視界に入れないようにしても見えてしまう時だってある
残りの腕輪、それとうなじの吸盤と足輪も、対魔力を流して破壊する。
やはり、砕け散ってしまい、二度と使うことはできなくなった。
これがなんだったのかを知りたいところだが、調べるのは難しそうである。
しかし、これでファイが元に戻るはず……なのだが、その前に問題発生。
「……申し訳ございません。私の魔力量では足りないようでして」
女性軍医が申し訳なさそうに言う。
いやいや、そんなことはない。頑張れ、と言いたい。いや、頑張ってくれ。
他にも、女性騎士や女性兵士も同じことを口にする。ついでに、属性も足りません、とも。
いやいや、そんなことはない。足りなければ、なければ新たに生み出す……いや、さすがにそれは無理だから、足りない属性を持っている女性を連れて来ようか。何しろ、この場に居るのはリミタリー帝国軍なのだ。大勢の人が居る。足りない属性を補えるはずだ。魔力量だって同じである。それがいい。そうしよう。
「い、いえ、それでも足りない……魔力量は足りるかもしれませんが、それでも六つの属性分となると不可能です」
「そこをなんとか」
「申し訳ございません。無理なモノは無理です」
駄目なようだ。
女性軍医たちが俺を見る。それだけではなく、セカン、アスリーに軍医と――この場に居る全員が俺を見てきた。
……なるほどね。実際、ファイの方は俺がやったし、他に居ないのなら俺がクフォラもやるしかない訳か……。
「ことわ」
「「「れる状況ではないよね?」」」
はい。その通りです。
「えーと……わかった。やるのはいい。だが、一つ確認したい。いや、お願い、だろうか。もしもの時は、俺は吸盤、腕輪、足輪にしか触れていないし、見てもいないと証言して欲しい。それ以外のことは誓って行っていないと」
念には念を入れておいた。
皆に誓ってもらい、女性陣の協力の下、その時の必要箇所以外は布で視界を遮るなどをすることによって、誓って他には目もくれず、触れもせずに、吸盤、腕輪、足輪に対魔力を流して破壊する。
ただ、それでも、と言うべきか。
二の腕は特に何も思わなかったが、うなじや太ももの時は妙にドキド……いや、していない。反応していないから。無心でやっていたから。だから、女性陣よ。どうだった? とか、肌綺麗だったでしょ? とか俺に感想を求めないように。
―――
これで大丈夫だと思うが、油断はできない。
クフォラとファイが目覚めてみないことには、元に戻っているかどうか確認できないからだ。
それが確認できるまで、俺とアスリーはこの場から動けない。
もし戻っていなかった時のことを考えて、対処できる者が必要だからだ。
なので、この場には俺とアスリーが残っている。
あと、軍医と女性軍医たちも残っているのは状態確認も必要だから、というのもあるが、クフォラの方は今も布で遮られている向こう側なので、女性軍医たちは特に必要なのだ。
ただ、セカンはリミタリー帝国軍の大将として立場があるため、今は席を外して聖都攻めへの指示を出しに行っている。
今は戦争中だし、立場的にクフォラとファイにかかりっきりになる訳にはいかないため、仕方ない。
そうして考える余裕ができたからだろうか――ふと思う。
アブさんは今も天井から顔を出して様子を窺っているけれど、それってつまりクフォラの黒い鎧を脱がしていた時も見えていたってことだよな?
いや、別にそれがどうこうという訳ではない。別に裸になった訳ではないし。
……ただ、その……ね。ほら。他人の着替えってドキドキしないだろうか? 衣擦れの音が聞こえてくると妙に生々しくなるというか……いや、待てよ。多分、クフォラは黒い鎧しか脱がされていないし、衣擦れの音ではなく金属音ではないだろうか? 思い出してみるとそれ以外の音は聞こえていなかったような……いや、そうじゃなくて、見えていたということが重要なのだ。
……まあ、アブさんは特に気にした様子はないし、生身はそういう対象ではないのだろう。
そんなことを考えていると――。
「ん、んん」
ファイが目覚めた――と思うのとほぼ同時にファイは寝台から下りて身構える。
俺は慌てて身構えるがアスリーは既に身構えていた。
「……あ? アスリーに、アルム? どういうことだ?」
ファイが不思議そうに口にする。
俺とアスリーは顔を見合わせ、自分たちを認識して襲いかかってこないファイの姿にホッと安堵する。
「どういう状況だったか、憶えているか?」
アスリーが尋ねる。
「は? ……ああ、そうだ。思い出した。いや、憶えている。聖都に入って枢機卿に会って、その時――」
「その時?」
「教皇が現れた。いや、そっちはどうでもいい。黒いローブを頭から被っているヤツが現れて……そこで意識が途切れた。次は……リミタリー帝国軍を相手に戦っている? どういうことだ?」
ファイが尋ねてくる。
いや、尋ねられても困るのだが、黒ローブ? 俺が戦ったヤツか? それとも、似たような恰好の集団か?
もう少し詳しく聞いた方がい――。
「はっ! ここは! ……私はいつの間に同姓のハーレムを形成していたのでしょうか?」
布で遮った向こう側から、そんな声が聞こえてきた。
……まあ、なんだ。一度に状況説明ができて、当事者二人から同時に話を聞けるんだから、手間が省けた――ということで、先ほどの発言については聞かなか……聞こえなかったことにしていいんじゃないかな。
俺、ファイ、アスリーは顔を見合わせ、一つ頷いた。




