一人ではできないことだってある
二つでは足りない。でも、三つでも足りないと思う……いや、いけるか? 一つ違うだけでも大きく変わるし、いけるかも……やめておこう。駄目だった時の危険が大き過ぎる。だから、使うなら四つ。今の俺の限界でもある。
限界でいくと決めると同時に、これまでで一番大きく魔力を練っていく。
これから行うことに集中するので、「人類最強」を前にして隙を晒すことになるが、ファイとアスリーがその間の相手をしてくれていて、その二人の動きに合わせてクフォラも援護の魔法を放ち始めている。
ただ、これはそう長く持たない。
元々、本気を出したであろう「人類最強」を相手に、俺が加わっていた状態でも押されていたのだ。そこに俺が抜けたのだから、時間は思っている以上にないだろう。
実際、ファイとアスリーは直接戦っているため、何度か攻撃を食らっている。一応、致命傷となるような攻撃はまだ食らっていないが、時間の問題だろう。いつ、動けなくなるかわからない。
だからこそ、俺も今できることを行う。
練り上げた魔力に属性を一つ――火属性を与えて、濃縮して体外へ。
「『赤熱』」
手のひらを上に掲げると、その先に掴めそうなくらいの大きさの赤色に輝く球体が出現する。
まず一つ。最初に火属性を選んだのは、なんてことはなく一番使い慣れている属性だからである。これをあと三回行う。
赤色の球体が消えないように維持しつつ、次へ。
再度魔力を練り上げていく。
視界に映るのは、ファイたちの戦闘。
大丈夫。まだやられていない。
ファイとアスリーは互いを上手く庇い合って、「人類最強」からの攻撃に耐えている。
まだ大丈夫そう。
練り上げた魔力に、今度は風属性を与えて濃縮し、体外へ。
「『緑吹』」
赤色の球体の横に、緑色に輝く球体が出現。
二つ目。これを維持し……あっ、気を抜くと霧散しそう。しっかりと制御しつつ、三つ目を行うために魔力を練り上げていく。
ファイたちは――。
「……はあはあ。……アスリー。息が荒いな。……もうへばったのか?」
「……いいや、まだまだ戦える。はあはあ。……寧ろ、疲れているのはお前の方ではないのか? お前の方が荒いぞ」
「いいや、お前だ」
「お前だ」
どっちも同じくらい荒いと思うが、まだ競えるだけの力があるのなら大丈夫そうだ。クフォラもどこか呆れた目を向けているし。
そう思っている間に練り上げた魔力に、今度は水属性を濃縮して体外へ。
「『青流』」
赤色の球体、緑色の球体の隣に、青色に輝く球体が出現。
三つとなると制御が一気に難しくなるが、ここが今の俺の限界ではないため、まだ余裕はある。
ただ、長時間の維持は難しいので、急いで次へと再び魔力を練り上げていく。あと一つ。
ファイたちの様子は――。
「ぐうっ!」
「ううっ!」
「人類最強」からの攻撃をまともに食らう――が、耐えて、踏ん張って、反撃まで行う。だが、ファイの黒い鎧は一部が砕けていたり、ヒビも入っていて、アスリーは口元に吐血したあとが残っている。クフォラは後衛なので攻撃が届いていないが、それでも魔法を使い続けた結果として、そろそろ魔力切れになりそうだ。
それでも、「人類最強」を相手に戦い続けて、俺の方に来ないようにしている。
頼もしさしかない。
そして、四つ目。練り上げた魔力に土属性を濃縮して体外へ。
「『黄覆』」
赤色の球体、緑色の球体、青色の球体の輪に加わるように、黄色に輝く球体が出現。
さらに制御が厳しくなるが、崩れる前に――一気に完成まで持っていく。
四つの球体を混ぜ合わせて――一つの大きな白く輝く球体を作り出す。
これは単純な魔力の塊。けれど、四属性の魔力を合成しただけではなく、注ぎ込んだ魔力量も今の俺の最大魔力量の半分近くを使っている。感覚的に、だけど。
ともかく、これが今の俺の限界。最大攻撃である。
あとは、これを「人類最強」にぶつけるだけ。
「準備できたぞ!」
声をかければ、ファイたちだけではなく「人類最強」も俺を見る。
「なんて濃密な魔力……一体どれだけの……」
クフォラがそう呟くのが聞こえた。
そして、警戒するに充分な何かを感じ取ったのかもしれない。
「人類最強」が俺に向けて襲いかかってこようとしてくる。
逃げずに襲いかかってくるのは正直ありがたいが、俺がこれを当てる前に殺せるという自信があるのかもしれない。
まともにやれば――一対一なら、そうなるだろう。そもそも、魔力の球体を一つ作り出すことすら無理だっただろう。それが今こうしてできているのは、ファイたちが居たからである。
俺に向けて襲いかかってくる「人類最強」に対して、クフォラが炎の壁を作って遮ろうとするが、「人類最強」はそのまま突き抜けてきた。
けれど、それで僅かに「人類最強」の速度が落ちた――ところに、ファイとアスリーが挟み込むように迫り、そのまま攻撃を行う。さすがに無視できなかったのか、「人類最強」が足をとめて迎撃してファイとアスリーを殴り、蹴り飛ばす。
そこに俺が迫り、押し付けるように白く輝く球体を前に突き出す、
「『四重魔力弾』」
本来なら、相手に触れると同時に膨れ上がって弾けて大爆発を起こすのだが、そうなる前に「人類最強」が白く輝く球体を両手で挟み込み――膨れ上がらない。
完全に抑え込まれている。
どうにかしようとするが……元々制御だけで手一杯ということもあって、どうにもならない。
こうなったら、制御をやめて暴発させるか――と考えたところで左右から槍と剣が飛んできて、「人類最強」に脇腹と肩付近に当たって地面に落ちた。僅かに刺さったようで、出血が見られる。
ただ、重要なのは「人類最強」にとって予想外の攻撃だったようで、それで「人類最強」の意識が割かれた。
抑え込む力に緩みを感じた一瞬に――発動。白く輝く球体は一気に「人類最強」よりも大きく膨れ上がりながらより輝きを放って大爆発。
俺も吹き飛び、大教会の壁に激突。
背中が少し痛むが我慢して、どうなったと視線を向ければ――身に付けていた衣服の一部がなくなり、体の至るところから煙を上げている「人類最強」が膝をついて……そのまま倒れた。




