どっちも負けない時もある
リミタリー帝国軍と共に聖都を目指して進む。
正直に言えば、飛んでいけるので、アブさんとの行動が速いのは間違いない。
それでも共に行くのは、単純に戦力の問題である。
今の俺の狙いは「人類最強」に一発入れることだ。
普通のとか、軽くとか、運良くとかではなく、土のアンススさんの思いを込めた一発を。
………………。
………………。
入れられるだろうか? 相手は「人類最強」。以前は手も足も出なかった。
いやいや、弱気になってはいけない。以前までの俺とは違うのだ。相手が「人類最強」でも通用するはず……通用するといいな。
ともかく、「人類最強」と戦うことになるのは間違いないので、その時に邪魔が――聖都にはアフロディモン聖教国軍もまだ残っているだろうし、それが介入してくると面倒だ。
リミタリー帝国軍にはその相手をしてもらいたい。
聖都に向かう中でそのことをお願いしたのだが、問題が発生。
「いやいや、アルムよ。『人類最強』には俺も思うところがある。よって、俺が相手をする」
これ、確定な、と親指を立てるファイ。
「いや、確定じゃないから。『人類最強』と戦うのは俺だ」
「いいや、俺だ!」
「俺だ!」
ファイと睨み合う。
どちらも譲る気はない。
竜杖を構えると、ファイも槍を構える。
「勝った方が戦うってことでいいよな?」
自信満々にそう口にするファイ。
まあ、模擬戦はファイが勝っている。それは間違いない。
けれど、それは模擬戦だからであって、実戦なら負けない。
「本気で、いいんだよな?」
「本気出せば俺に勝てるとでも?」
そう言いつつも、もちろんお互い本気ではない。
本気だと、間違いなくどちらかが死ぬだろうから。
それでも、少しだけ力を解放する。
「卑怯だぞ! 飛んでも届かない上空から魔法を放つなんて! 下りて来い!」
ファイが何か言っているが聞こえない。
と思っていたら、槍が飛んで来たり、周囲で見ていた兵を踏み台にして飛び上がってきたりと、油断ならなかった。
何より、ただ魔法を連発してもファイに通じない。
結果――引き分け。決着が着かなかった。
「なら、早い者勝ちってことで」
「そうだな。出会った方が戦う。それでいこう。まあ、アルムが一発殴る分くらいは残しておいてやるよ」
そんな感じで話はまとまった。
そうして聖都に向けて進んでいく中、大きな町があって、攻め入ることに――ならなかった。
様子見に向かった兵たちによると、迂闊に敵対すると民が危険であり、民の安全のために素通りさせていい、と教皇から指示が出されていたそうだ。
実際、大きな町でありながら、アフロディモン聖教国軍の姿はなく、戦力としてあるのは町の日常的な安全を守る程度でしかなかった。
「準備不足……いや、聖都には『人類最強』が居る。ということは、それを前提として聖都に戦力を集結させている可能性が高い。つまり、招き寄せている訳か。私たちを」
セカンがそう判断する。
ただ、それには俺も同意見。いや、俺だけじゃなく、他の人たちもだけど。
だからといって、向かわない――という選択肢はない。
何故なら、わかっていたことだから。
「人類最強」を中心して戦力を集めることは、予測できることである。
それでも聖都に向けて進むのだ。
けれど、ここでまた問題が発生。
この大きな町で情報収集を行った時に知ったのだ。
問題が起こったのは、リミタリー帝国軍に、ではない。
アフロディモン聖教国の他のところで、だ。
しかも二か所で。
アフロディモン聖教国の南の方で、ワニのような大型の魔物が数体現われて暴れ、照射範囲を焼き尽くす光線まで吐き出してきたそうだ。
もう一か所はアフロディモン聖教国の北東の方で、こちらも大型の魔物が数体現われ、それはワシのような鳥らしく、羽ばたきで風の刃を放ってきたという。
どちらも既に討伐したそうだが、出現に前触れがなく、それなりの被害が出ている――というモノだった。
現場ではないし、情報を話した者も元が又聞きなので詳細はわからないが、これが嘘とか偽とかではないと思う。
何故なら、その話を聞いてこちらも思い出されるのだ。
突然現れた合成炎魔獣のことを。
「……セカン。これは」
「ああ。嫌な感じだな。私だけではなく、この国全体で何かが起ころうとしているような感じだ」
裏で何かが起こっているのは間違いない。
しかし、それがなんであるか――俺たちの誰もそれがわからない。
答えに辿り着く欠片も見つけられていない。
このまま知らないままことを進めると、何か……致命的なことになりかねない気がする。
だからこそ、俺は一度リミタリー帝国軍から離れることにした。
まあ、できれば一度戻って来て欲しい、みたいなことを言われていたし、安心させるという意味も込めて、もしかしたら何かわかるかもしれないと望みを抱きつつ、一度ラビンさんのダンジョンに戻る。




