

 このままでは不味い気がする。

 早くアルムに伝えた方がいい気がした。

 なので、某は急いで戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ