いきなり当たりを引く時だってある
特に何かが起こることもなく、数日後。ラビンさんの隠れ家に辿り着いた。
そのまま中に入り、魔法陣でラビンさんのダンジョンの最下層へ。
ボス部屋へと入ると、前回と変わらず「青い海と空」と「王雷」の姿はないが、いつもの皆は揃っていたので声をかける。
「戻ったよー」
『おかえりー』
反応が返ってきて、皆は思い思いの行動を取る。
母さんとリノファは女性陣と共に何やらやっていて、あれは……掃除、だろうか。母さんの指導の下、ボス部屋の掃除をしているようだ。ここに集まることが多いから、それなりに汚れる場合があるのである。掃除は……まあ、必要だよな。ダンジョンを踏破してボス部屋に来たら、生活臭が漂っていたとか嫌だよな。来た方も。迎える方も。うん。掃除。大事。
ラビンさんはうんうんと唸って何やら考え中。バトルドールに刺激を受けていたし、またそれが再燃したのかもしれない。まあ、ここには皆が居るし、無理をしようとすればとめるだろう。
カーくんは筋肉を磨き上げている。うん。ここはぶれない。まったくぶれない。ぶれたところを見たことがない。
男性陣は何やら発表会みたいなことをしている。大きな板に張り付けたたくさんの紙には様々なことが書かれていて、それがどのようなモノだったかと話し合っているようだ。内容は……骨密度と魔力量の相互関係? どうやら、俺とアブさんが出たあとに自分たちでも試して、その結果を確認し合っているようである。
気付けば、アブさんも男性陣のところに交ざっていた。
まだまだ強くなりたいようだ。その意欲は素晴らしいと思う。
まあ、誰もがここでの日常を過ごしているといった感じだ。
………………。
………………。
「いや、なんか普通!」
思わず、そう口に出していた。
前回の時の反応があればこそ、そう思ってしまう。
その声に反応したのは、無のグラノさん。
「アルムよ。前回を基準にしてはいけない。あれは常ではなく稀なのだ」
いつの間にか俺の側に居て、うんうんと頷きながらそう口にする。
発表会の方はいいのだろうか? と思って視線を向ければ、今はアブさんが行っていた。
実体験による説明に加えて、個人に合った骨密度の高め方、みたいなことを話し出している。
アブさんと男性陣は真剣なので……そっとしておこう。
「い、いや、でも戻ってきた訳だし、もう少しこう歓迎的があっても……」
「では、一つ聞こう。アルムよ」
「な、何を? グラノさん」
「こうして戻ってくるのは何回目だ?」
「え? えっと……」
ここに来て、こうして戻ってくるとなると、これまで片が付く前に一回は戻って来ていて、前回はそれがなくて片が付いたあとの一回だけだから……これまで九回? まあ、違っていても誤差だろうから、今回のを合わせれば……。
「十回、か?」
「うむ。つまりは二桁に入った訳だ。さすがに、それだけの回数となると……慣れる! 慣れるのだ! 慣れてしまったのだ!」
「な、なんだって!」
「しかも!」
「まだ続く!」
「今回は数か月共に居たあとで、さらに短い! まだ慣れている状態で戻ってくれば、こうなることは必然ではないと思わないか!」
「……」
まあ、確かに。
稀であれば過剰のように反応することであっても、慣れるまで回数をこなせば反応も薄くというか落ち着きもするか。
「……納得した」
「わかってくれたのなら、何より。しかし、今回は随分と早かったが、何かあったのか? いや、ただ顔を見に来ただけでも嬉しいのだが」
「俺もそうだったら良かったんだが、残念だけど違う。何かが起こっているのは間違いない。間違いないが、誰も何が起こっているのかわからないんだ。だから、それが何かわかれば、と思って一度戻ってきた」
「なるほど。頼ってくれて嬉しく思うが、聞いてみないことにはわからないな。詳しく聞かせてもらえるか?」
「ああ。とりあえず、今わかっていることだけど――」
順を追ってだと長くなりそうだったので端折る部分は端折って、リミタリー帝国軍と合流してからのことを詳しく話す。
話していて思ったが、皆を集めてからの方が良かったのではないだろうか? このままだと二度手間になるが……まあ、いいか。そう難しい話でもないし、また話すことになっても。
「……」
なんてことを思っていたのだが、話し終わったあとの無のグラノさんの様子が変だ。
黙ってしまい、何かを考えているか、神妙な様子である。
……あれ? もしかして、思い当たっているのだろうか?
いきなり当たりを引いちゃいましたか? 俺。
ただ、このまま待っていればいいのだろうか?
とりあえず、声をかけてみる。
「……えっと、グラノさん? 何かわかったんですか?」
「うむ。もし、ワシが思っている通りなら非常に不味い」
無のグラノさんの様子は真剣そのもの。
……もしかすると、思っている以上の大事かもしれない。




