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賢者巡礼  作者: ナハァト
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サイド とある部屋での密談 2

 誰が見てもわかる豪華な部屋。

 そこにある、ふわふわの毛皮が張られたソファーに、金の長髪を持つ三十代後半ほどの美しい女性が座っていた。

 ただ、その外見は優雅さそのものであるが、浮かべている表情はまったく違う。

 怒り――いや、どちらかと言えば苛立ちだろうか。

 女性は感情を隠そうともせず、対面にあるソファーに腰を下ろしている黒ローブの男性を睨み付けている。

 対する黒ローブの男性は、特に気にした素振りを見せない。


「……どういうつもりかしら?」


 女性が尋ねると、黒ローブの男性は首を傾げる。

 何を問われているのかわからない、という仕草だ。


「何が、ですか?」


「決まっているでしょう? リミタリー帝国軍が来ている方向での件についてよ。どうしてリミタリー帝国軍ではなく、私の国の軍の方が襲われたのかしら? 説明してくれる?」


「説明も何も、答えは一つ。アレらに出していた命令による結果かな? それなりの力は持たせたけど、簡単な命令しか受け付けず、それで結果としてああなったんじゃないかな?」


「どんな命令を出せば、こうなるのよ?」


「え? そんなの決まっているよ。弱い方に襲いかかれって」


 黒ローブの男性を見る女性の目付きが鋭くなる。

 女性の美しさも相まって、相手に与える印象はより強くなっていた。

 けれど、黒ローブの男性はそれでも態度は変わらない。


「え? 何その反応? 自分だってこうなるとは思っていなかったから。リミタリー帝国軍の方になんか強いのが居たんじゃないのかな? ほら、『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』とか?」


「それ以前に、区別させることはできなかったのかしら?」


「区別? 無理無理。だって、アレはまだ途中で、色々と中途半端だったから。もっと強さに特化させておけば、蹂躙できたかもしれないと思うと悔いが残るけどね」


 とてもそんな風には見えない、と女性は思う。

 実際、悔いが残ると言葉にしつつも内心ではどうでもいいと思っていそう、と。

 女性がそう思っていると、黒ローブの男性はなんでもないように口を開く。


「でも、そこまでこだわることかな? 確かにアフロディモン聖教国軍の方に被害が出たけれど、最終的にはどちらも触媒(・・)生贄()といったモノでしかないんだからさ。どちらが先に、でしかないんだし」


「……」


「それに、キミにとって、重要なのはキミだろう? 他がどうなろうが知ったことではないと思うけれど?」


 黒ローブの男性の言葉に女性は――息を吐いて、ソファーに背中を深く預ける。

 その表情からは苛立ちなどは既に消えていて、先ほどまでのことはどうでもいい、と女性は笑みを浮かべていた。


「そんなのは当たり前でしょう。私は何より私が大事。他はどうでもいいのよ。確かに、あなたの言う通りよ。どちらにしても結果は何も変わらない。けれど、どっちを残しておけばあとが楽になるかは明白。手間になる方が残ったのだから、少しくらいはあなたに当たってもいいと思わないかしら? だって、あなたがリミタリー帝国軍の力を見誤らなければ、こうはならなかったのだから。誰だったかしら? 私に、リミタリー帝国軍の方は対処すると伝えてきたのは?」


「はいはい。自分ですよ。自分の責任。リミタリー帝国がここまで来れば自分が出るよ。これでいいんでしょ?」


「ええ。それでいいわ。これで安心ね」


 女性は陽気な雰囲気を醸し出し、対して黒ローブの男性は面倒くさそうに息を吐く。

 明暗が分かれたような形ではあるが、今度は黒ローブの男性の方が口を開いた。


「安心するのはまだ早いんじゃない? まだ終わったのは一か所だけ。他のところで問題が起こらないとも限らない。まずは残りのところでしっかりと行わないとね」


「それこそ杞憂ではないかしら? リミタリー帝国軍の戦力が私たちの予想よりも上だったのは確かよ。侮っていたのは間違いないわ。けれど、それはリミタリー帝国自体が軍事に重きを置いている国だからであって、他の周辺国はアフロディモン聖教国(ここ)よりも小国ばかりよ。言うなれば、最大を知れた訳だから、基準をリミタリー帝国としておけば問題ないんじゃない?」


「まっ、自分もそう思うけどね。一応、気を引き締めて、ということさ。だから、他のところにも自分が差し向けておくよ」


「これ見よがしに恩でも売るつもり? 元よりその予定でしょ?」


「そうだけど、予定より強いのを、という意味さ。少なくとも、炎魔獣(イフリート)もどきよりも強いのを、ね」


「そうね。それに、漸くここまできたのだから、これで破綻させる訳にはいかないわ」


「その通り。それに、リミタリー帝国軍がここに辿り着く前に、他のところは終わらせておかないとね。他の順番は気にしなくていいけれど、ここは最後だ。だから、火の海になるかもね……聖都(ここ)が」


「それは気にすること? どうでもいいわよ」


 女性は心底そう思っていると、表情と態度に出ている。

 黒ローブの男性は、まあ、そうだよね、と納得するように頷く。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「倒せそうな方を倒す」というかなり抽象的な表現を理解できるなら、「黒っぽい鎧を来た方を倒せ」のほうがよっぽど単純明快だと思いますが。 聖教国が白一色みたいであれば尚更のこと・・・・
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