本当に飛ぶかどうかはわかりません
神官とシスターたちの間を抜けて大聖堂から出ると、直ぐにその姿が見えた。
そこらの建物よりも大きく、キラキラとした輝きを放つゴーレムが動いている。いや、腕を振り回したり、足を上げて何かを踏み潰すように下ろしたりと暴れていた。
アブさんが大聖堂の壁をすり抜けて出てくる。
「……ふむ。見たところ石材。ストーンゴーレムの一種。あの色合いと輝きだと宝石――ダイヤモンドか」
アブさんが暴れているゴーレムを見て、そう口にする。
つまり、ダイヤモンドゴーレムってことか。
アブさん少し浮き上がり、その場でぐるりと一回転。
「同じのがあと二体――合計三体居るようだ」
なるほど。地響きが複数回起こったのは三体も居るからか。
「散らばっているのなら、一体ずつ倒すまでだ」
竜杖に乗って空へ。
最も近いところから向かう。
聖都内なので直ぐ着き、様子もよく見えるようになった。
ダイヤモンドゴーレムを相手にして、その足元付近で戦っている人たちが居る。
神官とシスターたちが口にしていた通り、恰好から、アフロディモン聖教国軍と冒険者たちの混成のようだ。割合は……冒険者の方が多い。
対応している数は充分揃っている、と言ってもいいだろう。
というのも、ダイヤモンドゴーレムを相手にしつつ、住民などの非戦闘員の避難誘導、あるいは救出するといった方にも充分に手が足りているからだ。
ただ、神官やシスターたちが口にしたように突然現れたのなら、被害はもう既に出ているだろう。
それでも、どうにか押さえようと頑張っている――というのが現状、といったところか。
しかし、その現状も芳しいとは……とても言えない。
ダイヤモンドゴーレムをどうにかしない限りは、何をどうしようがどうしようもない――それが明らかであるからこそ、ダイヤモンドゴーレムを破壊しようと頑張っているのだが……傷一つ付けられていなかった。
アフロディモン聖教国軍、冒険者たちの装備が悪い訳ではないが武具の類は一切通じず、下手をすれば逆に壊れるほどだ。それならばと魔法を使用しても結果は同じで一切通じていない。
それを見て、冒険者たちの中から白ひげを蓄えた高齢の男性が高そうな杖を持って現れ、長い詠唱を口にする。
「「「おお!」」」
俺だけではなく、地上に居る人たちからも漏れる。
詠唱が終わると同時に、高齢の男性が高そうな杖を掲げた。
すると、その先に成人男性よりも大きな火球が現われ、ダイヤモンドゴーレムに向けて放たれ直撃する。
衝突による爆発音が響くが――それだけ。ダイヤモンドゴーレムには何も変化はなく、通じていないことは明白。それどころかうしろに下がるといった、バランスを崩すようなこともなかった。
「ば、馬鹿なあ! このワシの最強魔法ふあ!」
高齢の男性が驚きを露わにする。
最後に上手く言えなかったのは、入れ歯が飛んだからだ。
それだけの衝撃だったということである。
ただ、高齢だし、魔法行使にも、その行動にも、もう少し体に気を遣って欲しい気がしないでもない。
周囲の人たちに、まあまあ落ち着いて、と言われているようなので大丈夫だとは思うが。
「なるほど。持ち前の硬度だけではなく、対魔法的処置も施されているようだ。それも並大抵の――いや、多少強力な程度の魔法では、なんの効果も与えられないほどのモノを」
アブさんは冷静に観察していた。
正直非常に助かるとしか言えない。
「つまり、魔法でどうにかしようと思うなら、先ほど以上の魔法でないと意味がない、ということか。……ついでに聞くけど、弱点とかある?」
「ダイヤモンド自体は熱に弱い。ゴーレムと言えども、それに変わりはないはずだ。先ほどの火球では単に火力不足であっただけ。しかし、アルムの膨大な魔力によるモノであれば、炭化させて消し去ることができるはずだ」
それなら大丈夫だと思う。
魔力をガンガン注ぐのは得意だ。
寧ろ、その逆――抑える方が苦手である。
「あとはまあ、所詮ゴーレムだからな。自重には耐えられないだろうから、空に運んで落とせば終わりだ」
「それは、どうやって空に運ぶんだ?」
「アルムならできる」
グッ! と親指を立ててくる。
……まあ、身体強化魔法で限界以上の力まで持っていければ……いや、無理だから。普通に無理。
「わかった。とりあえず、火属性魔法の方でいこう」
寧ろ、その一択しかない気がする。
ダイヤモンドゴーレム自体は動きがそれほど速くはない――というか鈍重なので、かわされるということはないと思うが、それでも念のためにダイヤモンドゴーレムの真上に移動しておく。
ダイヤモンドゴーレムの周囲は――既に破壊されている。高齢の男性の魔法行使のために足元で戦っていた人たちも避難していたので、今が絶好の機会だろう。
「『赤燃 貫き穿つ 振るわれる一突きは 燃え上げ突き刺す灼熱の猛火 炎槍』」
魔力超増しで、巨大な炎の槍を放つ。
巨大な炎の槍はダイヤモンドゴーレムの頭部に突き刺さった――かと思えば、そのままダイヤモンドゴーレムを焼き砕きながら地面まで突き刺さり、さらに燃え上がり広がって、ダイヤモンドゴーレムの全体を炭化させて燃やし尽くす。
「……アブさんが言ったように、熱に弱かったようだな」
うんうん、と頷く。
「いや、それ以前の話だと思うが?」
アブさんがそう言うが、どういう以前なのだろうか?
まあ、倒したのだから、わからなくても問題ないだろう。




