不思議に思わないこともある
まずはクフォラと戦っているセカンの下へ。
ファイよりもクフォラの方を優先したのには、もちろん理由がある。
クフォラの攻撃方法は魔法。つまり、セカンに当たらずとも、周囲への被害が大きいのだ。
ちなみに、その被害はリミタリー帝国軍だけではなくアフロディモン聖教国軍も受けていた。
クフォラの魔法の範囲が大き過ぎるが故の結果である。
「に、逃げろ! 逃げろ! あの女は危険だ! 近寄っちゃいけない!」
「巻き込まれるぞ! その女から離れるんだ! 要注意人物だ!」
「もっと痛めつけて!」
「ひゃあああああっ! 死にたくねえ!」
今、何か変な声が混ざっていたような……いや、きっと気のせいだろう。
ともかく、リミタリー帝国軍、アフロディモン聖教国軍問わず、クフォラから距離を取ろうとしている。
なんというか、見ていられないというか、そこまで怖がらなくても――と思わなくもないが、どうやら普通ではない様子なので仕方ないかもしれない。
まずはセカンに声をかける。
「セカンッ!」
「アルムか!」
「本当に、クフォラが敵に?」
端的に尋ねる。
セカンは、クフォラが放つ魔法の対処で余裕はあまりなさそうだから、ごちゃごちゃと言うのは危険だと判断した。
「状況だけ見ればな! だが、言動がおかしい! 何かしらあったのは、間違いない!」
セカンもそれだけ告げて、あとはクフォラの魔法の対処に専念する。
クフォラの魔法はこっちでどうにかするから、クフォラの方をどうにかしてくれ、といったところか。
……まあ、それは難しくない。
何しろ、今のクフォラはセカンに意識を向けているので、隙を突きやすいのだ。
地上に下りると同時に身体強化魔法を発動する。
瞬時に距離を詰め、竜杖を振るう――が、さすがは「暗黒騎士団」と言うべきか、クフォラは反応して俺の振るった竜杖を飛び上がって回避した。
ただ、別にそれでも問題ない。
「隙を見せたな」
俺の攻撃を避けたことで、クフォラの魔法は一旦とまり、セカンが自由に動けるようになった。
セカンは一瞬でクフォラとの距離を詰め、クフォラが着地する前にセカンは手のひらを前に突き出して――。
「――ふっ!」
クフォラの黒い鎧に触れると掌底を放つ。
「――ぐっ!」
衝撃が黒い鎧を突き抜けたのか、クフォラは苦悶の表情と呻き声を上げて倒れた。
見せていい表情ではなく、出していい声ではなかった気はするが……見なかった、聞かなかったことにしよう。
「やったのか?」
「いや、意識を失わせただけだ。何が起こったのか確認しないといけないし、元に戻せるのなら戻さないといけないからな。それよりも」
「ああ、次はファイの方だな。わかっている」
この場はセカンに任せて、ファイとやり合っているアスリーの下へ向かう。
―――
「………………」
う~ん……必要かな? 俺。
アスリーとファイの戦いは、そんな感じだった。
セカンとクフォラの戦いは周囲への影響が大きかったが、こっちは違う。
「はははははっ! 強い! 強い! 強いな! お前! この俺と対等以上に渡り合えるなんて! いいぞ! もっと! もっとだ! もっと俺を楽しませろ! そして、最後に勝つのは俺だ! だから、面白い!」
「私が誰かもわからぬ状態になってまで、まだ私に勝てるという下らぬ幻想を抱いたままか。お前が忘れている、私の方が強いという現実を思い出させてやる」
ファイは他には目もくれず、アスリーに集中している。
だから、周囲への被害がない。
といっても、近付けば危険であることに変わりはないので、リミタリー帝国軍、アフロディモン聖教国軍共に一定の距離は保っているようだ。
とりあえず、声をかけてみる。
「アスリー。手伝おうか?」
「要らん」
「邪魔をするな!」
聞いたのはアスリーなのに、何故かファイからも断られた。
と思えば、ファイが俺を見る。
「……いや、お前も面白そうだな。こいつのあとに俺と戦え!」
ファイが好戦的な笑みを向けてくる。
う~ん……こいつ、本当に何かされているのだろうか?
普段と変わらなさ過ぎるんだが……いや、リミタリー帝国軍を敵認定しているんだよな? なら、何かされているのは確定か……判断に悩むから、何かされたのなら、そういう言動を取って欲しい。
ただ、何が起こるかわからないため、念のためという意味も含めて、アスリーとファイの戦いを見ておく。
ファイは変わらず怒涛の猛攻だが、アスリーはそれをすべていなしていき、一撃も食らわない。
また、それが通るのか? と言いたくなるような反撃をアスリーは行い、ファイは徐々に劣勢に追い込まれていく。
やはりと言うべきか、まだアスリーの方が強いようだ。
さすがは「暗黒騎士団」最強と呼ばれているだけはある。
ほどなくして、アスリーがファイを気絶させて無力化した。
「まだ、ファイには負けないか」
そう声をかけると――。
「……どうだろうな。少なくとも、このファイは本調子ではなかった」
「そうなのか?」
「ああ。本調子ではなかった。表面上はそのままだったが、内部で抵抗していたような……ファイのように言うなら、本能がこれは違う、こんなので勝ちたくないと逆らっていた、といったところか。普段は絶対にあり得ないぎこちなさのようなモノが度々あった」
だから、気絶させるのも簡単だった、という感じだろうか。
それがわかるアスリーもすごいと思うが、ファイもファイだな。
でも、不思議とそれは不可能だと思わないのが、ファイである。
あっ、あり得そうだな、と思った。
とりあえず、これでクフォラとファイを確保することはできたので、セカン、アスリーと共に、二人を連れて一旦本陣へと下がる。
クフォラとファイに何があったのか。
それを確認しないといけない。




