やってみないとわからないこともある
地上に下りる。
周囲はまだ熱光線の檻に囲まれ、その内部の至るところに炎の槍が地面に突き刺さっている。
大気が少し熱く感じるのは、その影響だろう。
「う、うぅ……む、無茶苦茶だ……」
三特殊部隊の多くの者が倒れ伏しているが、中にはまだ意識がある者も居るようだ。
といっても、さすがに戦闘継続は不能のようだが。
そもそも、三特殊部隊とまともにやり合おうとは思っていなかった。
正直に言ってスキルだけは本当に有用なので、正面からやるとどれだけ被害が出るかわからないのだ。
だから、遠距離からの魔法行使を徹底したのだが……火のヒストさんの魔力……すごいな。
無のグラノさんたちが、国を落とすのに適しているといった理由がよくわかった。
目に映る印象も含めて、破壊力がすさまじい。
しかも、これで一人分なのだ。
あと六人……力に溺れないように……目の前で倒れている三特殊部隊のようにならないように、気を引き締めていこう。
そのためには、やっぱり手にした魔力をただしく使えるようにならないといけない。
つまり、もっともっと練習が必要だ。
だから、下りてきた。
「おいおい、随分と好き勝手やってくれたな」
怒りを滲ませた声が聞こえ、巨大な斧を肩にかけながら筋骨隆々の男性が現れた。
他にも何人かが俺に向かってきている。
炎の槍の雨の中を無事に生き抜いた猛者、といったところか。
ただ、その手段は他人を盾にするといった方法のようで、同じ三特殊部隊所属なのに、もう要らないと捨てている。
……まったく。気持ちいいくらいにこちらのやる気を刺激してくるな。
僅かとはいえ、生き残りが居ることはわかっていた。
そして、僅かだからこそ、今の俺には試せることがある。
大勢が相手だとちょっと心許ないというか、一つの魔力操作ミスで一気に魔力を枯渇してもおかしくない状況になってしまうので、少数が相手でないと試せないのだ。
あと、継続時間も短い……というか、長時間の行使ができない。
「だが、これだけの大魔法を二発も放ったあとだ。さすがに魔力も尽きただろう。あとは、弄り殺されるだけだな」
巨大な斧が俺に向かって振り下ろされる。
狙いは……俺の肩といったところだろうか。
言葉通り、弄るつもりで、直ぐには殺さないようである。
三特殊部隊らしい……が、そうはならない。
有用スキル持ちだろうし、きっとというか、本来なら反応もできなかったと思う。
けれど、今は違う。
反応できているというか、巨大な斧を持つ男の行動がしっかりと見えている……だけではなく、その行動が酷く緩慢なのだ。
こうして色々と考えられるほどに。
それを可能にしているのは……身体強化魔法を使用しているからだ。
といっても、これは正確には魔法ではない。
体に魔力を流し、纏わせているだけ。
火のヒストさんの記憶によれば、体に流せるのと纏わせられる魔力の量は個人差があって、大抵はそこまで高い効果を得られることはないそうだ。
それこそ、普通に魔法を放った方がいいくらいの些細な変化しか起こらないのだが、無のグラノさんたちが言うには、七人分の魔力を受け継ぐことができる俺であれば、制限のようなモノがない……らしい。
要は、流せば流すだけ、纏わせれば纏わせるだけ、上昇していくということだ。
もっとも、魔力操作が甘い今の俺では、効率という意味では非常に悪いので、使用中は大量の魔力をガンガン垂れ流し状態なので、火のヒストさんの魔力量があったとしても直ぐ枯渇してしまう。
なので、さっさと片付けるに越したことはない。
迫る巨大な斧を半回転して避けて、そのまま回転の勢いで前に踏み込み、竜杖を振り抜く。
スイングされた竜杖で巨大な斧を持つ男を打ち飛ばす。
パッカーン! と巨大な斧を持つ男は飛んでいき、途中で地面をゴロゴロ転がって熱光線の檻に当たる直前でとまる。
「あ、あが……」
ピクピクしているが、もう動けない模様。
俺は上半身を斜めに構え、やったぜ! と人差し指で飛んでいった男をビシッ! と指差す。
こういうことを行ったあとに、決めポーズをした方がいいと、カーくんと共に考えたのだ。
「は? いやいや、あいつ魔法使いだよな? なんで杖を振っただけで人が飛んでんの?」
「いや、その前にあれは『第二特殊騎士団の団長』だよな? それを一撃って」
生き残りから驚きの声が漏れ聞こえる。
そうか。あれは団長だったのか。
他の団長……まあ、生き残りの中に居るか、既に炎の槍の雨でやられたんだろう。
それよりも問題発生。
………………不味い。もたない。
魔力が切れそう……ではなく、俺の体がもたない。
貧弱過ぎて、強化された力に耐えられそうにない。
たったこれだけの動きをしただけで、もう体の方がギシギシ言って壊れそうだ。
「……ふう」
身体強化魔法を解く。
危なかった……ではない!
ここは敵陣のど真ん中なのに、迂闊過ぎ――。
『………………』
生き残りたちは飛ばされた男を見て、まだ驚愕していた。
………………。
………………。
「……『赤熱 天より降り注がれ 空を焼き 大地を焦がす 火雨』」
『ぎゃあああああっ!』
隙だらけだった生き残りたちはまともに食らい、全員倒れる。
戦闘中に相手への警戒を怠るから、こうなるのだ。
まあ、それは俺もというか、先ほどの身体強化魔法を解いたのは迂闊だった。
……一瞬の油断が命取りになってもおかしくないので気を付けよう。
こうして、三特殊部隊は全滅した。




