逆に、が駄目な時もある
アフロディモン聖教国の聖都に向けて飛んでいく。
一度行ったのだから問題ない。
目を瞑ってだって行ける……いや、今のは誇張表現だな。さすがに目を瞑っては行けない。目を開いていても目的地に行けないのに……いや、待てよ。逆か? 目を開いていても行けないのなら、目を瞑って行けば目的地に辿り着くのではないだろうか?
………………。
………………。
無理だな。
地上を進めば普通に何かにぶつかるだろうし、空を進めばそのままどこまでも飛んで行ってしまいそうだ。
それに、今は急がないといけない。
最速で向かわないといけないのだから、そのための手段を取るのが正解である。
よって――。
「アブさん、任せた!」
「任された! ――が、別に今まで通りではないか? 言葉にすることなのか?」
「言葉にするのは重要なことだよ、アブさん。言葉にすることできちんと伝わるモノもある。今のは、信頼を言葉にしたんだ。任せる、と。そう思わないか?」
「なるほど。しっかりと伝わった。まあ、信頼は常日頃感じてはいるが、それでも言葉にして伝えてもらうのは嬉しいモノだな」
「そういうことだ」
アブさんとそんな会話をしつつ、アブさんが示す方向に飛んでいく。
国を跨いでの移動ではなく、国内での移動なので多少時間はかかるがそれだけ。
ほどなくして聖都に辿り着く。
聖都には中に入るための門が二つあるのだが、そのどちらからも人の出入りがなくなっていて、物々しい雰囲気を放っていた。
何しろ、聖都の門を守るようにして、アフロディモン聖教国軍が陣取っているからだ。
さすがに数はそこまで多くはないが、それでも今対峙しているリミタリー帝国軍と同時くらいの数は揃っている。
まあ、ここは本国だし。以前は分隊。こっちは本隊といったところか。
そう。リミタリー帝国軍は既に着いていた。
戦いは……まだ始まっていない。
リミタリー帝国軍は着いたばかりのようで、聖都の二つの門を攻めるようとしているのか、二手に分かれて陣取ろうとしていた。
ただ、その形は一応陣の形となっているようだが、それでも分散し過ぎでは? と言いたくなるように散らばっている。
ただ、そのようにした意図はなんとなくわかった。
これまでに居なかったということは、「人類最強」が聖都に居るのは間違いない。そう思えば気配も………………わからない。とにかく、ここに居ると判断したのは間違いない。だからこそ、戦力を集めておくのは危険なのだ。下手に戦力を集結させておくと、そこに「人類最強」が投入されたら――どれだけの被害が出るかわからないし、何よりそれで壊滅して終わる可能性が充分にある。それを避けるために、陣の形を保ちつつも分散しているのだろう。
そこまで確認すると、リミタリー帝国軍の本陣と思われる場所を見つけたので、そこに向かってゆっくりと下りていく。
急いで下りて敵だと思われて襲われると困るからだ。
幸い、そういうことにはならなかった。
寧ろ歓迎されているような雰囲気なので、ホッと安堵。
リミタリー帝国軍の兵士にセカンの場所を尋ね、案内してもらう。
……だが、どうしたものか。
情報を得ることはできた。しかし、それは状況を悪くするモノでしかなく、さらに広めていいモノではないだろう。知る者はできる限り少ない方がいい類のモノなのは間違いない。となると……セカンにだけは言っておくか? セカンならわざわざ広めるようなことはしないと思うし……いや、そもそもまだ誰にも言う必要はないかもしれない。正確には、緊急事態ということは伝えるが、詳細まではまだ――と言った具合に。
………………。
………………。
そんな上手い具合に説明できるだろうか?
不安だ。
一度、待ってもらい、文書で提出でもいいだろうか?
どう伝えればいいのかを悩んでいる間に、セカンの下に案内された。
「アルムか! いい時に来てくれた!」
俺が何か言う前に、セカンが歓迎……いや、どこか焦っているように見える。
「何かあったようだな。何があった?」
「それがわからないのだ。起こっているかもしれないし、起こっていない……いや、連絡がない以上、何かあったのだろう」
要領を得ないのでどういうことか尋ねると、リミタリー帝国軍が聖都に辿り着く少し前に、クフォラを先行させた。護衛としてファイを付けて。ファイを付けたのは、聖都がどのような状況になったとしても、上手くことを運びそうだからだそうだ。
……なんかわかる。ファイなら、どのような状況でも生き抜きそうだ。
先行したクフォラとファイの目的は、ルーベリー枢機卿が新教皇になるかどうかは一先ず置いておいて、今はリミタリー帝国軍に協力して戦争終結に向けて動くかどうかの確認である。
ただ、今になってもクフォラとファイは姿を見せず、連絡も一切ない。
セカンが言ったように、何かあったのは間違いないだろう。
「それで、いい時に来てくれたと言うってことは、俺に上空から聖都内の様子を見て来て欲しいってことか?」
「ああ。こちらからも人を出したいが、睨み合っているこの状況では聖都に入るのも難しくてな」
「見つけられるとは限らないぞ?」
「それもわかっている。ただ、二人はアルムが協力してくれていること、それとアルムが空を飛べると知っている。なら、空にも注意を向けてアルムを見つければ、二人の方から何かしらの行動を起こすはずだ。頼めるか?」
「わかった。一先ず聖都上空を飛んでみる」
セカンのお願いに頷きを返し、聖都上空に向けて飛び上がる。




