隠せているつもりでも、案外気付かれているもの
大きな地響きが数度起こった。
それは間違いない。
この場で起こったことではないが、それで少なからず意識が向いてしまったのは事実である。
「ちっ」
「くっ」
ファイとアスリーが「人類最強」に殴られ、蹴り飛ばされる。
「大丈夫か?」
「問題ねえよ!」
「こっちもだ!」
ファイとアスリーから返事はあった。
どうやら、どちらも武器を盾のように使い、ダメージは受けていない――いや、上手く最小限に留めることができた、といったところか。
先ほどまで、確かに「人類最強」が防戦一方になるまで押し切ることはできていた。
しかし、それは俺たちが「人類最強」に集中しているからこそである。
だが、一瞬かもしれないし、少しだけとはいえ、目の前の「人類最強」とは違うことが脳裏を過ぎったのは事実。
そこを突かれた。
ファイとアスリーは殴られ、蹴り飛ばされた先から、再び「人類最強」に向けて駆けて出す。外から届いた大きな地響きは気になる……非常に気になるが、下手に背中を見せるとあっという間にやられる可能性がある。
だから、外のことは気にしつつも、ファイとアスリーが「人類最強」に迫る時間を稼ぐために炎の光線の威力を高め、さらにもう数本追加で放つ。
普通の魔物なら容易に焼き切れるだけの威力はあると思うのだが、「人類最強」は身のこなしと手のひらだけですべて回避し――ながら俺に迫ってくる。
「いや、怖っ!」
「人類最強」が迫ってくるのが普通に怖い。
前回の苦い記憶が蘇るからだろうか。
ファイとアスリーが進行方向を変えてこちらに来るのが見えるが、「人類最強」が俺に迫る方が速い。
――もしかして、俺が一番与しやすいとか思ったのか? まずは俺を倒そうと?
それは甘い考えだと教えてやるため、迫る「人類最強」に対して、即座に身体強化魔法を発動し、竜杖を構える。
殴りかかってくる「人類最強」の拳――が、今の俺には見えた。
この数か月の鍛錬の成果が出ている。
……まあ、身体強化魔法がなければ、見えても反応できなかっただろうが。
「人類最強」の拳を竜杖でいなし、そのまま一歩奥に深く入りながら体を回転させて――そのまま竜杖で「人類最強」を殴り飛ばす。
数歩――「人類最強」は下がった。
そこに、ファイとアスリーが迫り、「人類最強」は 俺に手出しできなくなる。
「やるな! アルム!」
「近接も様になってきたな」
ついでとばかりに、ファイとアスリーが一声かけてきた。
まあな、と胸を張りたいところではあるが、目の前で繰り広げられるファイとアスリーの戦いを見ていると、さすがに言えないし胸も張れない。
次元が違う――というか、単純に能力なら身体強化魔法で上回れると思うが、技術的な部分はどうしようもない感じなので無理。
……まあ、向いていないってことだな、と思った時、大聖堂の大扉の方から数人が駆け込んでくる音が耳に届く。
「きょ、教皇さま! 大変でございます! そ、外に! 聖都内に、巨大なゴーレムが! それも三体も!」
「今は聖都に居た冒険者や残っている軍の方たちが対応していますが、このままでは被害は大きくなる一方です!」
「こ、これは何か良くないことが起こる前触れではないでしょうか! どうされますか! 教皇さま!」
ちらりと見えたのは、神官服の男性や修道服の女性の複数人。
言葉通りであるのなら、間違いなく緊急事態だろう。
しかし――。
「あなたたち、今この状況を見てわからないかしら? 私はそれどころではないの。この生意気な女を黙らせないといけないのだから、そっとはそっちでどうにかしなさい」
教皇は取り合わない。
クフォラで手一杯ということかもしれないが、そもそも聖都に現れたというゴーレム数体の方はどうでも良さそうに見える。動揺すらない。まるで、そうなることを知っていたかのように……。
まさか! 本当にそうなると知っていた?
脳裏を過ぎるのは無のグラノさんが懸念していたこと。
今回の一連の出来事の首謀者は教皇なのか?
そう考えると、外のことが気になって――。
「行け! アルム!」
「人類最強」と戦いながら、ファイがそう言ってくる。
「いや、行けって、どこに?」
「外の様子が気になるんだろ! ここは任せろ!」
「……任せて、大丈夫なのか? 俺が居ないとキツイだろ? 一度やり合ってどうしようもなかったんだし」
「はっ! それはお前もそうだろ! それに、こっちだって前とは違うんだ! やってやるさ!」
ファイは自信があるようだ。それはアスリーも同様である。
任せろ、と俺に頷きを見せた。
そりゃそうか。この数か月で強くなったのは俺だけではないのだ。
「……わかった。任せる。速攻で片付けて戻ってくるから、俺の分も残しておけよ」
「保証はできねえな! 俺が倒してしまうからな!」
ファイとアスリーに任せて、俺は天井付近に居るアブさんに目配せ……いや、反省会している場合じゃないから。ほら、行くぞ――とどうにか伝え、大聖堂の大扉の前に居る人たちの間をかき分けながら外へと飛び出した。




