一方に気を付けておくだけでは駄目な時がある
上空から、三特殊部隊が居るところに向けて火の雨を降らせる。
といっても、魔力操作が未だ杜撰……甘い俺。
予定以上の魔力を注いでしまい、本来なら火の矢のような雨が降るのだが、実際は炎の槍が降り注ぐことになった。
「逃げろ! 逃げろ!」
「地面に刺さってもしばらく残っているぞ!」
「なんだ、この炎! 水属性魔法でも中々消せないぞ!」
地上は阿鼻叫喚の嵐である。
想定とは違うが……良しとしよう。
ただ、それでも全滅には程遠い。
それに、ただ炎の槍を雨のように降り注いでも範囲外に出てしまえば意味がない。
なので、一度「火雨」をやめて、次は逃げ道を絶つ。
「『赤熱 道先を遮り 留め囲いて 此処に縫い付け閉ざす 炎檻』」
前に使った炎の檻で三特殊部隊を取り囲むように、今度は円形で発動。
一度使ったのだから、今度は大丈夫――とはならなかった。
前のように密度が高まって壁のように――ではなく、その逆。
妙に発光している、普通の檻よりも線の細い檻になってしまった。
正直言って脆そう。
パキッと折れそう。
壁になった時よりも魔力が注がれてしまったような気がしたが、その時よりも広範囲であったため、このような形になったのだろうか?
失敗したかも? と思ったのは俺だけではない。
「なんだこの檻? いや、檻か?」
「簡単に壊せそうだぜ!」
「俺の水属性魔法で消し尽くしてやるよ!」
さっきまで逃げ回っていた三特殊部隊から侮るような声が上がり、水属性魔法を持つ者が前に出て魔法を唱える。
水球や槍、剣といった形状の違いはあるが、水属性魔法が炎の檻? に向けて放たれ――白い煙がぶわっと溢れ出た。
火のヒストさんの記憶から、それが水蒸気だということがわかり――。
『ぎゃあああああっ! 熱い! 熱い! 熱い!』
近くに居たことでその水蒸気をもろに被った水属性魔法の使い手たちが一斉に悲鳴を上げて、自分に向けて水属性魔法を使い、被った部分を冷やし始める。
……いや、熱いってどういうことだ?
不思議に思ったのは俺だけではない。
「ちっ。何をやっていやがる。こんな細い檻すら壊せないのか。どけっ! 俺の魔法剣で叩き斬ってやる!」
体格のいい男性が前に出てきて、何やら光り輝いている大剣を上段に構える。
狙いはもちろん炎の檻? で、大剣を一気に振り下ろし――。
「ふんっ。この程度の檻……はあ!」
男性は驚きの声を上げる。
というのも、大剣が炎の檻? に触れたところから溶けてなくなっていたのだ。
地面には、どろっと溶けた大剣だったモノがある。
「ば、馬鹿な! この魔法剣はミスリルとアダマンタイトの合金製だぞ!」
三特殊部隊に戦慄が走った――ように見えた。
ふむ。状況から判断するに、普通はそうならないような素材の武器すら触れただけで溶けてしまうような超高温になっている、ということだろうか?
となると、先ほどのは水属性魔法を瞬時に打ち消した時に発生した水蒸気も、超高温の影響によって一瞬で高温の水蒸気となった……と解釈していいのか?
……よし。この状態を「熱光線の檻」と命名しよう。
なんてことを考えていると、先ほどまで炎の槍の雨と熱光線の檻でとまっていた、三特殊部隊からの攻撃が再び開始される。
まあ、俺がしたとわかっているし、熱光線の檻を解くためには俺を倒すしかない――と考えたんだろう。
先ほどよりも必死というか、攻撃の威力が高まった気がする。
当たっていないけど――と油断したところで、人が飛んできた。
いや、実際に飛んできた訳ではなく、別の人に押し上げてもらったようだ。
「死ねえ!」
手に持っていた剣で斬りかかってくるが……竜杖をずらしてひょいっと避ける。
「避けてんじぇねえ!」
と言いながら落ちていく人――に一声かける。
「気を付けないと当たるぞー!」
落ちていく人が気付いてなさそうなので、思いのほか勢いに乗っていて、このままだと落ちる前に熱光線の檻にぶつかるということを気付かせてやる。
飛んで逃げられないように、元々熱光線の檻は高めに現出させているのである。
落ちていく人は、熱光線の檻にぶつかる未来を想像したのだろう。
それは嫌だとでもいうように、熱光線の檻に対して逆に向かって空中を泳ぎ出す。
その効果はあったのか、熱光線の檻に向けての速度は緩んでいくが――多分、別のことに気付いていない。
落下速度はそのまま――というか加速していた。
落ちていく人が気付いた時には地面であり、熱光線の檻にはぶつからなかったが、大きな衝突音と共に地面にその人の形の穴ができる。
この一連の流れを見たからか、俺の居る空中まで飛んでこようとする人は現れなかった。
その分、矢と魔法の数が増えた気がする。
もちろん、それらには注意を向けていたので回避。
代わりに、もう一度炎の槍の雨を熱光線の檻の中に降らし、三特殊部隊の数をさらに減らしてから、俺は地上に向けて下りる。




