自分のできることを見せる必要だってある
魔力を体中に漲らせ、駆ける。
そう距離は離れていないので、直ぐだ。
到達する前に仕掛ける。
「外に出たのは好都合だ! 『黄覆 立ち塞がり 阻害して抑止する 幾重の塊 多重土棒』」
魔法を発動すると、「人類最強」の周囲の足元の地面から、直系十センチはある四角い土塊が縦横斜めにと多く飛び出す。普通はそれに絡め取られて身動きが取れなくなるのだが、そこは「人類最強」と言うべきか、身動きが取れなくなるのは一瞬で、腕を振るうだけですべて破壊される。
ただ、相手が「人類最強」であるのなら、一瞬でも動きを封じられるのは大きい。
その間にファイとアスリーが攻められるからだ。
ファイとアスリーの攻撃はさすがに無視できないのか、「人類最強」は無理に反撃を行おうとはせずに防戦に回る。
その間に、俺が辿り着く。
すると、「人類最強」に攻撃しつつ、ファイが声をかけてくる。
「さっきの、下手をすれば俺たちも巻き込まれていたんだが?」
俺も攻撃に加わりつつ、言葉を返す。
「でも、実際は巻き込まれていないだろ? ファイとアスリーなら当たらない――いや、これはアレだろ。俺の魔法の腕前がそれだけ達者ってことの証明じゃないか?」
「「………………」」
「何故そこで黙る。アスリーも」
「……」
「『人類最強』! お前もそこで首を傾げるな! 今やると、あれ? 今のに何か意味はあったか? みたいな感じに受け取られるだろうが! 意味はあったんだよ! なあ!」
「「………………」」
「そこは『あった』って言えよ!」
そんなやり取りをしつつも、誰も手はとめない。
ファイは槍を突き、振るい、アスリーは剣を払い、斬る。クフォラは援護の魔法を続けているが、ファイとアスリーの動きの邪魔をしないように威力を抑え、牽制や目くらましに重点を置いていた。
なんというか、さすがは「暗黒騎士団」というか、同じ騎士団所属というか、意外と――というのは失礼な気はするが、息の合った動きをしているように思える。
だからこそ、この三人でどうにか「人類最強」を相手取ることができていたようだ。
そこに俺が加わる。
竜杖による杖術もそうだが、近距離で高威力の魔法を放つことができるのだから、これで「人類最強」の防御能力より、こちらの攻撃能力の方が上回るはずだ。
ファイの槍とアスリーの剣が振るわれる合間を縫うようにして、竜杖を振るう。
クフォラの援護魔法も加えて、途切れのない連続攻撃を続け――僅かにこちらが押していると感じ始めた時、ふと気付いたことがあったので口を開く。
「………………なあ、ファイ、アスリー」
「なんだ?」
「どうした?」
「俺が得意としているのは超範囲超威力魔法だ」
「ああ、前にもそんな感じのを放っていたな。それで?」
「『人類最強』に通用するような威力の魔法となると、ファイやアスリーが見たモノよりも規模が大きくなって……ファイとアスリーを巻き込むことになると思うけど、いいよな? あっ、俺は使用者ってことで大丈夫だから安心して」
「いや、安心しねえし、良くねえよ!」
「却下だ」
駄目なようだ。
いや、さすがに俺も巻き込むのは駄目だとわかる。というか、巻き込む気はない。一応聞いてみただけというか、息の合った連続攻撃の中に俺もどうにか加わりたくて、自分にできる手段を提示しただけだ。
まあ、その手段が息の合いようがないというか合わせる必要あるのだろうか? と言いたくなる威力のモノであるが。
……いつでも、放てるよ。
体と心の準備だけはしておく。
ただ、その機会はなく、身体強化魔法と竜杖による打撃を行っていく中――絶好の機会が来る。
誰に? 俺に。タイミング的に俺だったのだ。
「人類最強」がファイ、アスリーの攻撃を連続で受け、尚且つそこにクフォラの魔法が上手く当たって僅かだが体勢を崩した。
丁度、その次に俺が攻撃をするところだったのだ。
だから絶好の機会。
目的の一つ――土のアンススさんに宣言した、一発キツイのを食らわすのを果たす時だ。
これで倒せは……しないだろうな。
まずは一発食らわすことだけを考える。
竜杖でもいいが、ここはキツイのを食らわせるという思いを、直接ぶつけるという意味を込めて、拳。
瞬間的に大量の魔力を拳に集中させ、殴る。
腹部にまともに入り、そのまま「人類最強」を殴り飛ばす。
といっても、少し下がった程度。倒れてもいないし、ダメージは入ったと思うが、「人類最強」の様子を見る限り、支障が出るほどではなさそうだった。
けれど、まともな一発が入ったのは事実。
「よっし!」
確かな手ごたえを感じて、思わず声が漏れる。
「ずるいぞ! 俺が一発入れようと思っていたのに!」
「あのタイミングならファイではなく私だろう」
そう言って、ファイとアスリーは、次は自分の番だと主張を始める。
そういう場合ではないと思うのだが。
この二人に何か言ってくれ、とクフォラを見れば、どうしようもないと頭を振っていた。
駄目っぽい。
そんなことをしている間に、「人類最強」は一度腹部に手を当て、なんでもないように手を放しながら俺を見る。
瞬間――「人類最強」から感じられる圧力が増した。
「………………あれ? もしかして、まだ本気じゃなかった?」
思わずファイとアスリーを見ると、二人も俺を見ていて、肩をすくめられた。




