意味はないけれど、やりたくなる時がある
巨大な炎の槍で、ダイヤモンドゴーレムを砕いて燃やし尽くした。
「アルム。魔力量は大丈夫なのか? 先ほどの魔法にかなり注いだと思うのだが」
「魔力量? 問題ないな。今の総量が六人分といっても、実際にそれがどれくらいかは俺もわからないが、少なくとも先ほどの魔法くらいなら何発でも放てるな。それこそ、雨のように降らせることもできると思うぞ。さすがにそこまでやれば、魔力量も尽きると思うけれど……」
「思うだけか。実際はそれでも尽きるかわからない、と?」
「まあな。やってみないとわからないというのもたるが、今も消費した魔力分が回復していっているし、実際は今ある魔力量だけではないからな」
「それは……そうだな……」
アブさんが納得を示す。
合わせて、額を腕で拭うような仕草を見せて、まるで敵対しなくて良かった――とでもいうようなモノであった。
もしそうだとしても今更だな。
ここまで仲良くなったんだし、俺もアブさんと敵対したいとは思わない。
そんな風に思っていると――。
「それにしても、いつまでもここに居ていいのか?」
アブさんがそう口にして、下を指し示す。
視線を地上に向ければ――大騒ぎだった。
それは……まあ、そうだろう。
俺の姿が見えていなければ、突然砕けて燃え尽きてしまったのだから、何が起こったのかと騒ぎになるのは当然か。
どうしたものかと思っていると、何やら俺に向けて祈り出す人が一人……二人……と出てきて増えていく。
えっと……もしかして、俺を神の使いか何かだと思っている? 空を飛んでいるし、何よりダイヤモンドゴーレムを一撃で――炎の槍で粉砕したのは、神の鉄槌とか、そういう風に見えてもおかしくない……のか? 事前に高齢の男性の魔法でどうにもならなかった分、余計にそう見えた――という可能性はあるかもしれない。
まあ、答えを出したところで現状が変わる訳ではないし……どうしたものか。
しかし、なんだ。こういう状況だと……なんか応えておいた方がいい気がするのは何故だろう。
……手を振るくらいなら、と軽く手を振ってみる。
「「「おおおおおっ!」」」
……大袈裟な、とでも言いたくなる反応だった。
しかし、悪い気はしない。
手を振る以外にも何かした方がいいだろうか? ……声をかけるというのはどうだろう? 当たり障りのないことであれば後々も問題にはなりづらいだろうし。いやいや、待て待て。ここは一つ「現教皇を信じるな」とか「ルーベリー枢機卿を新教皇に」とかはどうだろう? これなら一気に形勢逆転するのではないだろうか?
……駄目だ。現教皇は「人類最強」に守られているようなモノだし、その「人類最強」も現教皇の命令しか受け付けないようだから……「人類最強」を先にどうにかするしかない。まあ、それはファイとアスリーに任せ……あれ? 何か忘れているような。
「アルム。まだ二体居るのだが?」
――はっ!
アブさんの言葉で思い出す。
そうだった、と急いで向かう。
―――
聖都内ということもあって二体目のところにも直ぐに着く。
相手がダイヤモンドゴーレムであるということに変わりにはないので、やることは変わらない。
状況も似たようなモノで、被害は出ているがそれ以上は許さないと色んな人が動いていた。
ただ、先ほどと変わっている部分がある。
高齢の魔法使いではなく、筋骨隆々の冒険者と思われる男性が、巨大な槌を使ってダイヤモンドゴーレムを何度も叩いていた。
ガン! ガン! と力強く叩いている。
けれど、それでダイヤモンドゴーレムに何かしらのダメージは与えられていなさそう。
それでも、その冒険者は叩くことをやめない。
こんな武器を使っている自分がどうにかしないといけない――と思っていそうだ。
周囲の人たちも、「頑張れ!」と声援を送っている。
「……なんか、横槍を入れづらい雰囲気なんだが」
「しかし、アレでどうにかできないだろう。放っておくと、疲れたところに一発食らって死ぬぞ」
「だよな」
先ほどと同じく巨大な炎の槍で一撃。
その衝撃で槌を持つ冒険者が少し吹き飛んだが……まあ、生きているのだから問題ない。
完全に燃やし尽くしたのを確認して、三体目のところに行こうとしたところで――。
「「「うおおおおおっ!」」」
歓声が上がり、俺に気付いた人たちが手を振ってくる。
さすがに何もしないで行くのは、と思い、振り返してみるとさらに歓声は強くなって続く。
なんかこう、自分に向けられている歓声を受けていると……意味もなくバッ! と両手を広げたくなった。
「……アルム?」
やらないけれど。
アブさんに、いや、忘れていないから――と告げて、直ぐに三体目の方に向かう。
―――
聖都内なので、直ぐ着く。
被害状況は似たようなモノだが、最後の三体目のダイヤモンドゴーレムは――なんか腰くらいまで陥没した穴の中に落ちていた。
その周囲で大きく呼吸している複数人が魔法使いのような恰好をしているので、多分魔法で大穴を作ってそこに落とした、といったところだろうか。
まずは身動きを封じて、そこから一気に反撃して――といった感じなのだと思うが、その肝心の反撃がまったく通じておらず、ダイヤモンドゴーレムも独力で大穴から這い出ようとしている。
そうはさせない、と即座に巨大な炎の槍を打ち込んで、三体目のダイヤモンドゴーレムを砕いて焼き尽くした。
一応、他に居ないか聖都内を見回して確認する。
……居ないとわかり、これでダイヤモンドゴーレムの脅威は終わったので、地上から聞こえてくる歓声に思う存分応え――いや、それどころではなかった。
「アブさん、急いで戻るぞ! ほら、早く!」
「まるで某がここに留まっていたように言うのは違うと思うのだが!」
大教会へと向かう。
―――
大教会に戻ると、神官とシスターたちが逃げるように外に出て来て、その直ぐあとにファイ、アスリー、それとクフォラが吹き飛ばされたように飛び出してきた。




