自然は大事にしましょう
今は陽も落ち、夜。真っ暗。
半数近くに減ったとはいえ、元の人数が人数ということもって、アフロディモン聖教国軍を捕らえるのには時間がかかり、この場に留まることになった。
夜の移動は危険なので仕方ない。
よって、早めに休み、明日は陽が出ると同時に移動を始めるそうだ。
リミタリー帝国軍の三分の一くらいは、捕虜となったアフロディモン聖教国軍を連れて一度下がり、残りはこのまま聖都に向けて進軍開始である。
ちなみに、捕虜を連れて戻る方にも責任者は必要だろうと、「暗黒騎士団」からエルとナナンさんが選ばれた。
セカンがそう決めて、ファイとアスリーは、ふーん、とどうでも良さそうで、クフォラは拍手喝采で名采配だとセカンを褒める。
二人の世界を見なくて済むから嬉しいんだろうな。
まあ、それはクフォラだけではないと思う。
リミタリー帝国軍に合流して気付いたが、結構被害? は大きかった。
エルとナナンさんが二人の世界を作ると、何故かその周囲では兵士たちは雑草をむしり始めたり、空に向かって力強く叫んだり、何かを発散するように模擬戦を始めたり、と思い思いの行動を取り始めるのだ。
しかも、その光景を見た別の兵士たちは、悟りを開いたような表情を浮かべたり、すべてを許すような優しい表情を浮かべたり、といった感じで伝播していく。
そんなエルとナナンさんが戻る。
共に戻るリミタリー帝国軍の兵士たちが取った行動は二つに分かれた。
目に見えて肩を落とすか、目を閉じてゆっくりと見上げるか。
どちらも何かを諦めたかのような印象を受ける。
当のエルとナナンさんは、そんな周囲の状況も、一度戻ることも気にしていなかった。
いや、気にしていなかったのは、既に二人の世界に入っていたからだろう。
まあ、アフロディモン聖教国軍の方はそれでいいとして、やはり気になるのは教皇である。
今回の行動といい、その目的は定かではないため、現状では何もわからない。
わからないからこそ、不気味とも言える。
ただ、わからないことを情報不足のままでいくら考えても答えは出ず、このままではもんとして眠れなさそうなので、一旦忘れることにした。
明日も早いし、さっさと寝よう。
用意されたテントの中で横になり、テントの上に居るであろうアブさんに向けて「おやすみ」と言って目を閉じる。
……。
…………。
………………。
もんもんする。
ただ、このもんもんは、あの時――妙に色気のあった宿屋の女将さんの時とは違うもんもんな気がするが、この違いはなんだろうか。
前回は……こう、本能的な部分によって。
今回は……こう、理性的な部分によって。
……そんな気がする。
ただ、これは一つの解決と言えるだろう。
そして、解決は快感でもある。
これで漸く眠れ………………ない。
どうしたものか。
なんか長引きそう。
思考が次々と続いてしまい、妙に目が冴えてしまっている。
眠れる気がしない。
アブさんと話していれば、そのまま寝落ちできるだろうか?
「……アブさん」
声をかけると、天井から顔だけ出してきた。
「どうした?」
「アブさんの姿が見えている俺からすると、今のアブさんの姿を想像したら少し間抜けなように見えて笑いそうになるんだが、どうすればいい? 笑えばいいと思うか?」
「別に笑いたいなら笑えばいいと思うが、アルムがそのようなことを言うとは珍しい。眠れないのか?」
「まあな。妙に目が冴えて……いや、思考がとまらない感じだ」
「色々あったからな。何が気になっているのだ?」
「……なんだろうな? 教皇の思惑とかわからないことをあれこれと考えるのはやめたが……今気になるのはアレだな。合成炎魔獣が現れた時、アフロディモン聖教国軍の方は慌てふためいていた。今思うと変じゃないか? あれだけの大きさだし、現れればわかるだろう? なのに、慌て過ぎだったような」
「ふむ……確かなことは言えないが、たとえば合成炎魔獣五体がこの場に直接呼び出された――召喚されたのなら、あの慌てようも納得ではないか?」
「召喚された……所謂、召喚魔法ってヤツか?」
「うむ。希少な魔法であるため滅多に使い手は居ないが、契約した魔物を呼び出すことができる召喚魔法であれば可能だろう。某はそうだと思っているが、それでも気がかりは一つある。あの場にそれらしい者は居なかった。どうような召喚方法かは確認できなかったが、凄腕なのは確かだろう」
「アブさんがそう判断するなら、俺はそれを信じるよ。ただ、そうなると、これだけのことができるヤツが居るってことだが……」
その目的がやはりわからない。
結局はそこに行き着く。
ただ、話している間に少し気が落ち着いてきたのを感じる。
そのあとは雑談が続き――いつの間にか眠っていた。
―――
翌日。陽が出ると共に、捕虜となったアフロディモン聖教国軍を引き連れて、エルとナナンさんが率いるリミタリー帝国軍の一部が戻っていく。
それを見送ったあと、こちらも聖都に向けて出発した。




