昨日の味方が今日は敵
とりあえず、数えてみて、一……二………………計五体の炎魔獣が、アフロディモン聖教国軍の中で暴れている。
少ない、と思わなくもないが、そこは魔物超大発生のボスモンスターとして出てくるヤツなので、この数でも充分脅威だろう。
あれは倒すのに苦労したな――と思い出して何度も頷く。
アフロディモン聖教国軍も討伐しようとしているのだが、今のところは上手くいっていない。
なんというか、大多数が未だに慌てふためいていて、対応が遅れている印象を受ける。
まあ、炎魔獣自体の強さも相当なので、対応を始めたとしても直ぐどうにかなるとは思わない。
「どうする? アルム」
「どうするって、手を貸すかどうか、か? いや、何もしない。これは戦争で、今の俺はリミタリー帝国軍の協力者であって、アフロディモン聖教国軍の味方ではない。報告するだけでいいんじゃないか? そこからの判断はリミタリー帝国軍に任せる」
「それはそ――む?」
アブさんが唸り、黙する。
炎魔獣をジッと見ているようだ。
「どうかしたか?」
「……アルムよ。どうやら、あれらはただの炎魔獣ではないようだ」
アブさんがそう言うので、改めて確認する。
……確かに、よく見ると何かが違う。
頭部は確かに獅子だ。炎も揺らめいているので炎魔獣のモノで間違いないが、体の方が違っていた。非常に引き締まって盛り上がっているが、その体は獅子ではなく山羊のようで、尻尾は蛇となっている。
しかも、それが自然な形という訳ではなく、継ぎ接ぎのような部分もあって、無理矢理くっ付けたような形なのだ。
「あれでは炎魔獣とは言えんな。……合成炎魔獣といったところか」
……合成炎魔獣か。
確かに、アブさんの言葉通りの存在だ。
「とりあえず、一度戻って報告するか」
リミタリー帝国軍の方に戻り、そのままセカンに見てきたこと――魔物に襲われて慌ただしくしていることに合わせて、現れた魔物は合成炎魔獣と呼べるような存在――それが五体であることも伝えた。
セカンたちはどうするか検討を始めて――その中でファイは笑みを浮かべて俺に声をかけてくる。
「よし! 行こうぜ!」
どこに? と問うまでもない。
答えは聞かなくてもわかる。
「セカンの許可が出たらな」
「それはそうだな。セカン! いいよな?」
「いいぞ」
「ほら、駄目って……いいのか?」
セカンよ。そんな簡単に許可を出すのはどうなんだろうか?
「ファイが先行するのはいつものことだが、そこにアルムが共に行ってくれるのなら、たとえ不利な状況になっても空から脱出できるから安心だ」
セカンよ。そんな簡単に俺を巻き込ませようとするのはどうなんだろうか?
いや、確かに協力するが、もう少しこう……他にない?
「というか、アフロディモン聖教国軍を助けるのか?」
「助ける? いや、このまま攻め上がる。いままで足止めされていたからな。それを打破する絶好の機会だ。ファイとアルムには先行してもらい、可能ならその合成炎魔獣の数を減らしておいてくれ」
「は? 俺とファイだけ?」
「別に他の者も希望するなら連れていってもいいが?」
セカンがそう言うので、アスリーを――視線を逸らされ、クフォラに――「さて、魔法使い部隊に指示を出してきますか」居なくなって、エルとナナンさんは――いいか。二人の世界に入られても困るし。
つまり、誰も付いて来ない、と。
ファイを押し付けられたような気分だ。
昨日、共に戦ったエルとアスリーとの間にあった友情は、俺の勘違いだったのだろうか。
ファイに引きずられながらテントの外に出て、ファイが竜杖を掴んだのを確認してから、アフロディモン聖教国軍のところまで飛んでいく。
アブさんは付いて来てくれているのだが、俺に対してどことなく同情的な雰囲気を醸し出しているので、それだけは心の救いだ。
付いて来てくれるだけで、ありがとう。
そして、アフロディモン聖教国軍の状況は――さらに酷くなっていた。
一応、五体の内の一体は倒されているのだが、残り四体でも充分な脅威であり、蹂躙されている。
合成炎魔獣の口から大きな炎が吐き出されているのだが、それがかなりの範囲に放射されていて、アフロディモン聖教国軍の方は既に三分の一くらいがやられていた。
これは合成炎魔獣が強過ぎるのか、それともアフロディモン聖教国軍が弱い……いや、慌てふためいていたから、それが影響しているのかもしれない。
「おお! 中々強そうじゃないか! いいな! 戦争なんかより、ああいうのや強いヤツを相手にしている方がよっぽど面白い!」
竜杖にぶら下がっている状態なので顔は見えないが、ファイは間違いなく笑顔だと思う。
「どうする? もう少し近付くか?」
「いいや、ここでいい!」
自ら手を放して落ちていくファイ。
丁度、下に合成炎魔獣が一体居るので、それが狙いかな?
俺もあとを追う。




