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賢者巡礼  作者: ナハァト
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撃つべし。撃つべし。撃つべし。

 そこから先は、俺は傍観していただけ、というか、それしかできなかった。

 身体強化魔法の反動が凄まじく……ではないな。

 魔法の反動もあるだろうが、そもそも俺の体が貧弱過ぎて、時間で言えば一分も使用できずに限界が訪れ、解除してもその影響が残っている。

 体、バッキバキでもう動けない。

 竜杖に乗って浮き上がるのも億劫になるくらいに。

 まあ、三特殊部隊は熱光線の檻の中で壊滅しているし、俺が今居るのもその中なので、外部から守られているようなモノだ。

 手出しされることはないし、反乱軍が来るまでここで休んで……と思っていたのだが、今回の形状はしっかりと檻なので、その隙間から矢が飛んできて、俺の近くにトスッと刺さる。


「うおっ!」


 思わず身じろぎして、ビキッと体に筋肉痛のような痛みが走り、まともな動きがとれない。

 そして、檻の隙間から矢が次々と射られてきて、その内の一本が腹部に刺さった。


「うっ……」


 想定していた痛みがこない。

 あれ? 刺さったと思ったのだが、刺さらなかったのか? とどうにか身をよじれば、矢がポトリと地面に落ちる。

 ……刺さったけど、刺さらなかった。

 どうやら、ドラゴンローブが完全に防いだようだ。

 思い返してみれば、これはカーくんの鱗を加工したモノ。

 そこらの攻撃では一切通用しないのかもしれない。

 そうとわかれば、このままここで固定砲台として動こう。

 お返しとばかりに、矢が飛んできている方――騎士団の方に大火球を連発。

 同じ魔力ということで熱光線の檻は俺の大火球を素通りさせる。

 真正面からだけではなく、頭上からも降ってくるように――撃つべし。撃つべし。撃つべし。

 体は限界だが、魔力はまだあるのだ。

 こんにゃろ! こんにゃろ! こんにゃろ!

 自慢そうな整えた髭が若干焦げて涙目になっている、身形の良さそうな中年騎士が白旗を上げるところまで続けた。


     ―――


 この場のケリが着くのは、そこからそれほど時間はかからなかった。

 というか、俺の影響らしい。

 俺が後方で三特殊部隊と騎士団を壊滅させている光景に戦々恐々とした国軍が、直ぐに降参を宣言。

 主力である騎士団と三特殊部隊は既に壊滅しているので、事実上反乱軍の勝利であった。

 少し待てば、俺の護衛として機能しているか怪しい「新緑の大樹」が姿を見せる。

 そのうしろには反乱軍の姿を見えるので、熱光線の檻を解いて招く。


「「「「……やり過ぎ」」」」


 何故か「新緑の大樹」から呆れたように言われる。

 ……まあ、否定はできない。


「それだけ激しい戦いだった」


「いや、無傷のヤツが何を言ってんの? どう考えても、この妙な暑さに、ところどころ溶解している大地は、お前の仕業だろ?」


「新緑の大樹」のリューンさんの反論に同意する他の面々。

 どうやら、体の内部ダメージが見えないのが裏目に出ているようだ。

 まあ、実際に外傷は一度も受けていないのも事実。

 論破できそうにない。

 そこに、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵が現れる。


「よくやったぞ!」


「被害が想定よりも大幅に減ったのだ。そこは喜ぶべきところだな」


 反乱軍をここまで引っ張ってきたようだが、疲れのようなモノは見えない。

 ただ、その表情は雄弁に物語っている。


「「……もっと戦いたかった。アルムにその機会を奪われた」」


 実際に言われた。

 何しろ、国側の最大戦力は潰れたのだ。

 ここから先はこれ以上の大きな戦いなんてない。

 精々が、王家直属の近衛が控えているくらいだろうが、それだって強くはあっても、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵の二人を相手にするのは数が足りない気がする。


「仕方ない。こうなったら、近衛だな」


「そうだな。こっちは不完全燃焼だし、嫌と言ってもやり合い続けてもらおう」


 獰猛な笑みを浮かべるゼブライエン辺境伯とシュライク男爵。

 近衛の被害が尋常になりそうだ。

 肉体的にも。精神的にも。

 二人はそのまま国軍の一部を率いて王都へ。

 大部分は残って、国軍、騎士団、三特殊部隊の後処理を行うようだ。

 無力化させたり……捕らえたり……負けたのが信じられないと暴れるのをボコしたり……と。

 その様子を見ながら、「新緑の大樹」のリューンさんに尋ねる。


「俺、このままここに居ていいのか?」


「居ろ居ろ。というか、これ以上俺たちが何かをする必要はねえよ。王都の方はテレイル殿下とおっさ……ゼブライエン辺境伯とかに任せておけばいい。それに、アルムがここに居るだけで牽制になっている。大したもんだよ。さすがは、通りすがりの凄腕魔法使い。よっぽど怖いんだろうな、アルムが」


「魔法が、な。俺自身はそこらに居る使用人――執事見習いでしかない」


「たとえそれが真実だったとしても、それを信じるヤツは向こうには居ねえよ」


 チラッと視線を向けるだけで、捕らえられた人たちがビクッと震える。

 ………………。

 ………………。


「こらこら。チラチラと色んなところに何度も視線を向けるな」


「いや、怖がっているのはわかるが、一々反応するのが少し面白くて……いや、わかった。やめる。向こうもそうだが、俺も落ち着かないしな」


「わかっているなら……いや、わかってねえだろ! なんでそんな悲しそうな表情で俺を見るんだよ!」


 その方が、「新緑の大樹」のリューンさんが反応してくれると思って。


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